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孤高なぼっち魔王は、傍若無人なメイドに翻弄される  作者: 希来里星すぴの


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1/1

1 孤高なぼっち魔王は、ネーミングセンスが無いメイドに名付けられる

「なんだこいつは」

 不機嫌さを一切隠さずに冷たい声色で、魔王――真の名は秘密とされている――は履き捨てるように目の前の女性に対して呟く。

 魔族特有の魂をも凍らせるような声を聴くと常人は震え上がるのだが、目の前の女性は違った。

「むぅ。『こいつ』とは随分と酷い言い草ですね。『こちらの女性』とか言いようがあるでしょう? そんなんじゃモテませんよ。一生ぼっち確定ですよ??」と、平然と人差し指を魔王に向け、威風堂々と説教をする。

 果たしてどちらが無礼なのか、と女性の傍に立つローブに身を包んだ骸骨姿の魔物――魔王の補佐的存在のリッチ――はそう思っていたがあえて口にはしなかった。

 

 ここは魔界の地。強大な魔力を有する魔王が住まう荘厳な城の玉座の間。魔界、すなわち人間は一切生息していない地。現に魔王も魔族で、側近のリッチも言うに及ばず魔物の類だ。

 それなのに、何故魔王の眼前に人間の女性が立っているのかというと、時間を少し遡る。

 

 リッチが妙な気配を察知して巡回をしていた。そして魔城の庭を徘徊していた女性を発見したのだ。

 骸骨の魔物であるリッチと相対しても女性は一切動じなかった。それどころか「むむ? モンスターさんですか? ということは、ここは私の居た世界『エーデル』ではないようですね」などと呟いていた。

 彼女と言葉を交わしたリッチは「この女性には何を言っても無駄だ」という事をすでに悟っていた。

 異世界人と会話をしているような感覚。

 それは正しかった。何故なら女性は異世界転移を経てこちらの世界にたどり着いてきたからだ。

 それを裏付けるような、頭には白いカチューシャが装着されていて、胸元を大きく開け丈の短いひらひらとしたスカートにエプロンを着用という服装はこちらの世界では見た事がない。女性曰く「これは由緒正しいメイド服なんですよ。えっへん」との事だ。

 この世界にもメイド――つまりはこちらの世界で言う所の侍女――は存在するが、肌の露出は無い。丈の長いスカートを着用するのが普通だ。

 女性が着用してる布の面積が少ない服装の方が動きやすいのだろうが、いかんせん体の線が出過ぎている。こんな破廉恥な服装を侍女にさせるとはどんな世界なのだ、とリッチは思った。


 異世界転移という話は荒唐無稽だが、この世界「ドゥーデルフォード」の長い歴史では数度確認されている。

 そして異世界から転移してきた勇者と呼ばれる存在が魔王に戦闘を挑んだこともある。曰く「神に依頼されたから。どれくらいの日数で魔王を倒すのか見てみたい」と言われたのだという。暇を持て余した神々の遊び。迷惑な話だ。

 だがそれは過去の話。魔王を何度討伐してもすぐにまた新たな魔王が生まれる。延々と続くその戦いに疲れ果てた双方は、魔王は人間に関与しない、人間も魔王がそれを守る限り討伐しないという「不可侵条約」を結んだ。

 神の新たな関与を恐れた人間たちだったが、意外にもそれ以来は異世界転移を経た「勇者」は発生しなくなった。神もその遊びに飽きたのだろう。

 

 そして現に今の魔王自体は人間には何の関心も抱かず、魔物をけしかけたことすらない。

 だが、ここ最近は魔王だというだけで彼の命を狙ってくる「自称勇者」の存在も確認されている。平穏な時代が経ちすぎて、過去の不可侵条約の成り立ちも知らない無知な者たちが増えてきたようだ。自分たちを特別な存在・正義だと過信し、魔物・魔族、ひいては彼らを統べる魔王を一方的に「悪」だと断じている。

 それに伴い「やはり人間は愚かで排除すべき敵だ」というのが彼ら魔族の共通の認識に変化してきている。


 魔王の命を狙う人間たちはまずここまでたどり着けない。この魔城を護るように連なる深く暗い森には獰猛な魔物が生息している。並大抵の冒険者ではまずそこを突破できない。命を落とすだけだ。

 しかし、最近は森へと侵入、その様子を魔道具のカメラで撮影して人々の関心を得て自分の承認欲求を満たそうという者が目立ち始めた。

 実に迷惑な話だ。どちらかというと被害者は不法侵入された魔族サイドだ。

 民を管理する機関――聖府せいふ――にしてみても、全ての人間の管理が難しいようで現状は「命を落としても自己責任」として、その問題は実質放置されている。


「女、何故我の城の敷地に居た。どこから侵入した?」

 そもそもがこんな軽装で武器も持たない人間の女性が単身たどり着ける場所ではない。

「と言われても、私もよく覚えてないんですよね~。気が付いたらここに居たんですよ。どうやら私は異世界転移しやすい特性みたいなんですよね。もっとも純粋な異世界転移は最初の一回で、そこからは『世界の層を超える』というか、瞬間移動した感覚なんですけど……」と、人差し指を額に当てなにやら思案している。

 その発言の「今回は異世界転移ではない」というのは、まるで意味が分からないが魔王たちを気にかけるわけでもなく女性はひとしきり頭を悩ませている。


 しばらくの間そうしていたが、何かを思い出したように胸の前で手を組み叫んだ。

「どうしましょう!! 私が帰らないとあるじ様が寂しがって泣いちゃいますよ」

「……主様、とは?」

 興味は無かったが、とりあえずこの女性の事情は聴いておかなければならない。ありえないとは思うが、迷い人のふりをした刺客でないとは言い切れない。

 すると「よくぞ聴いてくれた」とばかりに女は腰に手をあて胸を張る。

「主様は公爵令嬢なのですけど、色々とあって国を乗っ取ろうと考えた方です。無能な王太子にこの国を任せるわけにはいかないというのが信条です。逆らう者を容赦なく処する、ざんぎゃくひどーな方だと大評判ですよ」

 さらっとメイドは言うが「国を乗っ取ろうと考えた」というだけでこの主従コンビの危なさはそれだけで通じた。面倒な者が来たな、と魔王とリッチは心底感じた。関わってはいけない人間たちだ。

 魔族よりも人間の方が空恐ろしい。

 それに話を聴く限り、メイドの1人が失踪しただけで悲しがり泣くような人物ではあるまい。


「それにしても、『女』と呼ばれ方はちょっと不便ですねぇ。……うーん、じゃあ私の事は『ミヤビ』とお呼びください。そしてあなた達の名前も教えてくださいよ。ねっ!」

 ミヤビの発言に、魔王とリッチは顔を見合わせる。「言いたくない」という空気が場を支配する。魔族にとっては「真の名」を軽々しく明かすことはできない。

 そんな当たり前の事すら異世界人であるミヤビは知らないようだ。

「貴様に名乗る名などない」

 素っ気なく魔王はそう答える。恐らくはこの世界の住人ではないミヤビに「名前に関する制約」は説明しても通じまい。

「え~。自己紹介できないだなんてダメダメですよ。やっぱり一生ぼっち生活まっしぐらですよ」

 無遠慮なその発言に対して、目の前の魔王が不快そうに表情をゆがめるが、ミヤビは全然意に介さない。

「うーん。じゃあ、あなたは中ボス。あなたはマオーさんとお呼びしますね」とリッチと魔王、それぞれを指を指しながら言う。

「……中ボス?」

「……マオーさん??」


 安直な命名をされた2人はテレパシーを使わないでも、互いに「このメイド、ネーミングセンスも皆無だな」と意志が通じ合った。

挿絵(By みてみん)

※AI生成イラストです

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