25 ごめんなさいの理由
林間学校のメインイベントの1つであるキャンプファイヤーも、もう残り時間が少なかった。
まだまだ興奮冷めない同級生たちを避けて、改めて話がしたかった俺と美亜は反対側の位置にあるひっそりとしたベンチで話すことにした。
ベンチに並んで座ると、ゲコゲコとどこからと蛙の鳴き声が聞こえて来た。それにジジ…と導線についた火が爆ぜるような虫の音が重なって、草木が風に揺れる。こんな機会にしか聞けない夜の森の合唱会だった。
河川敷に訪れてはよく黄昏れる男なので、俺はこういうのは落ち着いていて好きだった。
俺は口火を切った。
「俺から色々聞きたいことはあるんだけどさ」
「そ、そそ、そうだよ、ね」
美亜がそわそわして落ち着かなそうに、俺と反対側の方向を向いていた。頰が赤かった。
「どうした?」
「へっ、や、きゅ、急に反動が……きて!なんか色々アドレナリンが出すぎてフワフワしてさっきまで自分が自分じゃないみたいな発言と行動ばかりしちゃったから、なんか急に恥ずかしくなって…!!」
「え、今来たの?」
「今来たのぉ……」
「今来ちゃったか」
「だから恥ずかしくて、伊織くんの顔見れない…」
「ええ?」
それは困ったぞ。さっきまで俺に自分から抱きついていた人とは到底思えない。
俺はおかしくって、つい笑った。
「まあいいけど、……そのまあ、あのさ」
「う、うん」
人のこと言えないなと思った。俺も結構、さっきの反動がきていた。美亜がこっちを向いてたら、伊織くん目が合わないね、なんてくすくす笑われそうだった。
「俺たち、付き合うってことでいいんだよな?」
「…………」
勇気を出したのに、返事が返ってこない。
もうちょっと待ってみた。
返ってこない。
おいコラ、美亜ちゃん!??
待て待て待て、この幼馴染のせいでまた俺の脳がやられる予感がする……!!
「え?お、俺付き合ってって言ったよな……?」
「い、言った!言ってました!伊織くん!」
「で、オッケー…した、よね……?」
「う、…うん…!」
美亜はそのような事実はありましたと、素直にこくこくと頷いた。
良かった、俺が先走ったのかと不安になった。
「俺たち付き合ってるってことでいい、よな?」
「…………」
なあ嘘だろ?
…誰かぁぁ、嘘だと言ってくれ。
「おい、美亜…?」
「…………そ、っ、それについては、そそ、その……ですねぇ……」
美亜が口の先を窄めてもごもごさせたかと思うと、ボソッと呟いた。
「保留に…させていただけないかな〜…なんて……」
「美亜」
俺は笑った。
一度目は昨日の夜、ニ度目はたった今。
仏の顔も三度まで。如月伊織は仏ではないので、好きな女にお預けくらって耐えられるのは二度目まで。
三度目はない。
ヒュー、と口笛を吹いて明後日を見る美亜に、俺はパキパキポキポキと指の体操をした。
「さあー、まだ弱いとこ変わってないかなー」
「まま待って伊織くん、まままま待ってぇ!」
「何だ?」
「話しますので、くすぐりはおやめください。ほんとに弱いのっ、私変な声が出ちゃうから……!」
「え。聞きたい」
変な声とか、言われたら。
聞きたいよな。
「出ない出ない出ない出ない!」
「あ、出ないならオッケーてことかな?」
「出る出る出る出ますんです!」
「美亜の変な声聞きたいからいいですか?」
「ふりだしに戻った!私どうしたらいいの!」
「冗談だよ」
冗談と書いて、マジと読むこともある。ここテスト出ます。
コロコロコロ転がされて、かわいいこった。
と久しぶりにじゃれてる場合ではなかった。真面目な話に戻そう。
「それで、俺と付き合うのを保留したいっていうのは一体どういう了見で?」
「それは………」
美亜の顔が曇った。
目を伏せて、俺に申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい、伊織くん」
「何の謝罪……」
「私ね」
美亜が顔を上げた。俺を黒曜石の瞳でじっと捉えて、真っ直ぐに見つめた。
「昨日の夜、伊織くんに言われてから、ずっと考えてた。伊織くん言ってたよね、中学の時に私の話を聞いてた、昔の私に恋愛対象じゃないって言われたって」
ドキリとした。
それはずっと俺の中で足枷になっていた言葉だった。
恋愛対象になれないのに、そばに居ても辛いだけだって、俺が美亜から距離を置くきっかけにもなった。
「だから、私…伊織くんにすごく申し訳なくて」
「俺は……別に、もう昔のことだし」
心からの言葉ではなかったが、まるきり嘘ではなかった。
今の美亜が俺を恋愛的な意味で好いてくれているならば、俺は過去の美亜の発言を咎めるつもりは全然なかった。
誰だって気持ちの1つや2つ変わることくらい、いくらでもあるだろう。
「違うの」
美亜は首を横にふった。
「私は……ずっと伊織くんのこと、好きだった。それは中学時代も含めてだよ」
「え、じゃあ……」
───『私、伊織くんのこと、そういう目で見たこと、全然ないから…!伊織くんは恋愛対象とかじゃなくて、あの、すごく素敵な友達!恋愛対象じゃないから!』
中学の時、友達に俺と付き合っているのかと勘繰られて必死に否定していたあの美亜は、一体どういう意図で?
ただの照れ隠しだったか?
「きちんと話させてほしいの。伊織くんが聞いていた、あの日の私の発言について。説明した上で……ちゃんと謝らせてほしい」
美亜はそう言って、過去の答え合わせを始めた───。
今のところ美亜のやらかし度が大きすぎる。
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第2章ももう終わりかけ、残るは最終章です。




