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【青春限定恋愛】〜未来からやって来た娘が、諦めたはずの幼馴染との恋を応援してくる〜  作者: 夜亜
第二章 終わらせたくない初恋

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23 君を見ていること。それが過去の俺には出来なかったことで、未来を変えるためのことだ。


どうして幼馴染だった美亜を好きになったのかと言われると、別にドラマみたいな劇的なエピソードがあるわけではない。


明確にいつから好きだったのかと聞かれたら、気付いたら好きだった……と口にすると思う。


そもそも捻くれている俺にとっては、恋愛はある日突然雷みたいに落ちるものでもなくて、好意の積み重ねだった。


家は近所で、小さい頃から仲良くしていて。

おっとりしていて抜けているのに、妙なところで意思の固いような、君はそんな女の子だったよ。


俺の名前を呼ぶ時、嬉しそうだなとか。


クラス替えで緊張している様子だったのに、俺が一緒だって分かった瞬間、笑顔でこっちに駆け寄ってきてくれたとか。


伊織くんと居るのが一番楽しいよ、って何の躊躇いもなく言い切っちゃうところとか。


君の嘘偽りない、ストレートな言葉が全部俺に沁みて、勝手に心の奥深くに入り込んでいった。


他には見せない、俺にだけ見せてくれる笑顔が、嬉しくてさ。

俺も知らない俺のいいところ、見つけてくれて。


君の隣は、心地が良かった。


もう好きだったんだよ、気付いた時には。



だから、俺は……中学のあの日、君が俺と同じ気持ちでなかったと知って、すごく怖かった。多分、俺は心のどこかでは君が同じ気持ちでいてくれてるんじゃないかと思ってたから。


友達の前で俺との仲を必死に否定する君を見て、頑張る気力を起こすより、自分が傷つきたくなくて逃げた臆病者だ俺は。

そんな俺が元々君に好かれるわけがないんだよな、と何度も自分で自分を嘲笑って、そのたんびに自分が嫌になった。


今だってそうだ。

笹丘が美亜に公開告白して、周りが盛り上がって。もしかしたらその勢いで2人がキスしたかもって知ってしまって、もう全部投げ出したいくらい嫌になった。

自分の昨日の告白じみた言葉が失敗したから、笹丘と比較しては、余計に苦しくなった。


俺は駄目だった。

俺は、美亜にごめんと泣きながら断られた。

───でも笹丘は違うんだなって。


泣きたいのに、なんだか自分がみじめで笑えた。吐息にも近い失笑が、自分の口からこぼれた。


「俺じゃ駄目だ……駄目、なんだよなぁ……」


騒がしいキャンプファイヤーの場から離れた場所で、俺はひっそりとうずくまった。

もうやめようこんな恋、今度こそ。

幼馴染を想うのは、もう。

不毛な感情は要らない。


俺は………


───『いいなあ、このおひめさま〜!』


どうしてか、唐突に昔の美亜との会話が浮かんだ。


まだ5歳かそこらの、記憶の中の幼い彼女だ。今は伸ばしてるストレートを、まだ2つでくるんと結んでいた幼稚園児の彼女だ。

お気に入りの絵本を広げて、彼女はどうしてか羨ましがっていた。

俺は近付いて尋ねた。


『みあちゃん、どうしたの』

『う〜ん、うふふ。あのねー、このおひめさまねー、おうじさまがむかえにきてくれて、めんとだしだったんだけどね〜』

『みあちゃん、めでたし。麺と出汁はうどん』

『みあ、おうどんすきだよー。いおりくんもすきだよねー』


にこにこと記憶の中の幼い美亜が笑った。

だいぶ今よりお茶目でマイペースな奴だったな彼女、そういや。


美亜は、パラリとページをめくった。そこには、高い塔の上から助けを求める姫と、地上から彼女を見上げる王子のイラストが描かれている。

そして、そんな2人を引き裂こうとする老婆の姿も描かれていた。美亜は、姫の方を指さした。


『おひめさまはね、わるい魔女さんに()()のうえでとじこめられてたの。でも、おうじさまはそのわるい魔女さんたおして、おひめさま助けたのよー』

『へぇ、ハッピーエンドじゃん』

『そーなの』


美亜は俺の返事にこくこく頷いて、「でもね」と続けた。


『もしおうじさまが助けにこなかったら、おひめさまはどーなってたのって、みあこれ読んで思ったの。おひめさまかわいそう……』

『ああー……』


俺はこのとき頭の中で「いや幼児向けの絵本だしそんなバッドエンドないだろ」とかいうメタ発言をしていた生意気なガキだったわけだが、そんな俺とは正反対に美亜は真剣に物語の世界を考えていた。

美亜は次のページを開いた。悪い魔女は倒されて、姫と王子が無事に結ばれて、結婚式を挙げている。

美亜は憧れのこもった眼差しで見つめていた。


『だからね〜、このご本のおひめさまいいなって思ったの。ピンチに助けにきてくれるおうじさまって、すてきー、みあもほしい〜』

『それは……』


───じゃあ、ぼくがみあちゃんのこと助けるよ。


と言いかけて、その時の幼かった俺はやっぱりやめておこうと、結局言わなかった。

自分でそんなこと口にするのは、恥ずかしかったのだ。


美亜はパタンと絵本を閉じると、それから、じぃーと俺を見つめた。


『いおりくんは〜』

『ぼくは?』


聞き返すと、彼女はえへへと笑った。照れ臭そうに、持っていた絵本で顔を少し隠した。俺を黒曜石の瞳でまっすぐと見つめて、彼女はもう一度微笑んだ。


『みあのこと、ちゃあーんと見ててね』


ドキッとしたのを覚えている。


『みあがどーしてもピンチになったら、みあ、いおりくんにたすけてーってする。そのときは、いおりくん、みあのおうじさましてくれる……?』


高校生になった今なら、きっと羞恥心が勝って、美亜は絶対に言いそうにないお願いだった。

でもそんなお願いが、当時の自分はドキドキしたし、今も思い出すと切なくて恋しくなった。


『いいよ』とその時の俺は返したと思う。


美亜は嬉しそうに笑って、『いおりくんがピンチのときはわたし助けるからね!ぴんちのあいずしてね!』と全然ない腕の力こぶを披露していた。


だから、俺は美亜がもし窮地に陥ったときには真っ先に助けようと、そのときは思って────


その回想が終わると、俺は困惑した。

どうして今、

よりにもよって今……こんな昔の約束を思い出してしまったんだろう。


この物語は美亜と笹倉が結ばれて、ハッピーエンドで終わるんだ。俺は邪魔者、良くて当て馬だ。


────本当に?


心のどこかで、俺が俺に問いかけた。


俺はきちんと七瀬美亜を理解できているのだろうか?

彼女がどんな思いで、どんな気持ちで。

俺は自分の思い込みで、これまでの彼女の行動の解釈を捻じ曲げてしまってはいなかっただろうか?


林間学校の班に俺を誘ったのも、花音を見て俺との関係性を気にしていたのも、彼女がまた俺と話すきっかけを探していたのも───、


だんだんと疎遠になろうとした俺を高校に入ってからずっとどこか淋しそうに見ていたのも。


「…駄目だ……勘違いすんな俺……」

そうだ、それで何度も痛い目を見たじゃないか。

一度目は中学のときに、二度目はたった昨日に。

彼女は俺をずっと恋愛的な意味でフリつづけてるじゃないか。


なのに……


なのに……!


俺は地面を手で叩いて、足で蹴った。

身体は勝手に動いてしまっていた。

気がついたら俺は、ついさっき自分から背を向けた景色に向かって、走り出していた。


「あー!馬鹿だろ、俺……っ、んとに!」


こんなの馬鹿としか言いようがない。

何をやってんだ、と呆れてる自分が容易に浮かぶ。


だけど、たまには頭の中でグチグチネチネチ考えてないで、思いっきり頭の中空っぽにして馬鹿みたいなことしてみたっていいと思った。


「パパ!」


未来の娘の花音が俺を呼んだ。キャンプファイヤーの間、ずっとどこかで過去の父親を見守っていたんだろう。

花音の顔はどうしてか青白かった。


「どうした花音」

「パパ待って、ちょっと話したいことがある──って、いや速っ!?ちょちょ、止まってよ!?」

「ごめん、今馬鹿になってるから後でもいいか!?」

「はい!?意味分かんないだけど!?何急に覚醒してんのっ!?いつも枯れた(つら)してんのに今爽やかになってるぅ、作画変わった!?」

「お前それ悪口!」


だけどさすが娘というべきか、走り出した俺にひととおり驚いてから、俺が何をしようとしてるのか理解したらしい。すぐに元気印の花音らしくニカッと笑った。


「なーるほど、パパがどんな馬鹿になりたいのか花音ちゃんはわかっちゃったぞー」

「以心伝心したか、さすが我が娘」

「うんーでも、これでパパと思考回路似てるとか言わのは嫌だからやめてね」

「悪口!けっこうな悪口!」


でも俺はまだお前の父親じゃなくて高校生だから、実質ノーダメージよ。未来での俺の反応は知らん。

花音は笑い飛ばして、どーんと俺の背中を押した。


「じゃあ私からのとても重大な話はまた後でする!だから今は行っちゃえーパパ!やってこい、男見せろー!」

「ありがと!」


娘から鼓舞されて、これから戦いに身を投じる立場から言えば、これ以上ない最高の送り出しだった。


俺はキャンプファイヤーを取り囲んで1組の男女の告白の行く末を見送る生徒たちのもとへと、飛び込んでいった。

やぐらの上には、美亜と笹倉がいる。

人をかき分けるようにして進む俺に、いきなり現れたことで周りは驚いていた。


俺がやぐらへと昇る階段に近づいているのを見て、生徒たちはどよめいた。

何故ならそこはたった今、同学年の生徒たち全員が見届けている、聖域化された告白現場へ続く階段だった。

すなわち、美亜と笹倉の間に立ち入ることを意味していたからだ。


階段を駆け上がって、俺はいよいよ本命の舞台にたどり着いた。ここまで全速力で走ってきたから、息も上がって、身体が熱かった。

俺の姿を認めた笹倉は双眸を見開き、美亜は目を緩めた。


如月(きさらぎ)っ!」

「伊織くん…!」


やぐらの上からの景色は、壮観だった。

キャンプファイヤーの火をぐるっと囲んで、埋め尽くす人、人、人の山。

証人は、同学年の400人ほど。


改めてこんな大勢の前だとちょっとひるんだ。

こんなに派手で、地味な俺らしからぬ勇気を披露する羽目になるなんて、ついさっきまでは考えにも及んでいなかった。


ふと美亜と目が合った。

美亜は俺をあの大きな瞳いっぱいに見上げて、口を静かに動かした。周りのどよめきのせいで、その声はかき消されてしまったけれど、俺は確かに受け取った。


た、す、け、て。


───『みあがどーしてもピンチになったら、みあ、いおりくんにたすけてーってする。そのときは、いおりくん、みあのおうじさましてくれる……?』


何で"未来の俺"は、気づいてやれなかったのだろう。

恐らく"未来の俺"は、美亜と笹倉がお似合いの2人だと信じて疑わなかったに違いない。

美亜が笹倉からの告白に喜んでいると。


このときに美亜の声に気づかなかったから。

だから、未来の俺はきっと美亜と結ばれなかったんだ。


でも、"今の俺"は、確かに受け取ったよ。

君の声、美亜の声、ちゃんと気づけた。


大きく息を吸った。

ちょっと(けむ)ったい匂いとともに、肺が空気で満たされた。


「俺は……俺はぁ!」


今はただ、何も考えないで、思いっきり馬鹿になりたい。


「俺はっ、七瀬美亜が好きだぁー!!!俺とっ、付き合ってくださぁぁぁい!!!」


一斉に同級生たちがざわめいた。それぞれ顔を見合わせて、驚愕の声を上げた。なにせ彼らにとって俺は、笹倉の告白に割って入ってきた予想だにしなかった乱入者だ。


頰が熱くなる。喉が焼けるように痛かった。

な。ほんと、馬鹿だろ。ありえないだろマジで。

こんな大勢の前で。

こんなキャラじゃ絶対ないのに。

何をやってんだと心底思う。


だけどこの言葉が、君に届けばいいなと願ってしまったから。


でも一番の馬鹿は、…俺は思うんだ。


「伊織くん!!」


衝撃があった。

どっ、と身体がよろめいて俺はあやうく後退しそうになった。あまりの勢いのよさに、俺は彼女を抱き止めるので、精一杯だった。


美亜が俺に抱きついていた。


「伊織くん…」


俺の背中に回された彼女の手がしがみつくように、ぎゅっと俺の身体に自分の身体を近づけて、その存在感と体温を俺にすべて刻み込んだ。


彼女の目から大粒の涙がこぼれた。


「ずっと……ずっと、待ってたよ……」


彼女は微笑んだ。

俺より先に告白した男には目もくれず、俺だけを見て、彼女は俺が知る彼女との記憶の中で一番の笑顔を咲かせた。


彼女がすぅぅと思いっきり息を吸って、そう、こう言った。


「私もっ如月伊織くんが大好きです!ずーっと、大好きだったよ!」


400人の同級生の前で、彼らが動揺してるのなんてまるで知ったこっちゃないみたいに、大きな声で宣言した七瀬美亜が、よほど俺より馬鹿だった。


馬鹿だったから、…、


何故だか、俺も気付けば涙を流していた。


なあ未来の俺、これでお前もちょっとは報われたかな?

…なんて。






ついに結ばれた2人。

これで過去は変わったけれど───


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