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22 逃避

告白した笹丘。

その返事を囁いた美亜。

それに笑った笹丘。

起こった周りからのキスコール。


そして、キャンプファイヤーの火が突如として消えて、その間の2人の行動は誰にも観測されていない。


火が再びついた時、笹丘は笑顔を浮かべて、群衆に向かってピースした。


直前の、集団心理でおかしくなっているとしか思えない、執拗なまでの生徒たちの熱狂のキスコールに対して、笹丘はピースをしてるのだ。

その意味は、推して測るべきだろう。


────笹丘が、美亜にキスした?


嘘だ………だって、


だって……


未来からやって来た花音は、林間学校で美亜が笹丘の告白は断るって言ってたんだぞ?


大幅に本来のシナリオを変化させるようなイベントは起きてない。

美亜の気持ちがいきなり笹丘に傾くとは思えない。


だけどじゃあ何で笹丘はさっきから、美亜が小声で言った「何か」に対して笑顔になったり、灯りが復旧した途端に群衆にピースしたんだ?


そんなの、美亜が告白を受け入れたようにしか見えない……


笹丘の様子からキスが成功したと思い込んで、笹丘と美亜を取り囲む生徒たちは狂ったようにお祭り騒ぎだ。

恋愛ドラマのワンシーンか何かと思って、思春期特有の熱に浮かされている。雄叫びと、歓喜の声で形成された集団の中に、冷静さなどというのはかけらもない。


そんな集団が怖くて、俺は後ずさった。


ただでさえ一人、遠くから眺めていた笹丘と美亜の姿が、さらに遠のいていく。

元々視力はいい方ではないのに眼鏡もコンタクトもつけてないので、もう2人の顔の判別も難しい位置だった。


後ずさった。


また、一歩。


ずざり、と石と土が靴の裏で踏み鳴らされて、後ろに下がる。


カンカンカンカン、と頭の中で警鐘が激しくうち鳴った。電車が通り過ぎる前の踏み切りに取り残されたみたいな恐怖に、俺は足がすくんだ。


「どういうことだよ、花音……話と違う……」


散々俺に駄目出しをしては、たまにアドバイスをし、かと思ったらただ過去の世界に旅行気分で楽しんでいる、未来の娘の名を、俺はつい呼んだ。

ひどい詐欺にでも遭った気分だ。


俺は振り返った。

花音は俺を見守る予定だと言っていたから、この会場のどこかには居るはず。

しかし、あいにくと見当たらない。

ちくしょう、と思わず口から溢れた。


なあ、花音……


教えてくれ……


これは、どこまでが本来の未来、花音がやってきた世界線の未来で、どこからが違うシナリオなんだよ……!


俺がたった今見ているこの光景は、未来の俺も経験してきた過去なのか?


それとも、どこかで分岐点があって、過去が変わり始めているのか?


分からない。


「笹丘〜!もっかい行け!もーいっかい!」

「そうだー!停電の時にさっさと済ますなんて、ひよってんのか〜!」

「男見せろぉ!」


何で、また生徒たちはあんなこと言ってるんだよ。

他人のキス見て、なんかアイツらは嬉しいのか。


やめてくれ………


やめてくれ!


また、後ずさった。


怖い。


嫌だ。


もう考えるのも嫌で、ここに居るのも嫌だ。

笹丘と美亜のこと、見たくない。


「もう、嫌だ……」


こんな苦しい思いをしたくないから。


傷つけきたくなかったから。


だから、俺はずっと前に、美亜を好きな気持ちに蓋をしていたのに。


予防線張って、それ以上傷つかないように、自分の気持ちに鈍感になろうとしていた。


ぬるま湯みたいな自傷行為は、よほど何倍も、何十倍もマシだったんだ。


こんな思いをするくらいなら────


視界が霞んだ。


言うな、ともう一人の自分が、その言葉を必死に押しとどめようとする。


言ったら、全部否定してしまう。

ここ最近の自分の行動も、花音の応援も、過去を後悔している未来の俺の思いも。


だけど、そんなのは無理だったんだ。

言わずにいられる冷静な頭なんて、あれば。


俺は、そもそも中学時代に美亜から離れる選択肢なんて取らなかったはずだ。


俺はどうしようもなく感情に振り回されるガキで、そして理不尽な感情に振り回されるのが嫌な、我が身かわいさに保身に走る人間なんだ………


俺はずるずるとその場にへたり込んだ。

遠くに見える同級生たちの輪も、揺れる陽炎も、やぐらの上のあの2人も。

自分だけが明らかに異物で、だからこんなに苦しいのは、誰かを恨みでもしたくなった。

神でも、恨みたかった。


「俺………」


言うなよ。


なあ。言うなよぉ………


俺は、呻いた。俺は、まるで見たくないものを仕舞い込むように、自分の顔を両手で覆った。


俺は………


「もう一度、美亜を好きな気持ちなんて、思い出さなければ良かった………」


俺は、臆病で、ちっぽけで。

自分も、他の誰かの思いも、台無しにするような、そんな言葉を自分本位に口にする自分が、大嫌いだ。



だから、こんなのはただの天罰なのかもしれない。






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