五話:意外な組み合わせ
翌日、再び軍の訓練所に集まった新兵──初裂徒たちには、緊張した空気が漂っていた。
なぜなら、今日がパートナー決めの日だから。
裂光軍では、基本的に男女二人一組の体制として、互いを補いながら戦うのが通例だ。
「はぁ……誰と組むことになるんだろう」
美月がそわそわと落ち着かない無い様子で周りを見渡していた。
「自由に組めるわけじゃないものね」
「そうそう。昨日の実技試験での戦い方を見て決められるんだとか」
そんな話をしていると、壇上に一人の男性が立った。
「これより、パートナーの発表を行う。昨日の実技試験の結果を元に、相性の良い者同士で組み合わせを決定した。発表された者から中央広場へと移動しろ」
初裂徒達は息を飲む。
無理もない。なぜなら、今日発表されるパートナーと生涯戦うことになるから。
「──次、天城暁斗、神楽天華」
返事をして、中央広場へと移動する。
知らない名前だ。ちらりと後ろを見たけど、遠くて顔はよく見えない。
「次は──」
指示に従って移動すると、すでに呼ばれた数名が待機しており、隣に並んで各々が話し合っていた。
私のパートナーは……と、後ろを振り向くと、そこに立っていたのは──
「なんでお前が……」
「こっちが言いたいんだけど……!」
燃えるような真紅の髪に、深い赤色の瞳を持つ──実技試験で最初に出会った男だった。
男……暁斗は軽く肩をすくめて、笑いながら言う。
「まあ、決まった以上やるしかないな」
「……ええ、よろしく。あの時のことは、お互い水に流しましょう」
「ああ。でも、仲間になるってことなら、心強いかもな!」
にこやかに私を見る暁斗は、最初のイメージよりもずっとフレンドリーに感じた。
「まあ、同感ね。改めて、私は神楽天華。よろしく」
「ああ。俺は天城暁斗だ。よろしくな」
私は改めて暁斗の顔を見つめた。意外と端正な顔立ちで、髪の毛先は少し無造作に跳ねている。こうして近くで見ると、印象が少し違う。
「パートナーになったからには、ちゃんと連携していこうぜ?」
「もちろん。足、引っ張らないように頑張るわ」
「いや、こっちのセリフかもな。昨日も中々強かったし」
「そっちこそ、余裕そうだったじゃない」
言い合いながらも、暁斗とは何となく気が合いそうだ。
ふと、周りを見渡すと他の初裂徒たちも集まってきて、パートナーと話していた。これから共に戦うんだと、実感がじわじわと湧いてくる。
暁斗が私の肩を軽く叩いて、明るく笑った。
「今日から頑張ろうな。良いパートナーになれるよう!」
「……良いパートナー、ね」
その言葉に、私は小さく笑みをこぼした。
◇
「あっ! 天華いたー!」
元気な声が響き渡る。
後ろを振り向くと、こちらに駆け寄って来たのはやっぱり美月だった。その後ろから男の子もついて来ている。
「美月! どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ!パートナー、決まったでしょ?もしかして、隣の人?」
美月は興味津々といった様子で、私と隣の暁斗を交互に見た。
「ええ、そうよ」
「俺は天城暁斗だ。よろしくな」
「初めまして、私は天音美月! 天華のパートナーになったってことは、これから話す機会も増えると思うから、よろしくね!」
美月はいつものようにすぐに打ち解けることが出来たようだ。
それより、美月の隣りにいる男の子が気になる。黒髪のさっぱりとしたヘアスタイルで、瞳は落ち着いたダークグレー。全体的にすっきりとした端正な顔立ちだ。
「ところで……隣の人は?美月のパートナーかしら」
「うん!そうだよ」
「……俺は如月颯太。よろしく」
雰囲気と話し方からして、颯太くんは美月と真反対で、少し口数が少ないタイプのよう。
「誰とパートナーになるかなぁって不安だったけど、颯太くんで良かった!」
美月はぱあっと表情を明るくして、笑顔で言った。
「美月、知り合いだったの?」
「うん! 小さい頃に仲が良くて……幼馴染? みたいな感じ」
「……一方的に話しかけられてただけだったけどな」
後ろでぼそっと颯太くんが呟く。
でも、幼い頃からの仲は、本当のようだ。
「知らなかったな。美月に幼馴染がいたなんて」
「まあ、最近会ってなかったからね。まさか入隊してたなんて、知らなかった!」
美月はにこにこと話していて、颯太くんのことがどれだけ大切か、少し伝わってくる。
「ところで……暁斗くんはどんな人なの?」
「おい、美月……」
急な問いに颯太くんが呆れたように美月をたしなめるが、私は上手くやれそうということを伝えた。
「それに、暁斗も強いみたいだし」
「まあ、そこそこかな」
「そんなことないでしょう? 実際、昨日の試験でも凄かったし」
私はつい、昨日のことを思い出して言った。
「そうか? でも、天華も中々やるけどな」
「へぇー! なんか、いい感じ! バランスのいいコンビになりそうだね」
「そうかもな」
そう返した暁斗をちらりと見る。彼は実力者ではあるけれど思いの外、美月のように自然と周囲の人を和ませられるタイプのようだ。おそらく、誰と組んでも仲良くなれるのだろう。
「──初裂徒たち、静粛に!」
急に、広場に鋭い声が響き渡る。その瞬間ざわついていた空気が一気に引き締まった。自然と皆はパートナーと共にきっちりと並び始める。
「今、郊外の町があやかしの大群に襲われていると連絡が入った。死者数名、怪我人多数だ。そこで、君たち初裂徒の初任務として、今から3日後を目処に、町へと向かうことにする」
広場に緊張が走った。今パートナーが決まったばかりなのに……初めての任務、それに実践……!?
しかも相手はあやかしの大群だ。
「まじか……」
「こんなに早く……?」
周囲は戸惑いの声を上げる。でもすぐに静かになった。新兵とはいえ、皆入隊試験をクリアしてきた強者ぞろいだ。
それなりの覚悟も持っている。
「現場には既に中裂徒が向かっているが、油断はするな。これより、部隊を編成する!なるべくパートナー単位で行動しろ。安全の確保と救助者の助けを優先とする!」
◇
「天城暁斗、神楽天華。お前たちは第二救援部隊に配属される」
上官が低い声で告げた。
第二救援部隊。その名の通り、民間人の救助や避難誘導を担当している部隊だ。
初裂徒は部隊に入ることが基本とされている。そして、部隊をまとめ上げるのは中裂徒の中でも、特に成績の良いパートナー。
たしか……一つの部隊で、幾つかの班に分かれるんだっけ。
「了解しました」
私はこの三日間の訓練と手合わせを思い出した。
程なくして始まった、初対面のパートナーとの戦いに慣れるための連携訓練。
あやかしを模した霊獣との戦い。
他にも、武器の扱い方を教わったり、使いこなすために何時間も練習をしたり。
訓練の疲労はあったけれど、確実に力をつけていく実感があった。
やがて各隊の編成が完了し、私たちは即座に出撃の命を受けた。
馬車や騎乗兵とともに郊外の町へ向かう。
「……さて、俺たちの初陣か」
隣で暁斗が小さく呟いた。
「ええ、やるしかないわね」
私は花弦の柄を握りしめる。
まだ見ぬ戦場へ、私たちは今、足を踏み出そうとしていた。




