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一話:入隊式

「行ってきます」


 白く柔らかなヘアバンドを巻いた黒髪を振り払う。


「行ってらっしゃい。まさか天華てんかまで、軍に入ることになるなんてね」

「うん、やっぱり、翠怜すいれいさんに憧れたから……」

「ほんと?なんか照れるなぁ」


 私の言葉に翠怜さんは少し照れたような顔をする。


「じゃあ、入隊式頑張ってね」


 ──昔から、この世界には()()()()という化け物が存在している。

 あやかしは人を襲う。けれど、その目的は肉体ではなく、人の身体の奥深くにある──()()を喰らうためだ。


 いつか翠玲さんは、霊力のことを、“身体の奥に流れる第二の血のようなもの”と、例えた。


 霊力を吸い尽くされたら最後、人は抜け殻になる。

 動けなくなって、心臓が止まるよりも早く死ぬ。


 だから、あやかしに出会うたび、狙われるたび、心臓を握られたように怖い。


 けれど翠玲さんのように霊力を使って対抗する人々が現れたことで、今では裂光軍(れっこうぐん)という、あやかしを討伐するための機関を創り上げた。


 そして今日は、その裂光軍の入隊式だ。


「ちょっと時間やばいかも……」


 時間を確認して、少し急ごうとしたとき。


「だれ……かっ、助け、て……!」

「えっ!?」


 すぐ近くの広場から叫び声が聞こえた。私は時間なんてものを忘れて迷わず駆け込む。

 そこには小さいあやかしと、まだ幼い男の子がいた。


「っ……あやかし!」


 私は手を素早く動かし、鞄に入れていた短剣を取り出す。霊力をこめると刃が淡く光り、花や蔦が、短剣に巻きついた。


 この光は、霊紋れいもんと呼ばれている。霊紋は、いわば霊力のイメージを具現化したもの。属性と言った方が分かりやすいだろうか。

 その霊紋は一人一人違って、私の属性は“植物”だ。


 最も特徴的なのは、霊力を込めると身体のどこかから()()()()()()()()()()()()()こと。


 私の場合は、首に現れる。


 もちろん、いつまでも残るわけではない。

 霊紋も、文様も、込めた霊力の多さによって継続時間が変わる。微かに力を込めた程度なら、淡く光ってすぐ消えるし、霊紋も無くなってしまう。


 そして霊力は残穢として、微かにそこに残る。


 あやかしを前に私の心臓が上下する。それでも男の子を助けないといけない。


『外すな』自分にそう言い聞かせてあやかしに狙いを定める。


「っ……!」 

「ギャアアア……ッ!」


 刃があやかしの赤い瞳に突き刺さった瞬間、篭っていた霊力が爆ぜる。あやかしはうめき声とともに霧のように消えていった。


 命中……小さな個体だったから良かった。まだ息が上がっている。それでも、私は胸を押さえながら男の子の元へと駆け寄った。


「倒せてよかった……君! 大丈夫、怪我はない?」

「……だい、じょうぶ」


 あやかしが居なくなり安心して涙も止まっているみたい。怪我もしていないようだし、大丈夫だろう。


「あやかしも最近多いからなるべく1人にならないようにね」

「うん、ありがとうお姉さん……!」


 男の子に手を振り、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。そこにはまだあやかしの残り香が感じられる。


「あっ……時間やばいんだった!」


 私は時間が迫っていることを思い出し、急いで目的地へと向かっていった。


 ◇


「……セーフっ! 危なかったぁ……」


 正門には多くの初裂徒(新兵)がいた。緊張した面持ちの人もいれば、興奮を隠せず、落ち着きなく動く者もいる。


 かくいう私も、そのうちの一人だ。


 ──さっきも言ったとおり、ここはあやかしを討伐する機関。そして、戦術を学ぶ場だ。


 そしてここでは、男女でパートナーを組むことになる。


 でも、戦場では性別など関係ない。

 パートナーは、戦力差を補い合いながら協力し、共に戦う必要がある。


 そして今日は、そのパートナーを決める大事な日でもあるのだ。


 パートナーは、主に霊力の相性を考慮して決める事が多い。入隊式では、一体どんな風に決めるんだろう……


 しばらく席に座って待っていると、隊員……その中でも、位の高そうな男性が壇上に立ち、全体に響き渡るような声で告げた。


「本日より、お前たちは裂光軍の一員となる。これより、入隊式を執り行う!」


 その言葉を皮切りに、場の雰囲気が引き締まる。私も思わず背筋を正した。


 その男性の説明を要約すると、こうだ。

 入隊式は二つの段階で進む。


 一つ目は、軍章の授与。

 裂光軍の象徴となる軍章を受け取る。この軍章は、今着ている隊服の胸元につける。


 二つ目は、実戦試験。

 訓練所の横にある山まで移動し、模擬戦が行われる。戦闘の技量や霊力の応用を見せることで、実力が評価される。


 そして、その実力や戦い方、相性などを考慮して武器の配布が行われる。


 この結果から、パートナーが選ばれるという。


 ……つまり、この模擬戦でどれだけ良い成績を残せるかが、最も大事!


 喉が渇くような緊張感が走った。

 どんな武器を授かるのか、どんな相手とパートナーになるのか──


「では、第一段階に移る」


 壇上の高官が手を上げると、列をなした兵たちが壇上へと進む。

 一人一人の名前が呼ばれ、受け取るのは──裂光軍の軍章だ。


 拳に収まるほどの大きさで、光に当たると輝く、綺麗な金のメッキ。

 表には裂光軍の紋章が刻まれ、そのすぐ下には持ち主の階級が示されるらしい。


「受け取った者は、それを制服の左胸に付けろ」


 厳かな声が響く。

 これはただの飾りじゃない。裂光軍の一員としての証だ。


 私は深く息を吸い、軍章を左胸に付けた。

 この瞬間、私は裂光軍の兵士となったのだ。

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