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アナザーズ・レコード  作者: 紙葉衣
ショーケース・ショータイム
111/112

イチオシ商品②

●●●●

Q、跳弾が特技のスナイパー、メジャーよりも精緻な観測手、他人のパソコンも自機の様に操れるハッカーが組んだらどうなるか答えよ。なお戦場は狭所とする。


「セラン。30秒後、銃口を上に2°。右に32.9°」

「えっ!えっと」

《閃鬼ガ指示シタ射線ヲ視界ニ投影スル》

 閃鬼さんにから投げかけられた数字に戸惑って視線を躍らせる。稲妻マークのアイコンが浮かぶ視界に赤色の線が浮かんだ。同時に現れたタイマーが徐々に数字を減らしていく。

「わっ!う、撃ちます!」

 線の始点に銃口を合わせる。横目に確認している数字が0に変わった瞬間引き金を引いた。銃声。空気が震える。呻き声。人が倒れる音。

「次、3人。ライ、進行方向にあるシャッターを26.7㎝下げて。射線は上に15.9°」

《了解。――下ゲタ》

 ハッキングによってライセイさんの意志通りに艦が操られる。小さいモーター音と動揺の声。

 閃鬼さんが身体を支える為、壁に付いた手の人差し指が宙を踊る。左眼を掌で覆い、右眼の眼球を小刻みに揺らしながら、スコープのつまみを絞る様に目を眇めた。

「撃て」

 声と同時に人差し指が壁を叩く。銃声。反動。呻き声。呻き声。呻き声。倒れる音が3重。

 ギギッと錆びる首で閃鬼さんを振り返った。

「……今1発で3人倒しました?」

 僅かに前傾姿勢で細かい瞬きを繰り返していた閃鬼さんが重そうに腕を持ち上げピースした。


A、こうなります。



●●●●



 ふらふらと揺れる身体を壁に預けることで、なんとか自力で立っている閃鬼さんが 弾丸が飛んでいった角の向こうに眼を凝らす。ややあって異常が無いことが確認できたのか、左眼を隠していた手を下ろした。脂汗を浮かべながらお道化た笑みを浮かべる。

「向こうがこの”通り”に入る前に狙撃で倒す。なーるほど、これは確かに一方的だわ。やっぱスナイパーってこっわいな」

「いえ……提案しておいてなんですが、少ない弾数でここまでのスコアを出したことは無いので私も驚いています。なんか、なん……どうやっているんですか?」

「計算してんのよ。こう見えて頭良いんだ。っていうか、セランこそいつもどうやって跳弾当ててんの?」

「えっ、それはまぁ普通に――勘で……」

 ぱか、と閃鬼さんの顎から下が落ちた。パクパクと鯉の様に口を2、3度開閉させ、そのまま何も言わずに閉じた。

 片手で口元を覆い、よよよ、とわざとらしく泣き崩れる。

「こ、こういう才能で理屈を超えてくる奴が一番嫌い……」

「えっ」

《ワカラナクハ無イ》

「えっ!?」

 ライセイさんからの同意に目を見開く。急に結託され、我が意を得たりと頷く閃鬼さんと、視界に映る稲妻アイコンの間をキョロキョロと見渡した。

 困惑する私を面白がるように笑った閃鬼さんが小さく両手を上げ、バラバラと指を動かした。

「ゴメンゴメン。揶揄い過ぎたね。進もうぜ」

 は――っ、と熱っぽい息を漏らしながら、閃鬼さんが全身に力を込める。グッ、と一歩踏み出した。

「手伝いますか?」

「良いよ。大丈夫。君が頼りだからね。煩わせるわけにはいかないよ。ほら、先行って」

 ゆっくりと歩を進める閃鬼さんに掌で促され、後ろを気にしながら閃鬼さんに先立って前進する。

 ライさんが作動させた防火シャッターは天井と床、双方から伸びる構造だった。30㎝も無い高さを跨ぐ。

 閃鬼さんの荒い呼吸や彼女の身体が壁を擦る音が着いてきて――ガッ、という音と「うわっ」焦る声がした。

 弾かれたように振り返る。空を掻く腕を掴み、倒れかけた体を引っ張り起こした。仕事用に誂えてもらった夜闇に溶け込むケープが彼女の身体を受け止める。

 閃鬼さんが衝撃に思わず閉じていた瞼を恐る恐る開く。碧色の眼球に心配そうに覗き込む私の顔が反射した。

 ンッ、と閃架さんが息を呑む。気まずそうに視線を泳がせた後、私の顔に戻って来た。

「……ありがとう」

「いえいえ。とんでもないです」

 風竜さん程ではないとは言え、こう見えて反応速度も腕力も、そこそこ自信があるんです。

 思わず漏らした微笑みに閃鬼さんも瞳を緩める。かと思えばまた流線型に象られた。

「30秒後。上5°。左52°」

《アァ》

 視界に映った線の通りに銃を撃つ。弾丸が跳ね返る音が2回。倒れる音は2つ。硝煙が立ち上るオートマチックをくるりと回した。

 差し出した私の手を支えに、慎重に床のシャッターを乗り越える。片足に体重を掛けた瞬間、顰めた顔が痛々しい。

 シャッターのこちら側に慎重に両足を下ろした閃鬼さんがほっと息を吐く。繋いだままの手を緩く引けば、さっき断った手前、気まずそうな顔をしながらも素直に私を支えに着いて来た。

「ライさんも大忙しですね。艦をハッキングしたり、私の視覚に射線を投影したり。閃鬼さんに艦内の監視カメラの映像を投影もしているんでしょう?」

《イヤ、監視カメラノハッキングハシテイナイ》

「は?投影?ライそんなことしてんの?」

 何気ない呟きに閃鬼さんとライセイさんが同時に声を上げた。閃鬼さんも驚いたのか、稲妻マークのアイコンが映る左下を覗き込む。

 閃鬼さんが自分の頭を叩く。しまったと呻き声を上げた。

「あー、そっか。ゴメン。普通口で数値だけ言ってもわかんないのか。風竜もなんか、こう……視線で感じるとか言ってたな。――アレ。それセランはわかんないの?」

「わっ、からないですね……。ど、どんなのですか?」

「いや、あたしもよくわかんないんだけど……」

《風竜ガ何カ仕掛ケテルノデハ。聞イテミタラドウダ。恐ラク埃ガ出テ来ルゾ》

「人の部下にひでぇ言い草だな。あー、じゃあ、意識すれば出来るようになんのかな」

 ライセイさんに断定され、閃鬼さんが宙にジト目を向ける。その後ブツブツと呟きながら眼を眇めたり開いたり、左眼を掌でパタパタ覆い隠したりと繰り返し出した。

《今試スナ。僕ガ居ルカラ必要無イ。余裕ガ有ル時ニシロ》

「あっす……。ってうかライ、線引いてるって何?あたしが言った数値通りの、細かいガイドなんて出来たんだ?」

「あの……、すみません……。てっきり閃鬼さんも知っているものかと思っていて……。お、教えない方が良かったですか」

《イヤ構ワ無イ。機会ガ無カッタダケダ。視覚ニ投影ガ可能ナ事ハ知ッテイルシナ》

 閃鬼さんに詰めるように身を乗り出され、思わず消え入りそうな声を出してしまう。淡々としながらも私を宥めるような機械音声が出力された。

《小数点第一位迄人力デ合ワセルノ事ハ特殊技能ダガ、コンピューターニトッテハ難シイ事デハ無イ。”電糸の巣(ウェブ・エレクトロン)”デ僕ノ目ノ前ニ有ルパソコンニセランノ視界ヲ繋イダ(キャプチャシタ)。ソノ後画像加工ソフトデ射線ヲ引キ、セランノ脳内ニ戻シタ》

「ひょっ……、として、ライの存在異義レゾンデートルってあたしが思ってるより色々出来たりする?」

《応用力ハ君ノ方ガ高イト思ウガ》

 ヒクリと口元を引き攣らせる閃鬼さんに対し、ライセイさんの機械音声は何処か呆れた様な声だった。

「“鬼眼”が“魔眼”と“天眼”の2つの能力を合わせ持つっていうのは知ってましたけど。ライさんが監視カメラのデータを繋げて(送って)いないって言うことは透視までできるんですか?」

「いやできないけど」

「えっ!じゃあどうやって物陰の向こう側がわかるんですか?」

「”鬼眼”はシンプルに情報収集能力が馬鹿高いからさ。人が動いたり呼吸すると空気が動くじゃん?そういう数値を観測してるんだよ」

「え、えぇ……」

 閉じた右目の瞼の上をとんとんと指で叩く閃鬼さんはなんでもない顔をしていた。

「はー、やっぱりとんでも無いんですね……」

《安心シロ。君モ十分トンデモナイ》

「まず素の狙撃技術がエグイもんね……。弾道操作の存在異義レゾンデートルとあたしが、このあたしが!誤認するくらいだし。それが勘、勘か……」

「せ、閃鬼さんっ」

 虚ろな目で乾いた笑いを漏らす閃鬼さんを慌てて覗き込む。閃鬼さんがのそっとした動きで顔を上げ、瞬きをし――「後ろ!上172―右30!」――レンズを取り変えるように、剣呑な虹彩で私の背後を睨み付けた。

「んぇっ!?」

 閃鬼さんから出された指示で理解できるのは“後ろ”までだった。咄嗟に振り返ると同時に視界の陰りに腕を構える。ガードの上から強い衝撃がぶつかった。

 踏ん張り切れない。足が宙に浮く。体が背後に吹っ飛んだ。

「うわっ、ちょっ!大丈夫!?」

「大丈夫です!」

 偶然転がるあたしに巻き込まれなかった閃鬼さんが焦った声を上げる。同じように張った声を返しながら、廊下の奥を睨み付けた。

 私を足場に後ろに跳ねた人影が着地する。


「オイ、オークション、潰しやがったのはテメェ等か」


 怒りが一周回って冷静になったようなドスの効いた声。視線を向けた閃鬼さんが「うわっ」と嫌そうに声を上げた。

 吊るしのスーツに皺の入ったシャツ。首元に辛うじて引っかかっているネクタイは結び目がおかしかった。街で見かけるチンピラが、辛うじて外面を整えようとして、地金が出た様な様相だった。

 そんな男性が私を指さし、歪めた顔でがなり立てる。

「テメェ等のせいでっ。最後のチャンスだったのにっ」

「おやまぁ。駄目ですよ。そんなふうに怒っては。冷静さを失うなっていつも言ってんだろ。――まだチャンスはある」

 感情的な声を制したのは、ビルの縁に追い詰めらたような、底冷えする声だった。

 チンピラみたいな男性に高級そうな――それでも一級品にはワンランク劣るスーツだが――を慣れた様子で身に纏った年上の男性が並び立った。


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