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アナザーズ・レコード  作者: 紙葉衣
ショーケース・ショータイム
110/112

イチオシ商品①

●●●●

「――――ぁぁぁぁぁぁああああああああっ!」

 弾丸を再装填している間、聞こえてきた異音に顔を上げる。

 ガタンッ、ガコンッと固い物同士がぶつかる音が徐々に近づいて来た。同時に女の子の叫び声も。

 最後に空を切る音がして、ドカンッ、と地面が揺れた。

 もうもうと上がった土煙を手で払いながら落下物に走り寄る。檻の錠前に向かって引き金を引いた。

 リボルバーの6連射。全弾一気に撃ち切った。弾け飛んだ錠前を引き抜き地面に放り捨てる。檻の扉を開け放ち、中に飛び込んだ。閃鬼さんを磔に拘束しているベルトをナイフで切る。途端倒れ込んできた体を慌てて抱きとめた。

「せ、閃鬼さん。大丈夫ですか。閃鬼さん!」

 閃鬼さんは完全に脱力し、私に凭れかかっている。名前を呼びながら何度か身体を揺すれば暫くしてぴくん、と肩が跳ねた。しゃがみ込みながら閃鬼さんの身体を正面で抱きかかえ、彼女の顔を覗き込む。

 焦点は合わないながらも薄っすらと瞼が上がり、もにゃもにゃと何かしら呟いている。聞き取れない内容に口元に耳を寄せ、彼女の声に集中する。

「あの野郎……ぶちのめしてやる……」

 聞こえて来たのは地の底から響く様な恨み節だった。閃鬼さん相手に戦って勝つのは簡単なのに、どろりと渦巻く怒りに押され、思わずギシリと体が固まる。少し躊躇った後、宥めるように閃鬼さんの背中を撫でた。

「……お元気そうですね」

「そうでもない。丁度死に掛けたところだからね」

 重ったるい溜息を吐いた閃鬼さんは疲れ切った、けれども幾分かはっきりとした声を出した。細かい瞬きの後、開かれた碧眼が見上げてくる。薄っすらと刻印が刻まれている瞳の焦点は合っていて、ほっと胸を撫で下ろした。

「風竜さんも大変なんですよ……」

 吐息混じりの庇った言葉が不満だったのか、閃鬼さんがイ゛ッと歯を剥いた。

 幼稚園生の様な表情だったのに、右目を覆うように垂れてきた前髪を掻き上げる動作は年不相応だ。大人びているというか、経験値が高いというか。――痛みに慣れているように感じる。

 彼女の目の下に出来た濃い隈を親指でなぞる。眼頭から目尻まで、ゆっくりと動かした。されるがままに押され、目を細めていた閃鬼さんの瞳が和らぐ。閃鬼さんが小刻みに震える掌をゆっくりと持ち上げた。ぺとりと私の頬に触れる。私の頬を押す程度の力もないけれど、暖かった。

「……態々来てくれたの?」

「えぇ……。閃鬼さんの助けになれるかな。と思いまして」

「うん。なってるよ。ありがとね」

 疲労のせいで緩んだ閃鬼さんの口元は、まるでリラックスしているかのようだった。自分が告げたことも真正面から返って来たお礼も照れくさくって、彼女から視線を逸らす。

《生温イ空気ノ中悪イガ、閃鬼ハツイデダ。僕達ノ目的ハ”黄金郷ミダス・ガーデン”ノ壊滅ダ》

「うわっ、びっくりした」

 私と閃鬼さんの間に流れた陽だまりのような空気を硬質な声が切り裂いた。むぅ、と唇を尖らせる。

「なんでそんな無粋な事言うんですか……」

《無粋モ何モ、事実ダ。仲ガ良イノハ結構ダガ、目的ヲ後回シニサレテハ困ル》

「んぐっ。それはそうなんですけど……。言い方というものがですね……。すみません、閃鬼さん」

 ぺこっ、と閃鬼さんに会釈する。にやにやしたまま、閃鬼さんが軽く手を振った。これは私に対してではなく、私の視界の向こうで覗いているライさんに対してでしょう。

「うんにゃ、良いよ。ライ君も、助けてくれてありがとね」

《君ガ満足ナラ結構ダ》

 ――多分今、電波の向こうで肩を竦めてるんでしょうね……。

 ライさんも閃鬼さん達のことを心配していると思うのですが……。全く、合理主義というか、愛想がないんですから。

 謝罪の意味も込め、ボサボサになった閃鬼さんのモノクロ髪を手櫛で梳く。閃鬼さんが気持ち良さそうに目を細めた。

「流石にお疲れの様ですね。髪の毛もパサついてますし」

「そ、れは元々かな……。白くなってる髪が傷んじゃってんだよね……」

「……ちゃんと手入れした方が良いですよ」

「面倒で……」

 はー、息を吐いた閃鬼さんが「おし!」と太ももを叩いた。伏せていた顔を上げる。

 芯の通った瞳。満点の輝き。ミルキーウェイの中心に刻印《一等星》が刻まれている。

 投げ出していた足で胡坐を掻き、私に預けていた体を自力で支えた。ずいっ、と私に向かって身を乗り出し、無遠慮に距離を詰める。思わず仰け反った私を逃がす気は無いらしく、瞳の奥(ライさん)まで見通すように覗き込む。

「それで?次のプランは?君達3人が立てた作戦、聞きたいなー」

《元気ニナルナリプレッシャーヲ掛ケテ来ルナ》

「策と言うほどではないですが……。閃鬼さんにも手伝っていただきたいことがあるんです。着いてきていただけますか」

「死に掛けのあたしに厳しい(浪漫チックな)誘いじゃん。良いね。勿論!でも何をしに?」

「いつも通りに――一方的に全員倒したいな、と」

「は?」

「ライさん!」

《アァ》

 物騒な物言いに閃鬼さんがぱちくりと目を丸くした。その視界に稲妻マークが映る。視界に投影された情報を読んでいるのか、閃鬼さんの瞳が高速でブレている。

 その間に私は撃ち尽くした弾倉に弾丸を込め直した。カチャリ。

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