66_一刀両断_ムサシ
ムサシの心は泥中を藻掻いていた。
誰かもよくわからない奴らにいきなり体を共有させられたから仕方ない。
今の自分が、キミカゲ ムサシなのかそれとも黒錆神楽なのか、あるいはそのどちらでもなく、どちらでもある。それさえ理解が及ばない。
自分の思考にもかかわらず他者ではないことを否定するのは非常に複雑で難解だ。
冴えた考えも今のムサシには浮かばない。
意識を内側から外側に時より向けると、いずれも人斬ってばかりだった。
もう人なのか怪しい感染者もその数に入る。
それでもやるべき事を間違っている。とはムサシは思っていない。
現に時より目にする君影研究所は依然変わりなくそこにあるのだから――。
けたたましいエンジン音が聞こえた。
ムサシが久しく耳にしなかった音はしばらく響き、そして静寂に移る。
次に聞こえるのは足音。
数は二人、だが声は三人、つまり一人はこちらに向ってきていない。
敵か、それとも研究所を訪ねてきた人間か。
「――――?」
声が聞こえた。ムサシに話しかけているがムサシはそれを聞き入れるほどの余裕は心のどこにもなかった。
二人の男からは殺意は無いが闘争の匂いがした。
彼らが手練れで殺意を隠すのが上手い。そういう風にも感じた。
ムサシは今まで何人もの強者を斬っていたが、それらによく似ている。
何より怪我人でもない人間がここを尋ねてくるのはいささか不自然だ。
泥中の中でもやるべき事はわかっている。
ここを守ること。
母たちを守ること。
負けないこと。
不敗、無双でもなく最強でもなく、不敗こそがムサシの信念だ。
潔く死を受け入れ、それでいて生に貪欲。
生きていれば、その内良いことがあるとムサシは信じている。
(鶴は千年亀は万年だ)
ムサシは脇に差した太刀、その鍔に左の親指をかける。
まずは斬るべき相手かそれを見定める。




