67_一刀両断_ナガト
「ナガト、話は通じそうか?」
「ダメだな意識はあるっぽいけど、心神喪失状態だ」
「その割りにはむこうやる気満々だな」
「やるかぁ」
「そういやなんでアイツをぶっ倒すんだ?」
「あの男はムサシ、アンナ先生の息子さんだ。色々あって暴走してて」
「あー、それで俺たちが正気に戻してやるわけか」
「そんなところ」
「で、アンナ先生はアイツに会いたがっているのか?」
「そりゃあ、仕事も手に着かないくらいだよ」
「そうか、じゃあ首根っこ掴んで引っ張ってやるか」
ヤマトは一層にやる気を出す。
「なぁ」
「あ?」
「ヤマト、これで俺たち、くたばるかもしれない。本当にいいのか?」
「んだよ今更、このアホ!」
ヤマトはナガトより一歩先に進む。
「ダチに手を貸さねえで生きてる方がよっぽそ死にたくなるだろ」
「ハハ……ヤマト、お前のそういうところ好きだぜ」
「悪いが俺は同性愛者じゃないぜ」
「ぬかせ、んじゃ行くぜ!」
「指示を頼む、何も言わねえなら真正面からカチコム」
「じゃあ、指示は要らねえよ」
「ハハ……ナガト、お前のそういうところ好きだぜ」
「悪いな、俺も同性愛者じゃない」
「ぬかせ、アホがよぉ!」
ヤマトはフルスロットル、一直線に進む。
例えるなら、放たれた弾丸だ。
トラの瞬発力、そして屈強な上半身から放たれる一撃がムサシの顔面を掠める。
(おいおい、あれを最小限で回避するのかよ……)
ムサシの左手はまだ鍔に指を掛けたままだ。
「シャ――オラァ――ッ!」
ヤマトの指からにゅるりと爪が伸びる。鋭い鉤爪をもろに食らえば人間などひとたまりも無い。
トン――
ムサシは鍔に指をかけたまま手を前に出す。柄尻がヤマトの手首に当たる。
ピンポイントに筋と神経が集まった場所を小突かれヤマトの腕は一瞬だけ止る。
柄尻をクルリと回してヤマトの手をいなすとフリーだった右腕がヤマトの喉を掴む。
もちろんヤマトはムサシの右腕を両手で掴む。
(ヤバイ――)
ナガトはヤマトを影にして進み、ムサシに回り込んで刀を持つ左腕を押さえる。
このムサシの左腕を止めなかったらヤマトの鳩尾に柄尻がクリーンヒットしてしばらく動けなくなる。それをナガトが防ぐ。
ナガトは尻尾をムサシの右足に絡め持ち上げる。
スタンガンを握りしめて前に突き出す。
普通なら逃げようとして後ろに仰け反る。右足をさらに持ち上げることで体勢を崩せるはずだった。
ムサシ、力ずくで右足を踏み込む。柄尻がナガトの胸を狙う。
「チッ――」
「俺を忘れんなッ!」
ナガトの頭上から拳が振り下ろされる。
鈍い銀色が光る。
その色が見えたと同時に、三者は後ろに飛び跳ねて距離を取る。
ナガトはネットランチャーを構えて躊躇わず打ち込む。
広がるネットはムサシを捉えて覆い被さる。
そして両断される。
「防刃って言ったじゃん!」
『はあぁぁぁ!? 嘘でしょ!?』
イヤリング型の骨伝導越しにセレネの声が聞こえた。
「役に立たないよこれ」
ネットランチャーをポイ捨てするとナガトはナイフを抜く。
『自信作だったのに……悔しい!』
「改良版に期待するよ」
無線通話を終えると三者の視線が重なる。
「ようやっと、抜きやがった」
鈍色の刃、夏にもかかわらず体の芯が氷そうな冷たい空気、漂うは闘争の香り。
感染者等級、甲種。
その等級はアンナの計らいで甲種になっているただのお飾りか――。
それともその一刀は本物か――
第二ラウンドがスタートする。




