65_一刀両断_ヤマト
ヤマトは退屈だった。
修行を見てくれるカナメは五山の送り火のために京都に行っているからだ。
ヤマトは獣桜組の敷居を跨ぐことを許されていない。そうなれば天帝邸で一人、遊び相手もなくただただ暇を暇のままに持て余すことしかできなかった。
蚊が鬱陶しいくらい暑い夏、盆地の京都はここよりも遥かに暑いがエマが気を利かせてクーラーを付けてくれたことを思い出す。
少し寂しいが、兄殺しをした手前、帰ることなどできやしなかった。
ヤマトはその高い背丈と札付きの事情からあまり良い噂が流れていない。
どんなに言葉をよく言おうとしても所詮はヤクザ者の殺人犯。しかも兄も実の父親を殺し、母親を自殺に追いやった男というレッテルはいつまでも残り続ける。
それでもカナメやナガトはヤマトを人食い虎とは呼ばず、ちゃんと名前で呼んでくれる。
「あっちいなぁ……」
「お、いたいた」
いつもの格好とは違うが、いつものナガトの顔をしていたため直ぐに誰か判別できた。
「京都に行ったんじゃないか?」
「野暮用でね。ちょっと人手が欲しいんだ」
「師匠さんはどうしたんだ?」
「ちょっと内緒にしたくて」
師匠に内緒にする。ということは悪巧みだとヤマトは理解した。
「いいぜ退屈していたところだしな」
「そりゃ良かった。見ての通り荒事だけど大丈夫?」
「カチコミか、いいぜそういうのハッキリしてるのは好きだ」
「オッケー、じゃあ装備とか準備出来たら――」
「いや、要らねえよ」
「え? でも――」
「急いでるんだろ? 準備してる時間が勿体ないだろ?」
「……そっか、じゃあ行こうか。まぁジェットの中に装備があるから借りれると思う」
「おう!」
ヤマトを連れてジェット機内に戻るとセレネは直ぐに離陸の準備を始めた。
「適当に座って!」
「邪魔するぜ」
「あなたがヤマト?」
「おう、嬢ちゃんは?」
「嬢ちゃんじゃなくてCEO、セレネCEOって呼んで頂戴」
「しーいーおー?」
「社長みたいなもんよ」
「わかったセレネの嬢ちゃん」
「子供扱いしないで!」
「わーったよCEOの姐御」
「わ、その呼び方結構いいかも!」
セレネはそう言いながら操縦を始める。
「えらい別嬪さんだなナガト」
「黙って座ってりゃ完璧」
「あー……お前、女運ねえな?」
「……そっちは女に縁がねえだろ」
「違えねえ。まぁドングリのなんちゃらだな」
「与太話はこの辺にして、好きな装備を選んでくれ」
「おー、チャカにドスに……戦争でもおっぱじめんのか?」
「殺しはナシで」
「おもしれえ……さぁって……」
ヤマトは防刃のシャツを手に取る。
「これの布地はあるか?」
「今はないわよ」
「そうか」
ヤマトは防刃のシャツをぽいっと捨てる。
「俺はこのままでいい」
「え?」
「お前が殺しはナシって言ったろ。てことはただの喧嘩だ。普通は素手、やってもドスとか鉄パイプとか角材ぐらいだろ?」
「喧嘩というか何というか」
「命の取り合いか?」
「……これから暴走している感染者の目を覚まさせに行く」
「じゃあ喧嘩だ。それなら俺は素手でいい。どっちみちベースを使ったら体の形そのものが変わっちまう。あっても装備できねえ」
「それは失念してたよ」
「まぁ、あっても使わねえと思うけどよ」
「あなた変わっているのね」
セレネが自動運転に切り替えて話に交ざる。
「そうかぁ?」
「ちょっと古臭いっていうか、むかーしのジャパニーズマフィア映画みたい」
「ぷっ……今は違えけど元ヤクザだよ俺は」
「あらそうだったの」
「獣桜組だったが、今は破門だよ」
「獣桜組……うぅ頭が……」
「その様子じゃ、か……エマに会ったのか」
「止めて、今その名前を聞きたくない」
「あの人、足下見るから気をつけろよ。一度でも値下げに応じたら最後だ」
「うわ……最悪」
「でもまぁ、それの顔で済んでるってことは相当気に入られてるな。しばらくはいびられるが、あの人の愛情表現だと思って耐えるんだな」
「しばらくって……」
「まぁ、ざっと三年くらいはいびられるな。余所者にはとにかく厳しいからな。それでもまだ優しい方だ」
「えぇ……」
「もし獣桜組で困ったことあるなら、蛇組と辰組に掛け合うと良い。蛇組はユネ先生っていう女医が居て、あの人は君影研究所所属だから基本的にめちゃくちゃ優しい」
「どうして君影研究所の人が獣桜組に?」
「椿宮師団、君影研究所、獣桜組、互いに情報のやり取りをスムーズにするために窓口を作る。いちいち親に伺い立ててたら日が暮れるだろ?」
「なるほど、各所属が怪しいことしないようにするのと窓口を担っているのね。ということは辰組は椿宮師団の人?」
「ドロイさんだな。辰組って竜のことなんだが、あの人は肺魚っていう魚がベースだってよく愚痴ってたな。まぁ獣桜十二会は験担ぎで組が干支になってんだけどあんまり関係無いベースの組長もいる」
「干支……ってなに?」
「ああ、外人さんだったな。干支は……まぁ神の使いみたいなもんで、十二年周期でグルグル回るんだ」
「ん? あー! チャイニーズゾディアックね!」
「知らねえ……そっちではそう呼んでるのか」
(日本の文化じゃねえ……あーでも仏教は中国から来てるな)
ヤマトは勝手に納得する。
「さてそろそろ着くわよ!」
「ヤマト準備はいいか?」
「いつでもいいぜ、ナガトこそ足引っ張るなよ?」
「お前なぁ……」
ジェット機が着陸する。
外に出ると君影研究所が目の前に現われる。
そしてその玄関の前を守護するような形で陣取り、アスファルトの上、歌膝で座っている。
「あれが例の?」
「ああ」
男は立ち上がる。
脇に刺した太刀の鍔に親指を掛ける。
「いっちょやるか」
ヤマトはベースである虎の力を解放させる。
虎の獣人ような姿になりその荒々しい牙を見せつける。
そして火蓋は切って落とされた。




