61_一刀両断_ナガト
ナガトはチユと共に京都へ来ていた。
元々来る予定ではなかったが、チユがエマに呼び出されて弾丸旅行となった。
「はいはい早くしないとお日様が出ちゃうわよ」
「いや車とか使いましょうよ!」
「これも修行だから」
移動はもちろん徒歩である。
東京から京都までおおよそ500kmの道のりを走らされている。
チユは馬に乗ってナガトが遅れれば尻を叩く。
「ところで師匠」
「何かしら?」
「その馬どうしたんですか?」
「椿宮師団から拝借したわ」
「なんで馬なんですか?」
「久々に乗馬でもしようかなーって」
「俺も乗せて下さいよ」
「それじゃ訓練にならないでしょ。まぁでも後で馬の乗り方は教えるわよ」
「それ使うんですか?」
「……それが意外と使うのよ」
「嘘っすよね」
「ホント」
「えぇ……こんな時代なのに」
「ホントよねえ」
空が薄らと明るくなり始める。
「お、夜明け」
「この調子なら予定より早く着きそうね」
「休憩しません?」
「京都に着いたら好きなだけ休んで良いわよ。二時間以内なら」
「好きなだけって……」
「あ、早く着いたらこの時間が延びるから頑張りなさい」
「……うっす」
(なんか最近、師匠の無茶ぶりにも慣れてきたなぁ……)
ナガトはスピードを少し上げる。
「ん?」
「どうしました師匠?」
「止って。何か来るわ」
「え?」
「聞こえるわ」
「聞こえないっすよ」
十五分後。
「なんか来た」
どうやって飛んでいるのかわからないが空を飛んでいるセレネがナガトの視界に写った。
朝焼けの空に、いくつかのロボットが無機質にセレネに装着されている。
アニメに出てくるパワードスーツとかロボットとかまさにそれだった。
「エマの言っていた通りね!」
(SFの世界みたいだ)
セレネはそのまま降り立つと背中の機械パーツが展開されて蜘蛛の足のように八本のアームが彼女を支えている。
「セ、セレネじゃん。ドイツに帰ったんじゃ?」
「ん? 来たわよ。約束したじゃない。それに感染抑制剤がないと困るもの」
「あ、それもそっか……」
「それで、CEOさん何のご用かしら?」
チユが問いかける。
「…………」
セレネはチユとナガトを何度か視線を向ける。
機械の足が無機質な音を立てながらナガトの腕をぐっと掴む。
「うおっ!」
そのままセレネはナガトの唇を奪ってチユを睨む。
「私のだから」
「あらあら……」
「え? え!? ん? あ、外国だとキスは挨拶か……」
混乱するナガト、微笑むチユ、睨むセレネ、奇妙な三角関係ができあがる。
収拾がつかないのでナガトが諸々を説明する。
ただしフソウについては秘匿事項のため除外している。
「なるほど、この人はナガトのテクニカルアドバイザーなのね」
「まぁそんなところ」
「色々やったわよね。ベッドで二人でね」
(骨折した時の話か)
「やりましたね。まさかあんなことになるとは思いませんでしたが」
「は、はぁ?」
セレネの顔が不機嫌になる。
「色々手ほどきしたのよベッドの上で」
(なんでベッドを強調してるんだろ?)
「ベ、ベ、ベ、ベッドでね……そうね、まぁいい年齢だし。ちょっとはね?」
(なんでセレネは不機嫌なんだ? セレネも訓練したかったのかな?)
「あれは意外と勉強になりましたね。耳元でのささやき方とか。甘い言葉の使い方とか」
「へ? 私がドイツに帰っている間に何? 何してるの!?」
「「ハニートラップの訓練の話だけど?」」
ナガトとチユは口を揃えていう。
「……あぁ……工作員だもんね。なるほど! そうだと思ったわ!」
(なんかご機嫌になったな)
「でもまぁ、セレネにこんな早く会えるとは思わなかったな」
「こっちはようやくナガトに会えたって感じよ」
「じゃ、俺、これから京都に行くから」
「京都って何で行くの? 車は?」
「走って」
「走って?」
「うん」
「馬鹿じゃないの、ここから何百キロあると思ってるの」
セレネはナガトをお姫様抱っこするとセレネを支えていた八本のアームが変形して先ほどの飛行形態に移行する。
「おー……なんか情けない気分だ」
「京都ならこれでひとっ飛びよ!」
「あのー!」
チユが大声で叫ぶ。
「何かしら?」
「これも訓練だから! それ使ってしまったら訓練にならないのよ!」
「……それもそうね!」
セレネは空中に居るままナガトをを地面に落とす。
「お!」
「あっ、ここ空中――」
この程度の高さであればナガトは五点着地で問題なく着地する。
「じゃあ行きましょうか」
「そうですね」
「じゃあ行きましょうか」
セレネは歩行形態に移ってナガトの後ろを着いてくる。
「あ、一緒に来るんだ……」
チユとセレネに挟まれてナガトは四日の移動予定を二日に縮めることになった。




