62_一刀両断_セレネ
京都は獣桜組にある客室の一角。
セレネとチユは互いに睨み合っていた。
ナガトは隣の客室で死んだように眠っていた。
セレネは直感的にチユがただナガトのスキルアップのために指南しているとは思えなかった。いわゆる女の勘というやつだった。
「で、大企業のCEO様は私に何のご用なの?」
「回りくどいのは嫌いだから単刀直入に聞くけど、ナガトとはどういう関係なの?」
「ただの師弟よ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「ふーん、その割には何という表情が女よね」
「そうかしら?」
「ええ、とっても」
「まぁ、初めてとった弟子だからやっぱり特別な感じはするわ」
セレネは無言でチユの目を見つめる。
「……はぁ」
チユは降参するように両手を挙げる。
「やっぱり」
「でも、恋仲にはならないわ」
「どうして?」
「ナガトにはあなたがいるじゃない」
「それはそうだけど、あなたは頭も切れるし容姿も良い。ナガトを落とすのはそこまで難しくはないと思うわ。まぁ今は私がいるから些末な問題だけど」
「そうね」
「ではなぜ? 私がドイツに居る間にいくらでもチャンスも時間もあったのに」
チユは飄々とした表情を徐々に崩していき、ゆっくりと三回息を吐いて吸ってを繰り返す。
「あと一年半、一年半だけ私にあの子を貸して欲しい」
チユは諦めたような表情でセレネの目に訴えかける。
「それで何をするの? 何で一年半?」
「それは――――」
秘匿――。
二つの禁止事項――。
女同士の約束――。
(何よ何よ何よ! あんなのOKするしかないじゃない!)
セレネは奥歯を噛みしめながら客室の廊下をミシミシと音を立てながら歩む。
色々な思いがあったが、セレネは全てを飲み込む。
(あの女、ここに来て――)
VIP客室の一室をノックする。
「なんだいこんな時間に?」
「あなたがDr.アンナ?」
「ん? まぁそうだが?」
「聞きたいことがあるの。許可は取っているわ」
セレネはアンナにいくつかの質問をする。それらの質問が全て正しいことを確認すると、セレネはアンナにお礼を言って足早に去って行った。
自室に戻ると荷物の中からスキットルを取り出す。
キャップを開けて中にある液体を口に含む。
燃えるような刺激と芳醇なウイスキーの香りが広がる。
「はぁ……」
ヤケ酒なんかいつぶりだろうとほろ酔いの頭で記憶を想起させる。
(どうしようもないことはいくらでもあるわ。でもこれは――)
セレネはもう一口酒を煽る。
(そうね、約束は守るわ)
スキットルを握りしめてセレネは覚悟を決める。




