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60_一刀両断_ムサシ

 

 

 君影研究所に押し寄せた大量の怪我人は、ムサシに恨みを持った人間が復讐のために入り込んできた人間だった。

 

 

 一と。

 

 二と。

 

 三と。

 

 四と。

 

 五と。

 

 六と。

 

 

 刀は鋭く光り、線を結ぶ。

 刃は欠けて、斬っているのか叩いているのか、もうわからないが殺せているのは間違い無かった。

 

 殺す感触だけを頼りに、ムサシは一歩も引かずに切り伏せる。

 

(ここを通すわけにはいかない。フソウさんの傷は大動脈に達している。ナイフが刺さったままだから大出血していないだけで緊急オペが必要だ)

 

 故にムサシは時間を稼ぐ必要があった。

 

(スタッフは全員手術室だ。この通路さえ守り通せばいい――!)

 

 鉛のように重くなった手足を駆動させて人を斬る。

 多勢に無勢、体中に打撲、切り傷を作りながらも致命傷を避けてムサシは戦う。

 

 

「はぁ――はぁ――ッ!!」

 

 失血によるめまいでムサシはふらつく。

 

「もう少しでぶっ殺せるぞ!」

 

 暴徒の勢いが増していく。

 

 

「負けねえ! 負ける訳には――ツ」

 

 ムサシが倒れれば家族がどんな目に遭うかわからない。

 それはムサシ自身が死ぬことよりムサシは恐れた。

 

 

 だが人間には限界がある。

 すでにムサシは限界を超えた場所にいる。

 

 

 立っているだけでやっと。それが現実。

 

 

 無機質な病院の通路には死体と血の川。

 

 

 心臓の音すら弱くなっていく。

 

 

 負けたくない――。

 

 その思いだけが募る。

 

 守れ守れ守れ――。

 

 

 

 ムサシは刀を振う。

 

 だが最後の一太刀を振ったが最後、するりと刀が地面に落ち、無機質な廊下に無機質な音を響かせる。

 

 

 嗚呼――。

 

 

 ムサシは両手を握り込む。

 

(刀が持てねえなら殴り合いだ)

 

 絶対の殺意を剥き出しにする。

 

 

 だがこの人数ではそれはただの虚勢に過ぎない。

 

 

『いいよ』

 

 ムサシの頭に声が響く。

 

『貸してあげる』

 

 わけがわからない。

 

『使って――』

 

 

 手には黒い粒子が集まり、切っ先を生み出す。

 驚くほど体が軽くなる。

 疲労は気にならなくなる。

 

 意識が遠のく。

 

 

『願いは?』

 

 鮮明に聞こえる誰かの声。

 

「負けたくない! 守りたい!」

 

 叫ぶムサシ、頭はすでにグチャグチャだった。

 

『わかった』

 

 

 青白い鉄の切っ先が光る。

 

『名前を呼んで』

 

 誰かの声に言われるがままムサシは喉を開く。

 

 

「――黒錆神楽ッ!!」

 

 

 ムサシの意識は遠のく。だが確実にその一振りで四人か五人を切り伏せる。

 

 地面に落ちたいつもの刀を拾い上げる。

 血を払うために空を一振りする。血液が地面に飛び散ると同時に先ほどまでボロボロだった刀は鋭い刃を取り戻す。

 

 

 

 幽鬼が産声を上げた瞬間だった。

 

 

 全てが終ったとき、ムサシは消息を絶ち、代わりに斬殺死体が各地で時より見られるようになった。

 

 

 

 以上の出来事により、アンナは息子を守るためにムサシを甲種に認定した。

 

 そして話は現在に戻る――。

 

 

 

 

 


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