59_一刀両断_ムサシ
君影研究所に大量の怪我人が押し寄せたことでムサシを含むスタッフ全員が総動員していた。
(これだけの怪我人……不自然だな)
「おーい! こっちに消毒液!」
「わかった!」
フソウと共に応急処置を行いながら患者をさばいていくが、すでに十時間以上もひっきりなしに怪我人出ている異常事態だった。
(どこかで暴動でも起きたか?)
ムサシは患者の男に包帯を巻きながら尋ねる。
「何があったんだ?」
「……近くで感染者の大軍が押し寄せてな」
患者の男は目を一瞬だけで左右に振った。
(言葉に迷った? 何かを隠しているのか?)
「感染者の大軍、それは大変でしたね」
「ああ、大勢死んだよ……」
男は悲しい表情をした。
(辛いことを思い出したのか……そりゃあ言葉にも迷うか)
「もう大丈夫です」
包帯を巻き終えるとムサシはにっこりと微笑む。
立ち上がって次の患者の手当に向う。
「おーい、ムサシ!」
「何ですかフソウさん」
「そろそろ休憩いっとけ、三十分だけでも休めると違うから!」
「……ですが」
「いいからいいから、どうせ即死するような奴はいねえし」
「ではお言葉に甘えて」
「おう!」
ムサシは自室に戻って休憩をする。
(今日は疲れるな……)
窓を覗けば夜空に月が浮かんでいる。
(あ、そう言えば)
テーブルの上、無造作に置いてある錆びた刀を手に取る。
(研ぐのは明日やるとして状態だけ確認するか)
錆びた刀、その刀身に触れる。
(うわぁ……こりゃ酷い。鉄が生きてれば良いんだけどなぁ)
そう心の中で呟く矢先。
刀身が自重に耐えられず真っ二つに折れる。
「あちゃあ……ん!?」
地面に落ちた刀身の片割れは粉になり綺麗に消え去った。
それどころか握っている刀そのものも錆だけを手に残して綺麗に消えていた。
「何が起こった?」
刀は既に限界だったのか、それともムサシが疲れすぎて幻を見ていたのか、錆びた刀は綺麗さっぱり無くなっていた。
「疲れてるな……それとも人を斬り過ぎたバチかな」
ムサシはベッドに寝転ぶと目を閉じる。
アラームを二十分後にセットして休憩を始める。
だが十分もしないうちに喧噪の声でムサシは目を覚ます。
不吉な予感が背中をぞわぞわと撫でるような気がした。
直ぐに起き上がりいつも使っている刀を手に取ると足早に自室を抜け出した。
(何の騒ぎだ……?)
その答えは誰に聞くでも無く、すぐにわかることなる。
廊下に倒れる女性、背中にはナイフが二本刺さっている。
床には血だまりを這ったような血痕がびっしりと滲んでいる。
「フソウさん!」
倒れるフソウの奥を見ると穏やかじゃない得物を持った人間がぞろぞろと歩み寄っている。
「なんで……」
武器を持った男の一人が声を上げる。
「ムサシ、お前、ずいぶんと恨まれているな。みんなお前に殺されかけた奴らばかりだ!」
ムサシは目を見開いて動揺の色を浮かべる。
(いや、待て先にフソウさんだ)
ムサシは迷うこと無くフソウに駆け寄り彼女の腕を掴むと引きずってアンナのいる診察室に入る。
「母さん! フソウさんが!」
「いきなりどうした! 治療中だ――ッ!?」
アンナはフソウの状態を見るいなや非常ベルを鳴らす。
幸い診察室にいるスタッフは別な通路から無事に習合する。
「行くよ」
「待――!」
ムサシは制止の声を遮って診察室を飛び出す。
(小生のせいだ。だからここで終らせる)
直ぐ傍まで暴徒と化した奴らが押し寄せる。
静かにムサシは刀を走らせる――。




