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29_鼓動継承_ナガト

 

 

 穏やかな陽気。

 窓の外は葉桜が青々と背を伸ばしている。

 

「…………」

 

 ナガトは初夏の匂いを感じる。これから梅雨入りして雨が長引く鬱蒼とした日々が続くだろうなと心の隅で呟く。

 

(姉ちゃんも少しは時間が取れるのかな。そしたらゆっくり話をしたいな)

 

「迷惑掛けたな……」

 

 ナガトはベッドから出ようと掛け布団を剥がす。

 

「うぉあ!?」

 

 体の至る所に繋がれたコードやチューブが繋がれていた。

 

「目を覚ましたか」

 

 アンナがドローンを連れて病室に入る。

 

「お、おはようございます」

「ふっ、今は15時、おはようの時間では無いさ」

「そうですしたか」

 

 

「約3ヶ月、君は昏睡状態だった」

「え、まじ!?」

「内臓の拒否反応が一切無かったのは奇跡だね。感謝するといい」

「え、ありがとうございます?」

「礼を言うのは私じゃないよ。ついて来るといい」

「あ、えっと」

 

 ナガトは自分に繋がれたチューブなどの扱いに悩む。

 見かねたアンナが手際良くそれらを外す。

 

 アンナに案内された場所は地下実験乗だった。

 さらにその奥にある厳重なセキュリティとアンナの指紋と網膜、声帯認証を行ってようやく入れる場所にたどり着く。

 

「え……」

「これが……ナガト君が今も正常に生きている真実だ」

 

 強化ガラスの円筒の中、成人がすっぽりと収まるカプセルの中に、見覚えのある人物が中に収められていた。

 

「え……」

「君は猛毒を飲まされて、臓器のほとんどが再起不能。このまま死ぬか否かというところにフソウが内臓を提供した」

「ちょっと待って、そんなこと俺は――」

 

「それがフソウの願いだ」

 

「それ……それじゃ……」

 

 

 アンナは手を額に宛がう。

 

「だがまだ彼女は死んだわけじゃない。内臓を複製し再度移植すれば理論上は蘇生する」

 

「内臓の複製……そんなことできるのですか?」

「人工多能性幹細胞から臓器を作ることは200年前には出来た報告はあるが移植の事例は今までない。技術的な部分もあるが、宗教倫理や生命倫理の観点から度々問題視されているのだよ」

「じゃあやっぱり――」

「違うよナガト君」

 

 アンナは深呼吸をする。自分を追い込むように覚悟を決めて。そして宣言する。

 

 

「無ければ作るだけだ」

 

 

 友の為に、ただそれだけ。

 アンナは動く。

 

「俺は何をすればいい?」

 

 姉の為に、ただそれだけ。

 ナガトは動く。

 

「ついてきたまえ」

 

 

 

 

 

 

 理由は余りあるほどに十分。

 

 

 ナガトは受け継いだ鼓動から響かせる。

 

 もう一度あの声を聞くために。

 

 

 ナガトは誓う。

 いつか来る(きた)日に言う言葉を

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ナガトは呟く。

 

 

 

 鼓動継承 完。


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