28_鼓動継承_アイリ
アイリは愕然としていた、
これから相手取ろうとしている相手、それもたった一人にシルバーベルは何もすることが出来なかったのだから。
騒ぎがようやく落ち着き見せたところで、アイリはゆっくりと紅茶を飲んでいた。
だが内心は焦りが募っていた。あくまで優雅に気丈のふりを見せて周りを落ち着ける意味合いもあった。
(何なのあの感染者、文字通りバケモノじゃない)
大門を赤子の手をひねるよりも容易く破壊し、牢屋を障子でも破るように粉砕したあの光景がフラッシュバックする。
当然、アイリが抱えていた感染者反対派の士気も落ち込んでいる。
「どうする聖女サマ?」
「クラウン、うるさいですよ?」
「ハハ、失礼しました」
クラウンは相変わらず飄々とした態度をしている。
「ナガトは死んだのかしら?」
「あれだけ大量の毒物を飲めば助からないだろうね。生きてたら拍手を送るよ」
「それならいいのだけれど」
「何を心配しているんだい?」
「万が一ってこともあるでしょう?」
「本当に万が一だけどね」
紅茶を一口。
「でも司祭の死は僥倖ね。ナガトとフソウにうまく誘導できたわ」
「まさかあんな上手くいくとは思わなかったさ」
「フソウの能力は誤算だったけど上々ね」
「ま、あれは特別だから」
「特別?」
「あ、聖女サマは知らないよね。感染者の等級」
「そんなのがあるのね」
「通常は1から10、10が一番下で1が一番上」
「それでフソウは一番上ってことからしら?」
「まぁ、話は最後まで落ち着いて聞いてよ」
「わかったわよ」
「1等級の上があるんだ」
「更に上があるの?」
「甲乙丙と続いてるんだ」
「めちゃくちゃ多いわね……」
「男の子は何かと階級とか等級を付けたがるもんだよ」
「わからないわ」
「それでフソウは甲種等級なんだ」
「つまり?」
「あれが君影研究所所属感染者の最高等級ってことだよ」
「最高等級……あれを倒せれば他の感染者も目じゃないわけね」
「そう言う事!」
「じゃあ、次の狙いは甲種狩りね。それまでゆっくりと今は力を溜め込みましょう」
聖堂の真ん中でアイリは紅茶をゆっくりと口に運ぶ。
「あっ、クラウン」
「なんだい?」
「ナガトを生きて捕まえてと言ったのに直ぐに毒殺しようとしたでしょ?」
「ちょっと楽しくなっちゃって」
「今回は目を瞑りますが次はお仕置きですよ?」
「はいはい、仰せのままに」
「気をつけてちょうだい。本当に」
アイリはため息をつく。
(感染者に恨みは無いですが私の楽園の為、礎になってもらいましょう)
アイリの楽園は少しずつ輪郭を浮き出し始めていた。




