27_鼓動継承_フソウ
フソウはナガトを助けるためにバイクを飛ばして数時間で京都から埼玉にあるシルバーベルの拠点へ到着する。
鋼鉄の大門の前に堂々とバイクを止める。
「止まれ」
守衛がフソウを止める。
「君影研究所所属フソウだ。ナガトがここにいると聞いて迎えに来た」
「そんな男は知らない」
「何で男だってわかんだよ?」
「……それは」
フソウは鼻で大きく息を吸う。
「いるな。弟の匂いがする」
バイクから下りるとレザーのジャケットを脱ぐ。
ジャケットの下は黒のビキニ姿で膨らんだ大きな胸につい目が留まる。
「おい、守衛、ここを通せ」
「感染者は通せない」
「弟も感染者だけど通ってるじゃねえか」
「それは……いや、扉を開けることは出来ない」
「そうか、じゃあ勝手に通るぞ」
「えっ――」
鋼鉄の大門に手を付ける。
この扉は見ただけ1トンを悠々超える重さだ。
それを――。
「か、片手で扉が……嘘だろ……バケモノ」
両開きの大門は内側をかんぬきで止めている。
何が起こっているか。
非常にシンプルだ。ただフソウが力業で扉を壊しながら開けて中に入った。ただそれだけだ。
何も難しい事は無い。
何も理解できないことは無い。
君影研究所所属、フソウ、等級甲種。
その群を抜いた怪力と嵐のようにあらゆるものを薙ぎ倒して突き進む姿から、いつしかこう呼ばれるようになった。
皆伐者――と。
大門はダンプカーに突っ込まれたかのようにひしゃげ、門としての機能は既に果たせなくなっている。
身長175cmのフソウの体のどこにこれほどの膂力があるのか、誰もが目を丸くした。
当然これだけの騒ぎになれば、守衛もぞろぞろ集まりフソウと対峙する。
「これ以上は行かせるわけにはいかない」
決意を言葉にする。
「――――ッ!!」
フソウは咆哮を上げる。
そして守衛を手で掻き分けながら、奥へ進む。
大の男達でさえその咆哮の音圧と警告を理解してしまう。
――殺ろそうとするなら、殺す。
生物としての格が違う。
人間がどうこうできるレベルを明らかに振り切ってしまっている。
そう本能が告げる。
嵐の前ではいかなる者もただ去るのをやり過ごすしかない。
(やり過ぎたか?)
これでまだフソウは全力を出していない。
それどころか、準備体操にもなっていない。
フソウは再び大きく息を吸う。
(こっちだな)
ナガトの匂い辿ると牢屋のよう場所に着いた。
(血の臭い……さっきは無かったはずだ)
フソウは嫌な予感を拭うために駆け出す。
目的の場所に着くと二人の男女、血を出して死んでいる老人と衰弱したナガトがいた。
「ナガト!」
男女には目もくれず大切な弟の容態を確認する。
(かなり酷いな……)
ガチャン。
牢屋の鍵がしまる。
「……おい、お前ら、とっととここから出せ」
「そんなことすると思う?」
男が生意気そうな口調でフソウを煽る。
「そうか」
ナガトを背負うとフソウは牢屋を蹴破る。
たったの一撃で牢屋そのものを鉄格子ごと破壊する。
(こいつらに構ってる暇はね無え。急いで研究所に戻らねえと)
フソウは直ぐにバイクへと戻った。
夜の砂利道をバイクで駆け抜ける。時間は無い。
アクセルを握る力が強くなる。
「姉ちゃん……?」
「ナガト、大丈夫か?」
「…………」
(意識の混濁、手足の痙攣、有毒植物の症状にに似ているな……)
夜明けになる一歩手前で君影研究所に戻ると、直ぐに緊急治療室に運ばれた。
治療室前でフソウ座り込む。
しばらくしてアンナが集中治療室から出てくる。
「すまない。助かりそうにない」
「嘘だろ……何とかならないのか?」
「今まで生きている方が奇跡だ。相当な速度で体を再生させているが内臓のほとんどがダメになっている……」
「どうにか出来ねえのかよ!」
「臓器移植できれば……そんなものは直ぐにどうこうできるものではないか」
「臓器……臓器があればいけるのか?」
「そりゃ……まさか! そんなの許可するわけないだろ!」
「構わねえ! やれ! やってくれ!」
「医者としても、友としても、組織としてもそれは出来るわけ無いだろ! どっちかが死ぬだけ!」
「姉より先に弟が死ぬバカがあるかよ! お前は自分の子供が死にかけたら臓器ぐらい渡すだろ!」
アンナは言葉を詰まらせる。
「アンナ、最後の頼みだ」
「……わかった」
「ありがとう」
「だが、君を特殊冷凍保存させてもらうよ」
「死体は好きに使ってくれ」
「いや、内臓摘出後に君を冷凍保存して代替臓器を作成して君を必ず蘇生させる」
「臓器作成は未だに成功事例がないだろ?」
「……たとえ何十年掛かっても君をこの世界に連れ戻す!」
「ふっ、そうだな。じゃあちょっくら一眠りしてくる。頼むぜアンナ」
拳をコツンと合わせて、フソウは歯を剥き出しにしてニッコリと笑った。
夜中に食べるカップ麺のうまさたるや……。




