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オリエンテーション(1)

 レイは教師の一人に案内され、自身が入ってきた魔法陣の部屋を出て大広間に連れてこられた。そこでは先に来た生徒が沢山集められており、8か所に分かれた状態で椅子に座って大人しくしている。レイも彼らと同じように椅子に座って時間が来るまで待つことになった。


(まだ結構時間があるんだ。……暇だな……)


 現在の時間は8時45分。オリエンテーションが始まるのは9時なので、まだまだ時間はある。当然、レイ以外の生徒も暇であった。同じ学科が集められているとはいえ、周りは知らない相手である。レイもすぐに話しかける気にはならなかった。


「くそ……よりにもよって風学科行きかよ……」

(……?)


 横から聞こえてきた愚痴にレイは耳を傾けた。その愚痴を言っている生徒は、青い髪と黒い目が特徴であった。


「この俺が、ブレクが、よりにもよって屑の集まりと同居することになるなんて……ふざけるな。俺の方が周りの奴よりも優れているはずなのに。何で俺じゃなくてあいつらなんだよ」

(……光学科の受験者?)

「畜生。あのババア、調子に乗りやがって。俺がこんなゴミ箱に入れられるなんて……絶対に許さねえぞ。あいつの教え子を模擬戦で叩き潰してでも、俺が光学科に上がるんだ」

(……まあ、勝手に頑張ってね?)


 横で愚痴っていた相手、ブレクに心の中で感想を述べつつ、レイは意識を外した。その直後にブレクと反対側からまた愚痴が聞こえる。その愚痴を言っている相手は、赤色の髪に黒い目だった。


「俺が落ちこぼれ学科だと! ふざけんな! 俺は絶対に上がるんだ! 今に見てろ、周りの奴を食いつぶしてでも俺は光学科に上がってやるんだ!」

(これも光学科の?)

「上がれるのはレイスなんかじゃねえ。栄光ある光学科に上がるのはこのイビル様だ!」

(……そんなに光学科が良いのかな? というか、レイス? レイスがどうかしたのかな?)


 レイの隣にはどっちも光学科に受験して落とされて風学科に入れられた生徒が居た。両方ぶつぶつ文句を言っている。


(どっちにしろ、ここが嫌ならばさっさと出て行った方が良い気がするんだけどな……)


 レイのように、自分から風学科を受験した人間にとってはこの二人のような存在はあまり良い物ではなかった。彼らは、互いに関わることは無い。相手の存在は居ない物と思っているのだ。そんな時、このクラスの担当がやってきた。


「さて、と。今年の専願者もとい、風学科に入ることを望んだ人は何人居るのかな? まあ、例年さり気なく一人はいるから今年も居ると思うんだけどね」


 声の主は緑の目と、腰まで伸びた緑色のポニーテールが特徴の若い女性であった。外見だけだと20くらいにも見えるだろう。


「えっと、風学科に専願した人居る? 居たら手をあげて」


 レイは無言で手をあげた。周りには手をあげた生徒は居ない。


「ん~……一人だけか。まあいいや。じゃあ、君はこっちに来て」

(え?……とりあえず、行くだけ行こう……)


 先生に手招きされ、とりあえずそっちに向かうレイ。


「じゃあ、君はこっちに座ってて」

「は、はい……」


 突然呼ばれ、周りと別の席に座らされたレイ。困惑していたが、とりあえず従うしかない。


「えっと、それじゃ次。風学科でやるくらいなら光学科に行きたい、というか、光学科志望してたのに落とされたって人どれくらい居る?」


 先生の問いかけに反応したのはレイを抜いた全体の半数。22人である。彼らは、皆成績不足で光学科には入れず、そのまま風学科に入れられたのだ。


「えっと、今年はこれで22名追加と……それじゃ、残りは他の学科を受けたって事かな?」


 その問いに反応した者20名。残りの2名は、ただ魔法を学ぶためだけに来たようだ。


「じゃあ、君たち2人はこっちに来て。それと、君たち42名は風学科に入る気があるかどうか、一応後で聞くから」


 どうやらこの先生、風学科に入る気のない生徒と入る気の生徒を分けているようである。まあ、実際風学科に入る気のない生徒に魔力着色をやらせる必要はないし当然なのだが。だが、そんなのは生徒には分からない。


「……何で分けてるんだろ?」


 生徒を分けていることを疑問に思ったレイだが、その呟きは誰にも聞かれることはなかった。


「さて、君たち3人は少し待っててね。じゃあ、君たち42人のうち、元の学科をやめて風学科に入っても別に構わないと思う人はどれくらい居る?」


 レイや生徒の疑問を気にせず、生徒の「仕分け」を続ける先生。この42人の中で手があがったのはわずか1名だけであった。


「じゃあ、君はあっちで3人が居る所に座っていて。残りはこっちに来て」


 セフィナに連れられてきたのはレイの兄、レイスだった。レイと全く同じような容姿で、どっちがレイでどっちがレイスかは本人たち以外は話してみないと分からないだろう。


「レイス?」

「レイ……話は落ち着いてから……」


 この先生の所に来た生徒45名のうち、実際に風学科に入ることになったのはわずか4名であった。彼らを除いた41名はそのまま落ちこぼれ学科へと入れられるのだ。光学科からの脱落者は1か月ごとの定期脱落以外にも不定期に出るため、彼らはその時の補充要員として扱われる。


「これで全部ね。じゃあ、先に寮に案内するから。ついてきて」


 先生によって先に移動させられる生徒たち41名。彼らは先に寮に案内された。


「一体何が目的なんだろ?」

「さあな。俺たちが上に行くチャンスだろ」

「そうよね。私達なら上に行けるわ!」


 落ちこぼれ学科に入れられた生徒たちはまだ知らない。自分たちの入ったところはまさに退学への一本道であることを……。先ほど風学科に入ることを選ばなかった場合、光学科には入れるがついていけるような状態では無くなるということを……。


 彼らが先生に率いられて行ってしまった直後、学長の話が始まった。学長は白髪が少し混ざった黒髪と紫の目が特徴の男性である。年齢は、大体50代くらいだろうか。


「さて、皆さん。ようこそ、我がデルテミア魔法学院へ。私は、学長のメビウスという者です。長々しい話は好まないので、単刀直入に必要な内容のみ話します。まず、本学では訓練室を除き、攻撃用の魔法は効果を発揮しません。これは、訓練室以外には攻撃魔法を無効化する攻撃魔法無効化結界を張っているためです。次に、訓練室ですが、各学科の訓練室にはまだ非殺傷結界が届いていないため、攻撃魔法無効化結界で使用を禁止しております。仮に学科の訓練室に入っても、結界のせいで攻撃魔法の練習ができませんので、気を付けてください。攻撃魔法の訓練は、共同訓練室で行ってもらうことになります。共同訓練室には非殺傷結界が張ってあるので、攻撃魔法を撃っても大丈夫です。互いに邪魔をしないように気を付けて訓練してください」


 纏めると、訓練室は共同訓練室のみ使える。そして、他の場所では攻撃魔法を使うことは出来ない。という事である。


「結界の事ですが、攻撃魔法無効化結界とは文字通り攻撃魔法を無力化する結界であり、これは新暦63年2月23日5時23分59秒12にモーテスという……」

「メビウス学長。それでは生徒が眠ってしまうので必要な内容だけを伝えますね。攻撃魔法無効化結界とは、名前の通りに攻撃魔法だけを無効化します。そして、非殺傷結界とはその中ではすべてのダメージを仮想のものにしてしまい、現実の身体に対するダメージを無くします。非殺傷結界の中では絶対に死なず、体には後遺症も残らない。これで良いですね、学長?」


 メビウス学長が結界の詳細を長々と語り始めたのを見て即座に青い髪の女性が割り込み、話を切って要点だけ伝えた。


「おお、つい長話をしてしまう所でしたね。教師として立っていた時もありましたし、その時の癖なのでしょう。では、魔法に関する注意点を。魔法とは確かにすばらしい力です。その気になればほとんどの事が出来るでしょう。ですが、魔法とは使い方を間違えると非常に危険な物になるのです。やろうと思えば人一人殺すのは非常に簡単です。だからこそ、使用する者はその危険性を知っておかなければなりません。自分がそのような力を人に向けないために、心も、体も、強くあらねばなりません」


 学長は話を切られたことを気にするそぶりも無く、次に生徒に伝える話をすることにしたようだ。魔法とは確かにすばらしい力ではあるが、その使い方を間違えると非常に危険であると言う事である。


「料理をするのであれば、刃物を使いますよね? あれと同じです。魔法も、刃物のような物なのです。使い方を誤るとただの暴力にしかなりません。くれぐれも、気を付けてください。それでは、私の話はこれくらいにしましょう。魔力に関することは……明日でもいいでしょう。今日は君たちに、この学校に慣れていただきます。各先生方に案内してもらってください」


 学長の一声で解散になったが、風学科と光学科はまだ先生が戻ってきていなかった。


ーーーー


 風学科の寮の一角で、二人の教師が話し込んでいた。片方は先ほどレイが出会った緑色の髪と目の女性であり、もう片方は、金髪に緑の目のおばさんであった。金髪のおばさんの方がノートのような物の中身を見ながら、緑髪の女性と何やら話している。


「セフィナさん。これが今年の落ちこぼれ学科の名簿ですね?」

「そうだよ。私は風学科の子を連れてこなければいけないからもう行くけど、構わない?」

「ええ。構いませんよ。落ちこぼれの処理は私が行いますから」

「じゃあ、それに載ってる生徒に関してはいつでも光学科に出していいからね。メリシア」

「ええ。いつも助かります」


 緑の髪の方の教師、セフィナは風学科に受け入れることを決めた4人を迎えに行った。彼女は、自発的に風学科に入る気のある生徒や、風学科でも良い生徒以外はこうして落ちこぼれ学科に入れているのだ。彼らを無理に風学科に入れると風学科の空気が悪くなるし、彼ら自身も風学科で学ぶ気が無いからである。


「ふう……セフィナさんも随分厳選しますね……私の方は数を集めて潰し合わせて優秀な子を探しますが、その方針のメリットが何故か理解していただけないんですよね……。向こうから自発的に強くなってくれるので先生としては助かるんですがね……。やはり、人気の差でしょうか……」


 メリシアは自分が取っている方法の最大の欠点を分かっていない。そのため、これが最高の方法だと思っているのだ。確かに優秀な生徒を育てたい先生にとっては最もいい方法の一つであるが、生徒にとっては周りと常に潰しあう事はどれほどのストレスになるのか……。


ーーーー


 風学科の所に、ようやくセフィナが戻ってきた。


「ごめん、結構待たせたよね。じゃあ、風学科の寮に行こうか。ついてきて」


 風学科の新入生4名を連れて、セフィナは風学科の寮へと歩き出した。風学科の寮には入口が二つある。二つある入り口の存在に気付いたレイがセフィナに質問する。


「先生、あっちに見える入口は何なんですか?」

「ん? ああ、あっちは最初に案内した方の部屋。君たちはこっち」

「……どうして分けるんですか?」


 レイの疑問に周りの風学科も心の中で同意していた。分ける必要があるのはどうしてなのか気になっていた。だが、セフィナの答えはやけにあっさりしていた。


「学科が違うからだよ。向こうは落ちこぼれ学科の入り口。外では確か、退学の一本道とか言われてたっけ?」


 レイの方を見ながら、セフィナが落ちこぼれ学科の入り口を右手の人差し指で指して示す。セフィナの話はまだ続く。


「風学科と落ちこぼれ学科を一緒にしている……ううん、入りたがる人数が極端に少ない風学科に補充要員に使える落ちこぼれ学科の名簿だけ置いてあるの。あっちは絶対こっちには来ないから安心して」

「……風学科に入りたがる人って、どうしてこんなに少ないんですか?」


 レイが聞いたのはある意味一番気になる質問である。レイ以外に3人。つまり、たった4人しかいないのだ。レイ以外は別にどこでもよかっただけであるから実質レイ一人だけである。


「ああ、それは単純だよ。たまたま4年前に風学科の入学者が極端に少なくて、光学科から補充用の生徒を倉庫代わりに預かってくれって頼まれたの。それを引き受けたら、その年から世間の評判が風学科=落ちこぼれになってしまって、それ以降入学希望者が急激に減ったってわけ。その年はうっかり同じクラスにしてたから、預かっていた生徒が問題を起こしたら全部風学科のせいになったの」

「そんな無茶苦茶な……」

「で、それからも空きができたから光学科の補充用の生徒を預かってはいるけど、問題ばかり起こすから評判は悪くなるしクラスの雰囲気は悪化するしでロクなことにならないから別の場所に隔離したの。それがあっちの入口。分かった?」

「は、はい……よく分かりました……」


 明らかな冤罪なのだが、それを言っても世間は信用しなかったので、こういう状態になってしまっているのだ。レイ以外も驚きを隠せない様子である。


「さてと。それじゃ、そろそろ風学科の寮に行きましょうか」


 また歩き出したセフィナについていき、新しい風学科の生徒が寮に入って行った。風学科での生活がいよいよ始まる……。

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