オリエンテーション(11)
レイside
昼食を食べ終わった後、僕たちは共同訓練室に戻って他の学科の生徒に魔力の動かし方を教えることになった。
皆まだ昼食を食べていたので一足先に共同訓練室に戻ると、風学科が練習に使っている辺りでセフィナ先生と他の先生が何やら話し合っているのが目に入った。
一人がセフィナ先生なのは分かるけど……他の二人は誰なんだろう?
一人は黒い髪の先生で黒いローブを着ている。……闇学科かな?
もう一人は黄色い髪の先生で、紫色のローブ……これは……雷学科だっけ?
「一応、四人全員教えられることになったからね。私もそっちの生徒を教えることにするよ」
セフィナ先生が黒いローブの先生にそう告げる。
……そっちって事は、闇学科?
「助かる、セフィナ。正直、俺一人では手が足りん。闇学科の生徒は向上心だけ高くて誰も周りに教えようとはしないしな。今も先に進むことしか言おうとしない。……四人全員借りていいか?」
黒いローブの先生がセフィナ先生に闇学科の生徒の愚痴を言っている。
……レイスやルーベルみたいなものなのかな?
「ええ!? ちょっとクライズ先生! 僕の所にも一人くらい回してよ! 僕一人じゃ雷学科の生徒全員にはとても目が届かないって!」
黒いローブの先生が四人全員借りると言ったとたんに紫のローブの先生が声を上げた。
……一人じゃ目が届かないって……。四十人ってそんなに多いのかな?
「諦めろ。それがお前の試練だ、ウォルト」
「クライズが楽したいだけでしょ! 大体、四人+セフィナ先生全員闇学科に回すって理不尽じゃないか! 一人くらい雷学科に回してくれたって罰は当たらないよ?」
黒いローブの先生が紫のローブの先生――――ウォルト先生に軽い口調でそれが試練だって言う。
ウォルト先生は即座に黒いローブの先生――――クライズ先生に言い返してるけど、一人くらい回してくれてもなんて言ってる辺り、どこも人手が足りないのかな?
「じゃあ、私は雷学科を見ることにするからね。クライズ、風学科の皆には話はつけてあるから戻ってきたら言ってあげて」
「分かった。人手を四人借りられただけでも十分だ。……一番優秀な人間を回したんだ。感謝しろよ、ウォルト」
「クライズが決めたんじゃないでしょ~!」
そんな会話をしながらウォルト先生はセフィナ先生を連れて雷学科の方に行ってしまった。
二人を見送るように見ていたクライズ先生が戻ってきた僕に気づいたのか、向き直る。
黒い髪と赤い目が特徴的な先生だった。
「昼食の時にセフィナから話が言っていると思うが、まだ魔力を動かせていない闇学科の生徒に魔力の動かし方を教えてほしい。構わないか?」
「大丈夫です。……誰を教えればいいのか分からないですけど」
多分魔力を動かせる生徒もすでに居るだろうし、僕にはその見分けがつかない。
……誰を教えればいいのかな?
「……そうだな……。この時間に戻って来てる奴自体まだほとんど……ん?」
闇学科の練習場所に戻って来ていた数人の生徒を見ていたクライズ先生の視線が一人の生徒で止まった。
その生徒は他の数人の生徒から離れた場所で俯いて立っている。……多分集中しようとしてるのかな?
……距離があるから赤い髪と黒いローブしか見えず、顔の輪郭などは分からない。
「ああ、あいつはまだ出来ていないな。丁度良い。まだ時間には早いが、あいつは今から練習する気があるらしいから、あいつの面倒を見てもらうか。ついてきてくれ」
「はい」
今集中しだしたところだからしばらくそっとしておいた方がよさそうだけど……。
まあ、闇学科の事は闇学科の先生の方がよっぽど分かっているはずだよね。
「……また失敗しちゃった……」
「少しいいか?」
休憩時間に練習を始めた闇学科の子が一度集中を止めたのを見てクライズ先生が話しかけた。
……僕よりちょっと背が低いかな?
「あ……はい」
その子は先生の言葉を聞いて顔を上げる。
……今まで俯いてたから分からなかったけど……女の子だったんだ。
「ミリア、助っ人を借りてきた。既に魔力を動かせるようになっている人間に教えてもらった方がやりやすいだろうと思ったんだが……手を貸してもらうか?」
「……いいんですか?」
さっきまで魔力を動かす練習をしてた女の子――――ミリアは、先生の発言に驚いた様子だった。
……まあ、普通自分の練習を優先するよね。僕は別にかまわないんだけど。
「大丈夫だ。当人にも承諾はとってある。……頼んで構わないか?」
先生が僕に確認してくる。僕の答えは一つだけだ。
「大丈夫です」
元からそのつもりだったしね。
「助かる。……そう言うわけだ。ミリア、知恵を借りておけ」
「え? ……えっと、よろしくね?」
「うん。よろしく」
……でも、教えるって言っても、何を伝えればいいのかな?
「……さて、残りの生徒が戻ってくるまでまた風学科の練習場所に戻って待つとするか……。しかし、どうして同じ学科の生徒が出来てない生徒を助けようとせず、他の学科の生徒に頼らなければいけないんだ? 一度、その辺の事を話した方が良いだろうか……?」
クライズ先生はぶつぶつ何かを呟きながらまた風学科の練習場所に戻って行った。
……えっと……この子が魔力を動かせるようになれば良かったんだっけ?
「……じゃあ、僕に出来ることがあったら手伝ってあげたいけど……何か聞きたいこととかあるかな?」
「あ……じゃあ、どうやったら魔力に集中しやすいか、教えてくれる? ……何度集中しても上手くいかなくて……」
魔力に集中しやすくなる方法? ……確か……。
「えっとね……まず、自分の目に他の人や物がなるべく映らないようにした方が良いかな。こうすると、他の人や物に気を取られにくくなるから、こうするだけでも集中しやすくなるよ。それと……自分は魔力なんだ! って強く思い込むことが大事だよ」
「自分は魔力なんだ! って思い込む?」
首を傾げるミリア。……この例えだけじゃ分かりにくかったかな?
「うん。……まあ、実際には魔力になるのは無理なんだけど、魔力も自分の一部なんだ! って強く思い込んで、魔力と自分の意識をくっつけるように集中すればいいんだ。その状態で成功すると、簡単に魔力が動かせるようになるからね」
「魔力と自分の意識をくっつける……」
……えっと……説明、これで大丈夫かな?
「……ちょっと、やってみるね」
「うん。……あ、魔力に集中したときに身体の感覚が無くなっていくから念のために座った方が良いよ。もし倒れちゃったら大変だから」
「そうなの? 分かった」
僕の話を聞いて壁の方に身体を向け、座って集中し始めたミリア。
身体の感覚が無くなっちゃってたのは本当に怖かったし、言っておいて正解だったね。
「えっと……次はどうすればいいのかな? この子は集中してるから邪魔しない方が良いし……他は……」
呟きながら周りを見てみる。
……でも、そもそも今はまだ休憩時間中で、戻って来てる生徒自体ほとんどいないんだよね。
今ここには闇学科の生徒はミリアを入れて三人しか居ないし。
……でも、二人は練習してるようには見えないし、どうしようかな?
「おい、お前、風学科だよな?」
邪魔にならないようにミリアから離れた場所に移動して何をしようか考えていたら、誰かに声をかけられた。
声がした方を向くと、灰色の髪の、僕より背がちょっと高い男の子が僕に話しかけてきていた。
「うん。そうだけど?」
「こんなところに来てるって事は、やっぱり先生が呼んだんだよな?」
……そんなこと聞いてどうしたいのかな?
「……? ……うん。セフィナ先生――――風学科の先生に「出来てない生徒を教えてあげて」って頼まれたから……」
「そうか。お互い、出来てない間抜けのせいで足を引っ張られて大変だな」
「……え?」
……足を引っ張られる?
「そうだろ? 後々各学科の対抗戦やその対抗戦の代表選抜戦で争う事になる相手のせいで、僕達みたいな出来る人間は先に進めなくなってるんだ。……ほんと、無能な奴が来てるせいで進めないなんていい迷惑だ」
……レイスやクリスと話が合いそうだね……。
というか、どうして皆こういう考え方なのかな……?
何か月も先の学科の対抗戦とかその代表選抜戦の事をこんな時期から意識してるの?
「君も魔力を動かせるほうの人間なんだよな?」
「え? うん。ちゃんと動かせるからこうして教えに来てるんだけど……」
というか、そうじゃなかったら教えられる側になってるはずだし……。
「うちの先生が迷惑をかけたね。先生に代って謝罪するよ。ほんと、あの教師は余計な事しかしないからな」
「余計な事?」
クライズ先生、随分酷い言われようだけど……。
「僕達――――僕以外にもここで十五人は確認している、はもう魔力を動かせるんだ。なのに、いまだに先に進ませてもらえない。あの先生、できてない連中に教えてやれってそれしか言わないんだ。僕たちが練習終了後に集まって話し合いをして、苦労して、ようやく出来るようになったことを、どうして努力もしてない連中に教えてやらないといけないんだか」
「……」
「それだけじゃない。授業の話も聞いたけど、どうやら授業まで同じ方針でやるらしい。本当にふざけた教師だよ。あんなのが教師で良いのか」
「……えっと、要するに、魔法の授業も今と同様皆同じ内容をやって、出来ない子に合わせるって方針なの?」
……学科ごとに方針が違うって事なのかな?
風学科は今だけ皆でやって、魔法の授業は完全自習らしいけど……。
「そうだよ。本当にふざけた教師だ。ところで、風学科はどういう方針なんだい?」
「えっと……オリエンテーションと薬学は皆でやるって言ってたよ」
「ふん……薬学は恐らく全学科受講可能な共通科目の一つだな。僕たちの所の魔法術式と同じ物か」
「魔法術式?」
そんな授業の事、風学科の説明では聞いたこと無かったけど……。
「学科は違えど、足手まといに時間を無駄に削られてる同胞に特別に教えてやる。魔法術式はね、その名の通り、魔法を使うための術式……つまり、魔法の設計図を作るための授業だ。闇学科は必修になってるが、その他の学科でも普通に参加できるだろう」
「魔法の設計図を作るための授業……」
そんな授業もあるんだね……。
「そうだ。といっても、ここではあくまで基礎しか教えないだろうから、本当に欲しい魔法は自分で作るしかないだろうけどな」
「そうなんだ……。……ねえ、魔法術式みたいなだれでも参加できる授業の参加申請ってどこですればいいのかな?」
「そんなの、オリエンテーションの終わりに話があるだろう。まあ、個人的に担当の先生に話をつけても良いだろうけどな」
「そっか。教えてくれてありがとう」
「時間を削られてる同胞だし、特別だ。それに、その原因は闇学科の教師だからな。おまけに教えたところで報酬すらないんだ。誰かが払ってやらないといけないだろう?」
それだけ言うとその子は僕から離れていって別の子と話し始めた。
……そう言えばミリアは今どうなってるかな?
魔力を動かすのは本人しか出来ないとはいえ、教えてあげるってわりに説明だけして放置しちゃったような気がするけど……。
一応確認だけしようかな?
「えっと……ミリア、まだ集中してるのかな?」
ミリアは魔力を動かすために集中しているのか、まだ壁の方を向いて座り込んだままだった。
……まだ時間がかかりそう、かな?
そう思った時、クライズ先生の声が耳に入った。
「よし、全員集まったな? では、午後の練習を始める。まだ魔力を動かせない生徒は、連れて来た助っ人……緑色のローブの生徒に教えてもらってくれ」
振り向いてクライズ先生の声がした方を見ると、闇学科の生徒は全員集まっており、まだ出来ていないであろう生徒たちがクリスやレイス、ルーベルの所に集まっていた。
……残りの生徒は一ヶ所に集まってるけど、もう皆出来てるのかな?
さっき僕に話しかけてきた灰色の髪の男の子も居るし、多分出来てるんだろうね。
「……さて、お前たちに少し話があるんだが、聞いてくれるか?」
もう魔力を動かせる生徒が集まっているところにクライズ先生が歩いていき、何か話している。
……何を話してるんだろ?
「レイ、君が教えて。理解力が無さすぎる」
クライズ先生の話の内容が気になってたら、やってきたレイスに皆に教えることを頼まれた。
……って、それは良いけど、レイスはどうするの?
「理解できない人間に教えてもしょうがないでしょ。……代わりに頼んでいい?」
「まあ、それは良いけど……何もしてないのが先生にばれたら問題にならないかな?」
あくまで「教えてあげたら」明日から自由に練習しても良いって話だったし……。
「教えても理解する気が無いんだからしょうがないよ。僕が何度「魔力そのものになるようなイメージでやれ」って言っても通用しない」
「……まあ、一応やるだけやってみるよ」
レイスの説明は単刀直入すぎるからなあ……。
まあいいや。じゃあ、僕が教えてみるからね。
「うん。お願い、レイ」
それだけ言うとレイスは壁際に歩いて行って座り込んでしまった。
……せめて教えるそぶりくらい見せようよ……。
「レイ、手伝って」
ルーベルの声が耳に入った。
分かった、今行くからね。
「あ、うん。今行くよ」
この後闇学科の皆に説明してから皆の魔法練習を見守ることになり、午後の魔法練習の時間は終わってしまった。
終わった後、レイスは明日から自由に練習できるって喜んでたけど……。
確かに「居た」けど、レイスは教えられてなかったし、結局何もしてなかったような気がするよ……。




