オリエンテーション(10)
レイside
翌日、僕達は昨日と同じように魔法を練習するため、学科ごとに分かれて共同訓練室に集まっている。
横に立っているクリスとルーベルは傍から見ても凄いやる気に満ち溢れている。
……昨日、夕食を食べた後の自由時間に僕が出来るようになった事とルーベルの言ってたことが正解だったって事を伝えたら二人とも部屋に引きこもっちゃってたけど、その続きかな?
「皆揃ってるね? じゃあ、今日も魔法を使うための練習をしていこうね」
セフィナ先生のその言葉を皮切りに、レイスもルーベルもクリスも自分の事に集中する。
……僕は……どうしようかな?
「レイは今日はどうする? 風学科は昨日あれからあなたがやり方を二人に教えてくれたみたいだし、言っている間に終わると思うけど……」
魔法の練習をしようか、他の学科の所に行ってでも教えてあげようか、と悩んでいたら、セフィナ先生に声をかけられた。
「うーん……実はどうしようか決めてないんです」
魔法の練習をやっていきたい気持ちはあるけど、まだできていない人が居るなら教えてあげたい気持ちもある。
……だから、どっちにしようか決めてないんだよね……。
「そう……。じゃあ、今のところは自分の事をやりましょう。次のステップに進むために、魔力を分割する方法を教えるね」
「はい」
魔力を分割する方法……そもそも、魔力の分割ってなんなんだろう?
「今からあなたにやってもらうのは、体内の魔力を細かく分割する練習です。これは、後々魔法を使う際に絶対に必要になる技能の一つだから、絶対にマスターしてね」
「分かりました」
魔力の分割が魔法を使う際に絶対に必要になる……どういう事なんだろ?
「あ、分からないって顔をしてるね? じゃあ、どうして必要なのか、説明するよ。――――魔力を魔法として使うには、術式……つまり、魔法の設計図と、設計図通りに組み立てるための魔力が必要になるの。簡単に説明すると、積み木を組み立てて遊ぶのに、完成図の絵だけあっても肝心の積み木が無ければ出来ないでしょ?」
「積み木を魔力に例えると、設計図では五つ必要なのに、手元に四つしか無くて作れない……っていうイメージで良いんでしょうか?」
「うん。そう言うイメージで良いよ。まあ、実際には大きな魔力=大きすぎて使えない積み木、ってところだけどね。魔力を分割するのは、小さくすることで積み木の数自体を増やすって意味合いもあるんだけど、大きすぎる積み木一つを細かく崩すことによって使いやすくするって意味もあるんだよ」
「へえ……」
だから魔力の分割が必要なんだね。
確かに、今動かせるようになっているあの魔力の塊を丸ごと一個魔法に使うわけにはいかないよね。
「イメージはともかく、どうして習得が必須なのかは分かってくれた?」
「はい。大きな魔力を丸ごと一個一つの魔法に使うわけにはいかないから、ですよね?」
「正解! ……そうそう。もし体内の魔力を出し切っちゃうと、魔力欠乏症で倒れちゃうからね。魔力の塊をそのまま一つの魔法に使おうなんて人はまずいないけど、そんなことしたら気分が悪くなって倒れてしまうって事も覚えておいて」
「魔力欠乏症って何ですか?」
魔力欠乏症……聞いたことない言葉だけど……。
「この言葉も説明しないといけないね。文字通り、体内の魔力が空になっちゃったことで生じる状態よ。使ったことが無くても魔力はいつも自分の身体の中に存在している事は知っているでしょ? その魔力が身体から全部無くなっちゃったら、今までそこにあった物が無くなるわけだから、何かしらの不調が起きてもおかしくないよ」
「……初めて聞きました。魔法を使う際は、魔力が無くならないように気をつけます」
「まあ、魔法に触れることのない人には縁の無い話だよ。だって、魔力を持ってても使う機会が無いからね。でも、君はこれから魔法に触れることになる。だから、覚えておいてね」
「はい」
……無理して魔法を使いすぎないように、注意しないとね。
「……さて、脱線したけど、本題に戻るね。魔力を分割するって言ったけど、どんなイメージを思い浮かべた?」
「そうですね……。大きな塊を二つに分けて、その分けた塊を更に二つに分けて行くようなイメージが浮かびました」
「なるほど。要するに、塊を二分割していく方法だね。……じゃあ、まずはその方法でやってみようか」
「はい」
よし。早速練習してみよう!
「……一度に魔力の塊を十数個動かすなんて無理難題だからこれで失敗するのは確実。……でも失敗から学ぶこともできるし、危険が無いから敢えて言ってみたけど、成功したらどうしようかな? ……意識を一度に十数個の魔力全てに等しく向けるなんて私にも無理だし、大丈夫か」
ーーーー
「よし。早速やって行こう!」
まずは身体の中の魔力を動かして……二つに分けるイメージで動かして行こう!
大きな塊を左右に引っ張って……! 行けっ!
「……あれ? こんなに簡単なの? まあ、二つに分けるだけだから当然だよね」
意識を集中すると、魔力の塊はあっさりと二つに千切れた。
じゃあ、この調子で次はこの二つを四つに分けよう!
……えっと、二つの塊をそれぞれ左右に引っ張って……。
(……あ、あれ? 上手く動かない? 動くけど、上手く千切れない?)
さっきは簡単に分割出来た魔力の塊だけど、今度は何故か上手く分割することができない。
……もしかして、二つ同時に分割するのは難しいのかな?
(じゃあ、片方に意識を集中して……!)
さっきのように分割するため二つの魔力の片方だけに意識を集中した。
直後、僕の意識から切り離された魔力が今僕が分割しようとしていた魔力に吸い寄せられるようにくっついてしまった。
そのため、最初に分割した成果が無くなってしまい、元の大きさに戻ってしまった。
「あ……あれ……? 意識から切り離したら勝手に戻っちゃうの?」
魔力は確か、動かすときも意識を集中しないとすぐに元あった場所に戻ってしまってたよね?
切り離して小さくするときにも意識を集中しないと同じ事が起きちゃうんだ……。
「……でも、たまたまって可能性もあるし、何度もやってみよう!」
たった一度の失敗でうまくいかないって決めつけるのは駄目だよね。
何度もチャレンジしてからじゃないと、結論は出せないよ。
……もう一度……!
ーーーー
「……駄目か。やっぱり、一度に複数の魔力を動かすのって無理なのかな?」
あれからしばらく練習したけど、魔力二つをもう一度分割するところまではなんとか出来た。
でも、四つ同時に分割したり、四つのうちの三つを勝手にくっつかないように抑えつつ、一つだけ分割するようなイメージを組んでも魔力が上手く動かない。
「……やり方がまずいのかな? このやり方でやっても細かく分割出来ないよ……」
魔力の塊自体は細かく分割することで小さくなっていくんだけど、その時に数がどんどん増えていく上に増えた小さな魔力全部に意識を集中しないと戻っちゃうからな……。
「はい、そこまで。昼食の時間だから、皆一旦練習を中断してね」
練習のやり方を変えた方が良いのかもしれない。
そう考えたとき、昼食の時間を知らせる先生の声が聞こえた。
他の学科の生徒も、皆練習を止めて食堂に向かっていく。
当然、僕も食堂に昼食を食べに向かう。
「……このやり方じゃ多分無理だから、やり方を考えた方が良いかな……」
食堂に向かう道中、僕はどうやったら上手く魔力を分割できるのか、そればかり考えていた。
ーーーー
「食事中に悪いんだけど、ちょっと聞いてくれるかな?」
昨日と同じように食堂で昼食を食べている最中、セフィナ先生が突然話を始めた。
「レイスも……悪いんだけど、ちょっとこっちに来てくれるかしら?」
「……分かりました」
昨日同様一人違うテーブルに座って一人で食べていたレイスも僕たちと同じテーブルに呼ぶセフィナ先生。
……話って何だろう?
「皆は全員魔力を動かせるようになったよね。でも、他の学科の生徒には出来てない子が大勢いるの。先生の手も足りていないみたいだし、他の学科の生徒たちに教えてあげてくれないかな?」
先生の話は「他の学科の生徒に教えてあげてほしい」という物だった。
……僕は別に良いけど……皆はどうなんだろ?
「どうしてですか? 僕たち全員出来ているなら風学科だけ先に進んでも問題ないはずですけど」
不快感を隠そうともせず、クリスが先生に言った。
……そう言えば、クリスってレイスと似たような考えしてたよね。
確か、他人と関わったら技術を盗まれるとか言ってたような……。
「うーん……それがそうもいかないの。確かに風学科だけ個別にやっているなら、二週間もこんなオリエンテーションしなくてもいいかもしれないけど、他の学科の生徒の半数以上はまだ魔力を動かすことすらできていないのよ。担当の先生も頑張っているんだけど、それでも全員をカバーするなんてできていないの」
…………まあ、他の学科の生徒の数って確か四十人は居たよね? 確かに一人で四十人に魔法の使い方の練習を教えるのは無理がありそうだけど……。
「だから、既に皆魔力を動かせるようになった風学科が他の学科の生徒に教えるお手伝いをしてもらおうかなって思ったわけ」
……僕は教えても別に構わない……というか、元からそのつもりだった。
だけど、レイスやクリスが首を縦に振ってくれるかな?
レイスなんて、いっつも奪われるって言ってるし……。
「どうかな。やってくれない?」
「「嫌です」」
案の定、クリスとレイスは即座に断っちゃった。
……いくらなんでも、即答は駄目だよ……。
「……どうして?」
「僕は自分がここで一番の生徒になるために練習をしてるんです。同じ風学科ならともかく、後々戦うことになる相手に教えるなんてお断りです」
「僕から一方的に教えてもらおうなんてふざけないでください。絶対に嫌です。どうしても教えろと言うのであれば、相応の対価を払ってください。……まあ、こんな簡単な事が出来てない時点で、相手の生徒に対価が払えるはずないだろうけど」
(クリスってそう言えば大会で優勝するのが目的だっけ? ……それにしてもレイス……先生相手にそんな言葉言ったら駄目だよ……。それに、小声だったけど最後の言葉……。皆頑張ってるのに……)
上からクリス、レイスの発言なんだけど、先生相手に言って良い言葉じゃないよね……?
……こんな滅茶苦茶な発言聞いて怒らないセフィナ先生って本当にすごいよ……。
「れ、レイ……君のお兄ちゃん、先生相手にとんでもない事言ってるよね……?」
「本当だよ……。レイス、何考えてるの……」
僕の横に座っていたルーベルが信じられない物を見たような表情で僕に話しかけてくる。
……僕がレイスに「何言ってるの!? 相手は先生なのに、そんなこと言っちゃ駄目だよ!」って叫びたいくらいだよ……。
「ふーん……つまり、レイスは教えるのにふさわしい対価を貰えれば、教えることに納得するのね?」
「……はい。……まあ、僕が教えた生徒=僕より下ですし、対価を払うなんて無理でしょうけど」
「じゃあ、今日教えてくれれば明日からはレイスの個人練習を許可するわ。最後の段階……つまり、魔力を体外に出して魔法として使う工程まで一気に進んでも良いわよ。……貴方が教えた生徒には確かに対価は払えないけど、教えることを頼んだ私が代わりに払えば問題ないでしょ?」
「……」
先生の提案を聞いたレイスは顎に手を当てて真剣に考え始めた。
……先生、レイスのあの発言を聞いても全く怒らないどころか、ちゃんと対価を出してレイスが皆に教えてくれるように動かしてる。
……凄い……。
「……で、クリス。貴方はどうすれば皆に教えてくれる? レイスみたいに何かしらの特権が欲しいの?」
「ふざけないでください。僕は対価なんかでは動きません。僕が教えると言う行為それ自体がすでに僕自身の首を絞める行為に繋がっているんです」
こっちもこっちで凄い事を言ってるよ……。
「そうかしら?」
「……どういう意味ですか?」
「皆に教えてあげてほしいのはただの魔力の動かし方。これはそもそも絶対に出来るようにならないといけないことだから、クリスが教えようと教えなかろうといずれ出来るようになっちゃうわ」
……先生が言ったのはあくまで「魔力の動かし方」であって、作った魔法を教えろとかそういう事じゃないんだよね。
「……だったら、僕が教える必要ないですよね?」
「でも、ここでクリスが教えなかったがためにオリエンテーションの日数が長引いちゃったら、クリスが魔法の練習に使える時間が減っちゃうよ?」
……オリエンテーションが早く終わる事なんかないと思うんだけどな……。
でも、長引くことって……確かにありそうだよね。
みんなが魔法を使えるようにすることが目的だったはずだし。
……誰かが出来ていないままだと長引く……ありそうだね。
「……だけど、教えなかったらその時間に練習が……」
「今の練習時間を増やしても、大会で有利になるようなことは出来ないよ?」
「…………こんなこと言って教えさせて、オリエンテーションが終わった後の個人練習で手に入れた物をまた教えさせるとかないですよね?」
「それはないから安心して。貴方が教えたくないのなら、あなたが作った魔法を他人に教える必要はないからね」
「……分かりました」
納得できてないみたいだけど、クリスは渋々皆に魔力の動かし方を教えることにしたみたい。
……で、レイスは……。
「レイス、どうするの?」
「……さっき言った対価、忘れないでくださいね。約束は守ってください」
「分かった、約束するわ。じゃあ、今日はこれからみんなに教えてあげてね。代わりに、明日以降ずっと個人練習にしてあげる」
「分かりました。今日だけは、皆に教えます」
先生が提案した交換条件で納得したんだ……。
というか、そこまで教えるのが嫌なのかな……?
この二人の考えはよく分からないよ。
「レイとルーベルも皆に教えてくれる?」
「「はい」」
「……じゃあ、これで話は終わり。話は通しておくから、午後の練習の時に皆に教えてあげてね」
そう言って食堂を出て行ったセフィナ先生。
……レイスやクリスの説得なんて無理だと思ってたのに……。
「先生って凄いよね、レイ」
「そうだね。本当に……」
対価で釣るのは良くない?そんなことはありません。タダ働きよりはよっぽど良いです。
……こんな事言い出す10歳はお話の世界だから良いのであって、現実では絶対見たくないですけど(汗)




