オリエンテーション(9)
レイside
今日も昨日と同じ大きな部屋で皆……全学科の生徒が集まって魔法の練習をやるみたい。……昨日は上手くいかなかったけど、あの後レイスに壁を見ると集中しやすいってアドバイスも貰ったし、今日は出来るようになるかな?
「皆居るね? じゃあ、今日は昨日の続き、目を開けたまま魔力を動かす練習をしていきましょう」
皆が居ることを確認したのか、セフィナ先生が練習の開始を告げる。遠目に見える他の学科でも同じように指示をしているのが見えた。
……よし! 今日も頑張ってやっていこう!
(まずは昨日と同じように壁を向いて……)
昨日レイスがやってたように壁の方を向く。 余計な物が目に入らない……だっけ?
確かに、周りの様子が目に入ると集中しづらくなっちゃうよね。
(それから、魔力に意識を集中していって……)
ここからが本番だ。ちょっと魔力に意識を集中したくらいじゃ魔力はびくともしない。
……魔力以外に意識を向けないように注意しないと……。
(……魔力が動き出すように……魔力を自由に動かすイメージを……!)
身体の奥にある魔力に意識を集中し、その上で魔力が動き出すイメージを作っていく。
……だけど、時々ざわめくくらいでまだ魔力は動いてくれない。
「何が足りないのかな……。魔力を動かすイメージも魔力への集中も問題ないはずなのに……」
イメージと集中力で動かすものだと思ってたけど、違うのかな? それとも……。
「どんなに魔力に集中していても、それだけじゃ駄目なのかな?」
……イメージと集中力だけで駄目なら、他の何かがきっかけになっているはずなんだけど……。
「難しい?」
壁の方を向いて悩んでいると、後ろから声がかけられた。先生だ。
「はい。……集中力とイメージは出来ているはずなんですけど……」
「そうだね、見ていたら分かるよ。でも、魔力に集中するよりももっと魔力に意識を向けられる方法がある。それを見つけないと、多分前には進めない」
「魔力に集中するよりも、もっと意識を向ける方法、ですか?」
……うーん、なんだろう?
「昨日皆で話し合ったりしなかったの?」
「はい、ですけど、特に何も新しいアイデアは出なかったです」
昨日レイスと話した後、クリスやルーベルと話はしたんだけど、魔力を動かすアイデアは全く出てこなかった。皆「魔力に意識を集中させること」が答えで合ってるって結論に達しちゃったしね。
「そう……。…………魔力そのものになったら一番集中できると思うんだけどね」
「魔力そのもの? 確かにそうですけど、無理じゃないですか?」
僕は僕で、魔力は魔力なんだし……。
「そうだよね。……まあ、諦めずに頑張れば、いつか上手くいくよ」
「はい。頑張ります」
……とは言ったものの、先生が言った言葉がちょっと気になるよ。……昼食の時に誰かに話してみようかな?
魔力になる……何の事だか全く分からないけど……。
ーーーー
「……全然うまくいかないや。何がいけないのかな……」
「こんなところで躓いてる場合じゃないのに……」
あれから一度も成功することが無いまま昼食の時間になってしまい、僕たちは食堂に移動していた。
食事の時に二人の話を聞いてるけど、クリスもルーベルも全く出来る気配が無いみたい。
「……ねえ。先生が言ってたんだけど、魔力そのものになるってどういう事だと思う?」
午前中の練習の時に先生に言われた言葉について二人に聞いてみた。
「魔力そのものになる? ……何言ってるの? そんな事出来るわけないでしょ?」
クリスの答えは僕と同じような考えだった。……やっぱり出来ないよね、そんな事。
「……それって言葉通りに受け取っちゃ駄目なんじゃないかな? 魔力そのものになるって言葉はよく分からないけど、でもそうなるように努力してみる、とか……?」
ルーベルの答えも当然出来な……え? ちょっと待って、それってどういう事?
「……魔力そのものになるように努力? ……例えば?」
「……レイ、まさかそんな話信じるの? 出来るわけないよ。……僕は食べたから先に戻るね」
クリスは呆れたような表情を浮かべて出て行っちゃったけど、そんなの後回しだよ。
ルーベル、話を続けて。
「……ど、どうしたの急に……? …………例えばだよ。出来るわけないと思うんだけど、自分は魔力だ、魔力そのものなんだ、って暗示をかけるようにしながら集中するとかさ……。ほら、魔力に集中するって言っても「自分」と「魔力」に分けて考えてたりしたでしょ。それを無くせばいいんじゃないかな……? まあ、クリスもああ言ってるし、僕もこんな方法じゃないと思うんだけど……」
自分は魔力だ、って思いこむ……。
「ご、ごめんね。くだらない事言っちゃって。じゃあ、僕は戻るね?」
「え、あ……うん……」
確かに、自分を魔力だって思い込んで集中したことってなかったよね。
……ルーベルもクリスもああ言ってたけど、ルーベルの言葉を信じて、一度やってみよう!
「さて、と。食べ終わったし、僕も戻ろうかな……ん? あれって……」
食堂を出て共同訓練室に戻ろうとしたとき、一人黙々と何かをしているレイスの姿を見つけた。
ちょっと気になったから、戻る前にレイスと話すことにした。
「レイス、何やってるの?」
「……え? レイ? どうしたの、急に……?」
「これって……問題集?」
レイスの机の上に置いてあったのは問題集だった。
……レイスって、こんな時間にもちゃんと勉強してるんだ……。
「うん、そうだよ。こういう時間も有効活用しないとね(……僕が1つ先に進んでる事に気づいて問い詰めに来た……わけじゃないか……)」
「へえ……」
レイスの机の上にあった問題集に目を通す。…………機械の名前や開発された年数を答えよ……? 何の問題なんだろ、これ?
「魔法機械の問題集だよ。勉強は少しでも多くやらないとね」
「レイス凄いね……」
僕なんか昨日の夜も今さっきもずっと喋ってただけだったよ。
レイスは本当に凄いな……。
「当たり前でしょ。僕はこんなところで躓くわけにはいかないからね」
「……そうだ。レイスはもう魔力を動かせるようになったの?」
レイスはもう出来るようになったのかな?
「え? ……ああ、もう少し頑張ったら出来るかな、ってところだよ(危ない危ない……反射的に「当たり前じゃない」って言いかけたよ……)」
「そっか……。やっぱり難しいんだね」
レイスにもまだ出来ないんだ……。
「うん。……本当に難しいよ。ところで、戻らなくていいの?」
「え……? あ、そうだ! 戻らないと。また後でね、レイス」
早く戻って練習をしないと!
「……ふう。なんとか誤魔化せたかな? ……勉強用の問題集を持ってきておいてよかったよ。さすがに、レイにも教えるわけにはいかないからね。うっかりレイに教えちゃったら、レイから他の生徒に伝わりかねないし。そんな馬鹿な真似は出来ないよ」
ーーーー
「ん? もう戻ってきたの? まだ練習再開の時間にはなってないよ?」
共同訓練室に戻って風学科の練習場所に戻ると、セフィナ先生が声をかけてきた。
「はい。でも、今から練習をやっていきたくて」
「さっき戻ってきたクリスもそうだけど、皆練習熱心だね」
「ええ、風学科の生徒は本当に練習熱心で。実に良い事です」
僕の後ろから声がかかったので振り返ると白いローブを着た金髪の先生が立っていた。
「メリシア、その様子じゃ光学科の生徒は……」
「ええ、セフィナ先生のお察しの通りです。……全く、この時間に戻ってきてでも練習しよう、と言う向上心があるのはわずか数名。大半が光学科の生徒と言うプライドに頼った怠け者です。……まあ、今はまだ練習二日目ですし、私も何も言うつもりはありませんが……」
……光学科の先生かな? なんだか厳しそうな人だけど。
「うーん、メリシアの基準が厳しすぎるんじゃないかな? この段階で戻ってきて練習する生徒なんてほとんどいないよ。全学科を含めても戻ってきたのは20人に満たないじゃない」
「その戻ってきた生徒の中に我が光学科の生徒はたったの二人しか居ないのですよ? 闇学科は三人戻ってきていると言うのに、何と情けない……」
……三人と二人の差ってすごくどうでもいいような気がするけど……。
「土学科は……相変わらず誰も戻って来てないね。ま、いつもの事か」
「当たり前です。あの軍隊学科の生徒が勝手に練習などできるわけないでしょう」
軍隊学科……どんなところなんだろ、土学科って……。
「それにしても……今年の風学科は特に優秀ですね。一人は既に目を開けたまま魔力を動かすことも出来ているじゃないですか。食堂の中で少し見かけましたが、彼には魔力を分割させる練習をやらせているのでしょう?」
……魔力を動かす? 誰が?
「まあ、どんなに本人が隠してもさすがに先生の目はごまかせないよね。そうだよ、あの子は昨日の夜の段階で魔力を動かせるようになったの。だから、一つ先の練習をさせてあげてるの。……本当は皆に教えてあげてほしかったんだけど、ちょっと、ね……」
……一人だけ先に進んでる? レイスも「まだ出来てない」って言ってたような気がするけど……。
「風学科の生徒も教えあいはしませんからね」
「……今の方針の中で一番の悩みの種かな。自由に練習させるからみんな頑張ってはくれるんだけど……ね。その代償なのかは知らないけど、みんなで協力しようと言う姿勢は全く感じられないよ」
「私の学科もいくら絆や教えあいの大切さを説いても上手くいかないんですよ。セフィナ先生、今度アイデアを出していただけませんか?」
「……メリシアの学科はむしろ教育方針が邪魔してるんじゃないかな……」
……なんか完全に蚊帳の外だし、僕も練習に戻ろうかな?
クリスやルーベルはもう魔力を動かす練習を始めてるし、僕だけここに居て何もしないわけにもいかないしね。
「何を言うのです。あの教育方針のおかげで生徒は皆頑張っているじゃないですか」
「……確かに頑張ってるけど、あれはもう生徒同士の潰しあいみたいなものでしょ? あんな方針でやってたら何を言っても生徒たちが協力することなんかないって……」
自然と耳に入ってくる先生たちの話を聞き流しながら練習に戻ることにした。
……誰が出来るのかなんて分からないけど、この段階で出来るようになってる人が居るなんて……。
その人に追いつけるように、僕も頑張らないと!
ーーーー
「……ふう。まずは落ち着いて……それから……」
昼食の時間にルーベルが言っていたことを思い出す。……確か……。
「自分は魔力だ、魔力そのものなんだ、って暗示をかけながらやってみれば良いんじゃないか? って事だったよね?」
ルーベル本人は自信なさげだったし、クリスも否定しちゃったけど、ここでやって失敗しても構わないよね。
……よし! ルーベルが言ってたように自己暗示をかけながらやってみよう!
(……意識を集中しながら「自分は魔力そのものなんだ」って自分に思い込ませるようにやったら上手くいく、のかな?)
そう考えたのも束の間、直後に僕は自分の意識を魔力に向け、魔力の中に自分が入っていくようなイメージを浮かべる。
魔力の中に自分の意識が入り、魔力そのものとしてこの身体の中を動き回るイメージを作っていき、集中する。
相変わらず僕の身体の中の魔力は時々ざわめくように動く程度で動いてくれない。
でも、今回は昨日とは違う。……今度は、僕自身が君に入って動かしてあげる……!
そうしたら、僕は君なんだから……動けるよね?
(……魔力の中に自分が沈み込んでいってるのかな? 身体の感覚が無くなってきてる……)
そのまましばらく集中すると、今までの練習とは全く違う変化が僕の身体に現れた。
まず僕の身体の感覚が足や手の先から無くなっていき、立っていることすら分からなくなりそうになっていく。
それと同時に、僕の意識が魔力にどんどん近づいているような感覚を感じ始めた。
…………上手くいってるのかな? 魔力の感覚が昨日よりもずっと近い……。
手を伸ばしたら届きそうなくらいに……。
もっと近づいていけば……この魔力の感覚にそのまま意識を入り込ませたら、どうなるんだろ……。
「……君は僕だ。だから、僕は君を動かせる」
身体の内側で留まったままの魔力に意識が触れる寸前、僕は無意識にそう呟いていた。
――――――――そして、僕の意識が魔力に触れた――――――――――――。
ドクン
――――身体の奥で、魔力が一瞬跳ねた。直後――――――
(あ……動いた……?)
身体の奥に留まっていた魔力の塊が、これまで全く動かなかったとは思えないほどすんなりと動き始めた。
軽く意識するだけで魔力は僕の身体の中を自由自在に動き回る。
目を閉じていた時でさえかなりの集中力が必要だったのに、今僕の内側で動き回っている魔力は、軽く集中するとすぐに僕の意識した通りに動き回ってくれる。
(凄い……昨日と全然違うや……)
手を上げたり足を動かしたりするように、本当にちょっと意識するだけで魔力がすんなり動き始める。
魔力に意識が繋がった……って事なのかな……?
(そうだ。……僕の身体……大丈夫かな? 意識を戻さないと……)
魔力が自在に動くようになったところで自分の身体の事を思い出した。
今気づいたけど、僕の身体の感覚はほとんどない。
目は見えているけど瞬き一つできないし、手や足の感覚は全くない。おまけに、耳に至っては何一つ聞こえない。
(感覚がまったく無いや……。とりあえず、少しずつ動くように意識を集中して、感覚を戻して行かないと)
魔力から身体に意識を向けなおし、少しずつ身体の感覚を回復させていく。
垂れ下がった金属みたいに動かせそうになかった腕に少しずつ感覚が戻っていき、空中に浮いてるんじゃないかと不安になるくらい見事に無くなっていた足の感覚も戻ってくる。
「……ちゃんと立ってる、よね……。身体の感覚が本当に無くなっちゃってたよ……」
全身の感覚がちゃんと戻ってきたことを確かめるように身体を動かす。
……首も目も問題なく動くね。…………良かった。
(そうだ。……魔力はちゃんと動くままかな?)
身体の感覚が戻ったことは確かめたけど、魔力はちゃんと動くのか不安になってきた。
……また動きにくい状態になってたら、ものすごく集中しないといけないしね。
(さて、集中して…………あれ? こんなにすんなり動いたっけ? 軽く集中しただけだよ?)
だけど、そんな僕の不安は杞憂に終わった。
魔力を動かすために軽く集中すると、それだけであっさりと僕の思った通りに魔力が動き出した。
目を閉じたときですら簡単に動かなかったのに、今は僕の意識に吸い付くようにすんなりと動いてくれる。
「ね? 魔力その物だって思い込んだらすんなり動くようになるでしょ?」
簡単に動くようになった魔力を動かしていると、セフィナ先生に声をかけられた。
「……さっきまであんなに動かなかったのに、嘘みたいに動かしやすいです」
「意識と魔力を接続したんだからね。これからずっと、魔力は簡単に動くようになるよ。……腕や足を動かすのと同じような感覚かな?」
「へえ……」
腕や足を動かすって例えたって事は、本当に簡単って事だよね?
これからはもうずっと集中しなくても良いの?
「うん。というか、いちいち目を閉じてずっと集中していたら先に進めないしね。……それはともかく、これで今日……というか、当分の目標は達成しちゃったね」
「そうなんですか?」
当分の目標ってどういう事なの?
「この段階が一番大変なんだよ。ずっと集中してもなかなか上手くいかないし、だけど集中力が無いと魔力に意識を繋げることもできないしね。出来ない生徒も居るから、後三日はこれをやると思うよ」
「……じゃあ、僕はこれから何をやればいいんですか?」
……出来ることが無くなっちゃった?
「魔法を使えるようになるまでの練習はまだ他にもあるからね。先に進んでもらっても良いけど……どうする?」
「先に進む? ……良いんですか?」
みんなを置き去りにするような気がするけど……。
「もちろん、オリエンテーションの合間の休憩時間に皆に教えてあげてくれるなら皆になるべく早く出来るようになってもらいたいから是非そうしてもらいたいけど……嫌じゃないの?」
「……どうしてですか?」
…………別に嫌って事は無いけど……。
「……ごめんね。あの子とあんまりにも似てたから、中身まで同じかと思っちゃった」
「……レイス、何か言ったんですか?」
……普段から僕にも「奪われるから他人に関わるな」みたいなことばっかり言ってるからなあ……。
「ううん。大したことじゃないの。気にしないでね。……教えてあげてくれるなら、休憩時間にでも、皆に教えてあげてね」
「あ、はい!」




