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オリエンテーション(8)

 レイside


 あの後風学科の寮に戻って解散になったので、レイスの所に行くことにした。


「レイス、入るよ?」


 ノックも何もしてなかったけど、兄弟だし別に良いよね?


「……入るよと言う前に普通僕の返事くらい待たない? レイ。……まあいいや、何か用?」


 レイスは自分の部屋のベッドに座っていた。


「うん。昼間の練習の時レイスが見えたんだけどね、レイスはどうしてずっと壁を見てたの? って、気になったんだ」


 どうして壁なんか見てたのかな? やっぱり、集中しやすいの?


「……今レイが考えてる通りだと思うけど、一応説明するよ。壁を見てたら動く物や邪魔な存在が目に入らない。以上」

「説明があっさりしすぎだよ……」


 せめてもうちょっと喋ってくれても……。


「ふーん、レイは説明の時に長々と喋られた方が良いの?」

「え? そう言うわけじゃないけど……」


 説明は分かりやすい方が良いけど、でも、だからって今みたいなあっさりすぎる説明はちょっと……。


「分かってるんだったら問題ないでしょ? で、用はそれだけ? 僕は練習をしたいから用が無ければ出て行ってほしいんだけど」

「え? 今も練習してるの?」


 てっきりくつろいでるんだと思ってたよ……。


「そんなことするつもり無いよ。そんな暇があるんだったら、一分一秒でも早く魔法を使えるようになるよう努力するから」

「……レイスって本当に努力家だよね……」


 今みたいな何もない時間にも練習してるもんね。


「レイが呑気すぎるだけ……じゃないか。今の時間には皆やらないだろうしね」

「他の学科が何をやってるのかは知らないけど、クリスもルーベルもさすがにやってないと思うよ」

「……ああ、同じ学科だったっけ?」


 ……全く興味無さそうだね。同じ学科なんだし、ちょっとくらい興味を持っても良くないかな?


「別に関わる必要は感じないよ。この学科の方針は自学自習だしね」

「そう言う問題じゃないでしょ。同じ学科なんだし、仲良くした方が……」


 レイスって本当に他の人に興味も関心も無いよね……。


「仲良く? そんなことしても、僕には何のメリットも無い。むしろ、僕が持っている物を奪われるだけだからデメリットしかないよ」

「……奪われるような上等な物、レイスは持ってたっけ?」


 別にレイスは宝石も何も持ってなかったような気がするけど……。


「……この例えはレイには難しかったかな。まあ、良いけどね……。あんまり人と関わらない方が良いんじゃないかな? 自分の持っている物を奪われる羽目になるからさ」

「……何を奪われるのかは知らないけど、でも、やっぱりみんなと仲良くした方が良いと思うけどな……」


 だって友達だし……。


「……甘いね。レイは。……まあ、そこがレイの「良いところ」になっているのかもしれないけど。でも、そのせいで自分が大損することになっても知らないよ?」

「友達と関わって損することなんてないと思うんだけどな……」


 レイスって時々変なこと言うよね……。友達と関わって損するなんてありえないと思うんだけど……。


「……まあ、分からないならそれでいいや。用はそれだけ?」

「え? せっかく一緒の学科になったんだからもっと話がしたいんだけど……」


 レイスって小さい時から遠くの方の学校に行っちゃってなかなか会えなかったし……。デルテミア養育学校……だったっけ?


「まあ、一緒に居なかったのは事実だね。僕は四歳のころから勉強のためにデルテミア養育学校に通ってたし」

「うん。……レイスがデルテミアに入らなかったら、また会わなかったのかもしれないから……」


 こうして一緒に居られて話せるだけでも本当に嬉しいんだ。ずっと離れ離れだったし……。


「……周りの人は遊んでくれなかったの?」

「遊んでくれたけど……そこにレイスは居なかったから……」


 レイスも一緒に居たらっていつも思ってたな……。


「……まあ、同じ学科に居るんだし、レイが寂しいっていうんだったら話し相手にくらいはなってあげるけど……。一応、僕はレイの兄だし、ね……」


 頬を指でかきながらレイスはそう言ってくれた。


「本当? また話に来ていい?」

「うん。……レイなら、構わないよ」

「ありがとう。……じゃあ、今日はもう戻るよ。明日も頑張ろう、レイス」

「うん……レイも、ね」


 レイスとの話も終わったから、僕は自分の部屋に戻ることにした。


ーーーー


 レイスside


「ふう……レイはずっと変わってないね……」


 そう呟きながら、僕はさっきまでここに居たレイの事を考えていた。


「デルテミア養育学校に通っていた時も、いつも僕が帰ってきたらすぐにやってきて一緒に過ごしたっけ。べったりくっついて離れてくれなかった時もあったね……」


 僕が養育学校で生き残るために必死に勉強しているときでもお構いなしにやってきて、遊ぼうって言ってきたっけ……。

 僕の事情も知らないで邪魔しないで! って言いかけたりしたときもあったけど……。

 またレイの相手をしながら隙を見つけて勉強することになるのかな……。

 ……ま、レイは僕の弟だし、僕がレイの面倒を見るのは当然だよね。


「……まあ、同じ学科に入った以上は仕方ないのかもしれないけど。落ちこぼれ学科のままじゃ実力で光学科に入れないからね……」


 そもそも光学科に入れたらこんな事にはならなかったのに……。

 必死に勉強したのに、僕の実力が足りなかったのかな……。


「……僕は絶対に諦めない。……何としても、光学科に入って見せる……」


 ……僕が優秀だって皆に認めさせるためにも、光学科じゃないと駄目なんだ。

 ……そうじゃないと、僕の価値が……。

 それに、今まで勉強してきたことも全部無駄になっちゃう……。


「そのためにも、一日でも早く、他よりも優秀にならないと……。誰よりも優秀になったら、光学科に入ることだってできるはず、だから……」


 そのためなら、僕はどんなことだってしてみせる……。


「……今はそんなこと考えてる場合じゃないね。一日でも早く、今やっていることをマスターしないと……」


 意識を魔力に集中し、動くように念じる。

 ……昼間に行ったオリエンテーションでは上手くいかなかったけど、ここなら邪魔は入らない。

 レイも今さっき帰ったし、誰もこの部屋に来ることはない。最高の環境だ。


「……」


 魔力に意識を集中するけど、まだ動かない。目を閉じたときと違い、目を開けたことでどうしても部屋の中の物が目についてくる。部屋の隅に置かれた僕のカバンや僕自身の姿がどうしても魔力に意識を集中するときの妨げになる。


(もっと集中しないと……! これが出来ないと僕は前に進めない。何もできない……!)


 視界に入る物の方に無意識に意識を向けてしまうのを無理やり押さえつけようと更に魔力に集中する。

 僕の身体の奥で固まったまま動こうとしない魔力を無理やりにでも動かすイメージを固め、それ以外の事を一切考えないように自分の意識を持って行く。


(まだ足りない……! ……僕は魔力だ! 魔力を動かす意識なんだ……っ!)


 それでも動かない魔力。

 僕は自分の意識を魔力だ、と思い込むことで更に意識を集中させる。

 ……まだ動かない。

 今度は自分の身体からも意識を遠ざけ、身体の中の魔力のみに集中する。

 魔力に向かう意識と反比例して身体の感覚が無くなっていくような感じがするけど、お構いなしに魔力に集中する。


 ……直後、僕の身体の奥の魔力が重い腰を上げ、動き始めた。


(……できた!? やった……! これで、僕は出来る子だって認められる……?)


 一度動き始めた魔力は思いのほか簡単に僕の意思に沿って動いてくれる。

 上に、下に、前に、後ろに、腕の先に……。目を開けたままでもすんなり動かすことができるようになっていた。

 まるで、身体の奥に見えない鎖によって縛り付けられていた魔力を鎖から解き放ったような、そんな感覚が僕には感じられた。


「は……はは。出来た。さっきまでどれだけ意識しても動かなかった魔力がすんなり動いてくれるや……」


 自分の身体の中を僕の意識に従って動き回る魔力。

 その感覚を感じる度に、優越感のような物も湧き上がってくる。

 ……明日は多分他の生徒が練習を続けるだろうから、一日暇になるかな?


「ふふ……まあ他の生徒がひたすら努力する間、僕は魔法を使って何がしたいのかゆっくり考えることにするよ。教えるつもりなんてないし、そもそも教えてあげて、なんて言われるはずがないからね」


 現状では誰も僕が出来るようになってる事を知らない。言わなければ大丈夫だ。


「……ふあ……ちょっと疲れちゃったかな……?」


 魔力を自由に動かせるようになって安心したら少し眠くなってきた。

 ……もう寝ようかな?


「……いや、まだ寝るのは早いかな? 夜の8時だし、今寝たってかなり早い時間に起きることになるよね。……そうだ!」


 ……図書館にどんな魔法が置いてあるのかちょっと見に行こうかな? 魔法を使えるようになるって言っても、どんな魔法があるのか分からないし……。


「……寝るには時間が早いから、見に行こう」


 僕は自分の部屋を出て階段を下り、二階にある図書館に向かう事にした。


ーーーー


「……いっぱい本があるね。どれが良いのか全然分からないよ……」


 図書館に入った僕を待っていたのは壁と言う壁に置かれた本棚とその本棚に収納された無数の本。

 ……セフィナ先生は確か同じ本を複数置いてあるって言ってたけど、それでも一体どれだけの量があるんだろ……。


「とりあえず、手当たり次第に近くの本から手を出してみようかな」


 だけど、いつまでも突っ立っていても仕方がない。僕はとりあえず一番近くにあった本棚に入っていた「エアメイク」と書かれた本を手に取り、部屋の中央に置かれた机と椅子の所に向かう事にした。


「……静かだね。まあ、こんなところに今の時間に来る生徒なんて僕くらいかな」


 レイはまだここに来ることはないだろうし、風学科の他の生徒―――――――-名前自体覚えてないけど、もここに来る時期じゃないだろう。

 というか、僕も魔力を動かせるようにはなったけど、その魔力をどうやって使えばいいのかは全く分からない。つまり、僕もここに来て魔法の本を読んだ所で今の段階では何の意味もない。……出来るとしたら暇つぶしくらいだ。


「まあいいや。読んで行こうかな……」


 僕が今図書館に居るのは別に勉強目的じゃない。どんな魔法があるのか興味を持っただけだからね。 


「……えっと……エアメイク――――空気を魔力で覆って固めてしまい、物質化させる魔法。体外に放出した魔力を空気を覆うように広げていき、空気を覆った段階で固めることで空気を物質化する。他の属性の同系統の魔法と違い、空気はどこにでも存在する上に加工が非常に容易な物質であるため、様々な用途に用いることが可能。か……。空気を固めて物質化するって書いているけど、強度は大丈夫なのかな?」


 空気を固めて物質化する。……本当に出来るのなら、それこそいろいろな物が作り放題だろう。だけど……元々空気だった物を固めて作った物質に強度なんか期待できるのかな?


「……ん? ……一度この魔法の説明のような光景を見たような気がするけど……」


 どこかで見たはず、そう思って記憶をたどる。

 思い出したのは初日の夕食の時の出来事。あの時、セフィナ先生は僕の目の前で緑色の椅子やテーブルを作り出していた。

 それにあの緑色の勝手に動いていく台車。あれも恐らく先生が作った物のはず。


「……そうか。もしかしたらあの時先生が使っていた魔法って……」


 この魔法じゃないか? そう思った時、突然図書館の扉が開けられた。


「あれ? この時期に図書館に入ってくるなんて珍しいね。皆魔法の練習に関する話題で持ちきりになるはずなのに」

「……先生?」


 図書館に入ってきたのはセフィナ先生だった。丁度いいや、この魔法の事、聞いてみよう。


「先生、この魔法なんですけど……」

「ん? ああ、エアメイクね。もしかして、空気を固めても柔らかいんじゃないか? って思ってたりする?」


 最初にこの魔法を見たときはそう思ったんだ。だけど……。


「……最初はそう思ったんですけど……先生があの時使った魔法ですよね、これ」

「あの時……ああ、食事の用意が出来たから持ってきたときだね。君は私が魔法を使ったところを見てたっけ」

「はい。これは、先生が使ったあの椅子やテーブルを作り出す魔法ですよね?」

「そうだよ。この魔法――――エアメイクで、あなたも見たあの椅子やテーブル、台車を作り出したの」


 やっぱり、そうだったんだ……。


「でも、魔法の本を読むのはまだ早いんじゃないかな? まだ誰も魔力を身体の外に出す練習や小分けにする練習をしてないよ?」

「はい。……暇だったので、読みに来ました」


 目を開けたまま魔力を動かせるようになったしね。……一度動かせるようになったら、まるで手足のように簡単に動かせるよ。


「……もう目を開けたまま魔力を動かせるようになったんだね。入学二日目で出来るようになるなんて、今までの風学科の生徒の中でもトップクラスの速さだよ」

「……え? なんの事ですか?」


 ……どうして分かったの? 言うつもりなんか全く無かったのに……。考えを読まれた?


「私も風学科の先生だからね。魔力を動かせるようになった生徒とそうじゃない生徒の見分けくらいすぐにつくよ。それに、まだ魔力を動かせない生徒は今くらいの時間だとみんなで集まって話し合いをして、魔力を動かすコツを探しているくらいだからね」

「そうなんですか?」


 ……まあ、僕には関係ないよね。


「魔力を動かせるようになったのなら、皆に教えてあげても良いんじゃない?」

「嫌です」


 ……それだけは絶対に御免だ。何で僕が赤の他人に教えてやらなきゃいけないんだ。


「……さすがに即答されちゃうと、理由を聞かないといけなくなっちゃうんだけど……。どうして嫌なのか、教えてくれる?」

「僕が教えたところで何一つ僕に利益がありません。むしろ、損するだけです」


 他人に教えて何の得があるっていうの。自分ができることを他人に出来るように教えたら、むしろ損しかしないよ。僕にしかできなかったことが他人にも出来るようになったら、相対的に僕の価値が無くなってしまう。


「……利益とかそう言う話じゃないと思うんだけどな……。知識の損得だけで考えていたら、私達みたいな仕事は初めから存在しないよ?」

「先生はそれでお金をもらっているじゃないですか。僕が誰かに教えても、何一つ得はしません」


 得するどころか、思いっきり損するだけだよ。周りが出来なくてもそんなの関係ない。僕だけができるようになっておけば、それだけ僕の価値が高くなるんだから……。


「……分かった。私は、嫌がっているあなたに「皆に教えてあげて」とは言わない事にするね。だけど、周りが教えてくれって言ってきたらどうするの?」


 先生は諦めてくれたみたいだ。……周りが僕に教えを乞う? そんなの……。


「当然断ります。どうして僕が何一つ得しないのにそんなことしないといけないんですか? 対価を払うなら話は別ですけど、そんな物誰も払えないでしょう?」


 僕に教えを乞うって事は直接的に僕の優位を奪うんだ。だったら、それ相応に対価を払ってもらわないと。


「……そっか。じゃあ、明日どうすればいいのか先生からアドバイスするね」

「?」

「自分が出来るって事は口にもだけど、顔に出しちゃ駄目。皆真剣にやってるんだから、一人だけのんびりするのは許されないよ。それと……明日、君には先に進ませるために別の指示を出すからね」

「はい」


 僕だけが先に進めるの? 最高だよ……。


「……それと、今日はそろそろ部屋に戻ってね。もう夜遅いから」

「はい。……この本、持って行っていいですか?」

「うん。構わないよ。……君は、もしかしたらすぐに使う時が来るかもしれないからね」


 明日暇にならなくて済むんだ……。楽しみだよ……。

 もう今日は休んで、明日に備えよう。






「……レイスだったわね。……あの子の事、ちょっと調べてみようかな。レイと双子の兄弟って割に性格があまりにも似ていないし、普通あれくらいの年の子はみんなで遊びたがるはずなのにそれもしない。……さっき皆に教えてあげてって私が言った時の反応も含めると……もしかしたらあの子、かなりの問題児なのかもしれないわね……」

書きあがったけど、案の定これだよ!レイス=旧風のキャラが破綻した後のレイだから仕方がないけど。


というか、これはオリエンテーションの合間の話であってオリエンテーション関係ないような(ry

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