第10話(2) 本当の告白と、星の答え
講義が終わると、石上は静かにノートを閉じた。虎太郎もペンを置く。
周りの学生たちが立ち上がり、教室から出ていく中、石上も鞄を手に取った。
「じゃあ、またね」
昨日と同じように、一歩引いたトーンで石上がそう言った。
虎太郎の胸が、ぎゅっと痛む。また、それで終わらせるつもりか。石上が一歩引いたまま帰ってしまうのを、ただ見送るのか。
そう思った瞬間、虎太郎は反射的に声を出していた。
「石上」
石上が不思議そうに振り返る。「うん?」と。
「今日、時間あるか」
「……え?」
石上の目が、分かりやすく見開かれた。虎太郎の方から誘うことなど、今まで一度もなかったからだ。
石上は一瞬だけ呆然としたあと、静かに頷いた。
「あるよ」
「じゃあ、ちょっと付き合え」
「どこに?」
虎太郎は、喉の奥がカラカラに乾くのを感じた。でも、目は逸らさなかった。
「……前に、お前がいた丘」
石上の表情が、小さく動いた。
あの場所だと、すぐに分かったのだろう。石上が、最初から罰ゲームだと知っていたと告げた場所。恋人ごっこを終わらせた場所。そして、虎太郎がもう逃げないと決めた場所。
「いいの?」
石上が静かに聞いた。虎太郎は真っ直ぐに応じる。
「いい。そこで話したい」
「……分かった」
石上は、それ以上何も聞かなかった。
大学の敷地の奥へ向かう道は、昼下がりの光に照らされていた。講義終わりの学生たちの声が、少しずつ遠くなっていく。
細い道を抜け、ゆるやかな坂を上がる。
小さな丘の上には、心地いい風が吹いていた。
あの日、石上は背中を向けて立っていた。寂しそうな声で「実は知ってた」と言った。
けれど今日は、虎太郎が石上をここへ連れてきた。言うためだ。自分の本当の気持ちを。
石上は足を止め、虎太郎をじっと見つめる。
「虎太郎」
「……待て。今、頭の中で整理してる」
「うん」
「急かすなよ」
「急かさないよ」
「あと、変に笑うな」
「笑わない」
「占いもするな」
「しない」
石上は、言われた通り静かに頷いた。その素直さに、虎太郎は逆に少し緊張してくる。いつものようにからかわれた方が、まだ言いやすかったかもしれない。
でも、それでは駄目だ。今日だけは、ちゃんと言わなければならない。
占いに逃げず。冗談に逃げず。怒鳴ってごまかさず。自分の言葉で。
「俺、考えた。めちゃくちゃ考えた。お前のせいで、ゲームにも全然集中できなかった」
「それは……ごめん」
「謝るな。今はそういう話じゃねぇ」




