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星のせいにさせてくれ!  作者: あしゅ太郎


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第8話(5) 砂の城が融けるとき

「違う!」


 思わず、叫んでいた。


 石上が、驚いたように細い目を丸くする。


「違うって……何が?」


「困ってたのは……本当だけど、」


虎太郎は、必死に自分の心の中から言葉を引っ張り出した。


 ここで誤魔化したら終わりだ。ここでまた照れて逃げたら、今度こそ、この男との関係は永遠に取り返しがつかなくなる。


「最初は、本当に困ってた! 罰ゲームだったし、男同士だし、どう説明していいか分からなかったから。……でも、今は……っ」


言葉が一度、喉でつっかえる。


今は――何だ? 何と言えばいい?


『好きだ』と、その一言を返せるほど、自分の気持ちはまだ綺麗に整理できていない。けれど、関係ないとは言えない。嫌だなんて、口が裂けても言えない。


 石上が他の奴に告白されているのを見た時、胸の奥がドロドロにモヤモヤした。


 石上が『恋人だから』と言ってくれた時、戸惑いながらも、どこかで跳ねるように嬉しかった。


 風邪の夜、部屋にいてくれた時、心底安心した。


 昨夜、遅くまでゲームをした時間は、間違いなく、これまでの人生で一番楽しかった。


 その全部が、絶対に、嘘なんかじゃない。


「……今は、嫌じゃねぇんだよ」


 ようやく絞り出した言葉は、ひどく不格好で、お世辞にもスマートとは言えなかった。


石上は、微動だにせず虎太郎を見つめている。虎太郎は、今度こそ視線を逸らさなかった。ここで目を逸らしたら、また卑怯な逃げになる。


「お前といるの、全然嫌じゃねぇ。猫カフェも、喫茶店も、お前のくだらない占いも……昨日、部屋でゲームしたのも、全部めちゃくちゃ楽しかった。……看病に来てくれたのだって、本当に助かったし、ちゃんと……嬉しかったんだよ!」


 言い切った瞬間、鼓膜がうるさいほどに心臓がドクドクと暴れ狂った。


今のは、客観的に聞いて、ほとんど告白しているようなものではないか。いや、違う。違うはずだ。でも、ただの否定でも、言い訳でもない。


 石上は、しばらく呆然としたように立ち尽くしていた。それから、深く、本当に深く息を吐き出す。


「……ずるいなぁ、虎太郎は」


「は?」


「そんなこと言われたら……俺、また期待しちゃうよ」


「……」


「俺、一見スマートに見えるかもしれないけど、実は相当あきらめが悪いんだからね」


「……知ってるよ」


 虎太郎がぶっきらぼうに呟くと、石上は少しだけ笑った。今度の笑みには、さっきまで消え失せていた、確かな温もりが宿っていた。


「虎太郎」


「……何だよ」


「俺はね、罰ゲームだって知ってたけど、それでも本気で虎太郎と付き合いたかった。……今も、変わらず好きだよ」


 丘の上の風が、ピタリと止まったような錯覚を覚えた。


 虎太郎は、石上の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。石上はもう逃げなかった。占いのせいにも、運命のせいにも、ラッキースポットのせいにもしなかった。ただ、自分の生身の言葉として、好きだと言った。


 それが、これまでのどんなアプローチよりも強く、深く、虎太郎の胸の芯へと届いていた。


「返事は、今すぐじゃなくていい」


石上は、穏やかなトーンで言った。


「虎太郎が、嘘じゃなく、ちゃんと俺のこと考えてくれるなら、いくらでも待つ。……でもね、嘘の告白のまま、付き合ってるふりをするのは、もう、終わりにしたいんだ」


胸を鈍器で殴られたような、激しい衝撃があった。


終わり。その単語に、虎太郎の身体がガチガチに強張る。


 自分がずっと、言わなければならなかった言葉。誤解を解いて、終わらせなければいけなかったはずの関係。なのに、いざ石上の口からそれを告げられると、どうしてこんなに、胸を引きむしられるように苦しいのか。


「石上……それって、」


「別れる、って言い方はおかしいかもしれないけどね。最初から、本当の恋人じゃなかったわけだし」


石上は、そっと目を伏せた。


「だから、一回ちゃんと、全部仕切り直したいんだ」


 虎太郎は、ようやく石上の真意を理解した。


石上は、自分との関係をすべて断ち切って拒絶しようとしているのではない。嘘と欺瞞から始まった歪な関係を、一度完全に綺麗に終わらせようとしているのだ。その上で、もし次があるのなら、今度はちゃんとした、本物の形で。


 それは、石上なりの、虎太郎に対する最大級の誠実さなのだと分かった。


 ――でも。それでも。


胸のざわつきは、一向に収まらなかった。


嫌だ、と本能が叫んでいた。


ここで一度終わってしまうのが。石上と会うための、大義名分がなくなってしまうのが。


また部屋でゲームをする約束も、占いに振り回されて憤慨する時間も、不意打ちで手を握られることも、すべてが綺麗さっぱり消えてしまうかもしれないと思うと――猛烈に、嫌だった。

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