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星のせいにさせてくれ!  作者: あしゅ太郎


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第8話(1) 砂の城が融けるとき

 その日、針田虎太郎は朝からどうしようもなく落ち着かなかった。


 理由は、考えるまでもない。


 石上朋也との距離が、ここ最近で明らかに、それも致命的なほどに近くなっているからだ。


 思い返せば、意味が分からないことばかりだ。


 猫カフェに行った。


 喫茶店で手相占いをされた。


 風邪を引いた時には、狭いアパートの部屋まで見舞いに来られた。おかゆを作られて、手を握られて、子供みたいに寝かしつけられた。


 その直後には、今度は動物占いの本を持って部屋に押しかけられ、うさぎだの虎だのと散々からかわれた末に、深夜まで一緒にゲームをして、気がつけば肩を寄せ合って寝落ちしていた。


 冷静に振り返ると、本当に意味が分からない。


 意味が分からないはずなのに、思い出すだけで心臓の奥がドクンと跳ねて、耳の裏が熱くなる。


 自分の部屋で、本当に嬉しそうに笑っていた石上の顔。


 ゲームの操作に少しずつ慣れて、子供みたいに瞳を輝かせていた姿。


 朝、寝ぼけた声でぽつりと言った『いいなぁ、根石くん』という、ひどく切ない独り言。


 その全部が、煙のように脳裏にこびりついて離れない。


「……だから、何なんだよ、一体」


 虎太郎は学生ラウンジの隅の席で、スマホを握りしめたまま小さく悪態を吐いた。


 講義と講義の間の、短い空き時間。周りには学生が何人もいる。テーブルで課題のレポートを書く者、熱心にスマホゲームに興じる者、他愛のない世間話に花を咲かせる者。


 いつも通りの、見慣れた大学の風景だった。


 その中で、虎太郎だけが椅子の上でそわそわと、ひたすら居心地悪そうにしている。自分でも制御できないくらい、心がひどく乱れていた。


「何が?」


 正面に座っていた根石要が、紙パックのカフェオレをストローで啜りながら、ひょいと顔を上げた。


「……何でもねぇよ」


「嘘だろ。最近ずっと『何かあります』って顔に書いてあるじゃん」


「してねぇっての」


「してるって。特に石上が絡んでる時、針田ってめちゃくちゃ分かりやすいから」


「名前を出すな」


「意識しすぎ。絡めてるのは俺じゃなくてお前だろ?」


「あ?」


 虎太郎が思いきり眉を寄せて睨みつけると、要は悪びれもせず、ニヤニヤと意地の悪い笑みを深めた。


 この顔を見るだけで、虎太郎の胃のあたりにじわじわと怒りが湧いてくる。


 ――そもそも、すべての元凶はこいつだ。


 こいつが最低な罰ゲームなどを言い出し、虎太郎のスマホを勝手に操作して、石上に嘘の告白LINEを送りつけたのだ。


 『好きだから、付き合ってほしい』


 あの、悪夢のような一文から、すべての歯車が狂い出した。


 そして最悪なことに、虎太郎はいまだにその誤解を解けていない。解けていないどころか、日を追うごとに状況は泥沼化している。


 石上は完全に、本気で付き合っているつもりでいる。……たぶん。いや、あの過保護さと甘やかし方を見る限り、ほぼ間違いなく。


 そして、そんな石上の好意を、自分自身も完全に否定しきれなくなっている。それが、今一番まずかった。


 要はカフェオレのストローをくわえたまま、いかにも他人事といった軽い調子で言葉を続けた。


「で? 最近、そのお利口な彼氏さんとはどうなの? うまくやってるわけ?」


「彼氏じゃねぇ!」


 虎太郎は反射的に、ガタッと席を蹴るような勢いで声を荒げた。


 静かなラウンジに声が響き、周囲の学生たちが一斉にこちらをちらりと盗み見る。虎太郎はハッと息を呑み、慌てて声を極限まで落とした。身を乗り出し、要の胸ぐらを引きずり出すような勢いで睨みつける。


「お前な……! 軽く言うなよ、そういうのを!」


「いや、だって実質さぁ」


「実質でも何でもねぇだろ!」


 声を抑えようとすればするほど、喉の奥から熱い塊がせり上がってくる。


「いいか、お前のせいで、俺はあいつと『付き合ってること』になってんだからな!? 罰ゲームで勝手に告白LINE送られて、まさか本当にOKされて……そこからずっと誤解されたままで、俺が、どれだけ裏で困ってると思ってんだよ!」


 一気に捲し立てた瞬間、不思議と胸の奥がチクリと痛んだ。


 でも、溢れ出した言葉はもう止まらなかった。


「悪かった、で済むかよ。あいつ、完全に本気なんだぞ……?」


「……まだ、ちゃんと言ってないんだろ?」


 要の顔から、いつものふざけた笑顔がすっと消えていた。


「言える空気じゃねぇんだよ」


「それはまあ……分かるけどさ」


「分かってねぇよ、お前には!」


 虎太郎は苛立ちをぶつけるように吐き捨てた。


 要が本気で反省していないわけではないことくらい、どこかで分かっている。だが、こうして軽い調子で「彼氏」だの「恋人」だのと言葉にされると、どうしても無性に腹が立った。


 石上が、あの綺麗な目で自分を真っ直ぐに見つめてくるからだ。その本気の熱量を知っているからこそ、この状況がたまらなく苦しかった。

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