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星のせいにさせてくれ!  作者: あしゅ太郎


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第7話(7) 捕食者の不器用な縄張り

 翌朝。


 最初に目を覚ましたのは、石上だった。


 薄いカーテンの隙間から、柔らかな朝の光が部屋の中に差し込んでいる。部屋は昨日の熱気のまま、少しだけ散らかっていた。ゲーム機の電源は自動で落ちていて、画面は黒く静まり返っている。


 そして、自分のすぐ隣には、虎太郎がいた。


 クッションにもたれかかったまま、少し窮屈そうな姿勢で眠っている。少し長めの前髪が額にかかっていて、規則正しい静かな寝息が聞こえる。


 いつものような強がった棘のある顔ではない。怒ってもいないし、真っ赤になって照れてもいない。ただの、無防備で、あどけない寝顔。


 石上は、しばらくの間、微動だにせずその横顔を見つめ続けた。


 風邪を引いていた夜の虎太郎を思い出す。弱って、素直になって、消え入りそうな声で「ありがとう」と言ってくれた、愛おしい虎太郎。そして昨夜、ゲームで負けず嫌いに瞳を輝かせて笑っていた、生意気で格好いい虎太郎。


 そのどちらもが、石上にとっては胸が締め付けられるほど愛おしかった。


 石上は、小さく切ない息を吐き出した。


「……いいなぁ、根石くん」


 その声は、限りなく透明な独り言だった。


「よく虎太郎と、こうして一緒に過ごしてるのかなぁ……」


 少しだけ、胸の奥がちくりと痛んだ。


 虎太郎の部屋の勝手に慣れている、昔からの友人。気軽に泊まって、ゲームをして、遠慮なく笑い合える特権。石上にはまだ、手に入っていない不可侵の領域。虎太郎が雑に扱えて、遠慮なく文句を言えて、自然に自分の懐に呼び入れられる相手。


 猛烈に、羨ましいと思った。


 その時、虎太郎がわずかに身じろぎをし、うう、と小さく唸った。石上は慌てて口を閉じる。


 虎太郎は目を閉じたまま、不機嫌そうに眉を寄せた。起きているのか、まだ夢の中にいるのか分からない。けれど、石上の微かな呟きは、どうやらその鼓膜に届いていたらしかった。


 虎太郎は薄く、琥珀色の目を開けた。


「……朝っぱらから、何寝言言ってんだよ、お前は」


 声は寝起き特有の、低く掠れたトーンだった。石上は少しだけ気まずそうに、けれど嬉しそうに微笑んだ。


「おはよう、虎太郎」


「……おう」


「身体、痛くない? 大丈夫?」


「大丈夫だけど……ちょっと首が痛ぇ。変な体勢で寝たからだろ」


「ごめんね、俺が肩を借りたまま寝ちゃったから」


「借りすぎなんだよ、お前は」


 虎太郎はのそりと身体を起こし、首をコキコキと軽く回した。そのまま、絶対に石上と目を合わせないように視線を斜め下に逸らす。


 さっきの石上の言葉には、あえて触れなかった。


『いいなぁ、根石くん。よく虎太郎とこうしてるのかなぁ』


 バッチリ聞こえていた。聞こえていたけれど、全力で聞こえないふりを突き通した。ここでまともに反応してしまったら、石上が自分に対して、要に嫉妬(やきもち)を焼いたという事実を公式に認めることになってしまう。そして、それに自分がどれほど動揺したかまで、相手に悟られてしまう。


 だから、寝ぼけていて何も聞いていないふりをする。それが一番安全な防衛策だった。


 だが、石上はそんな虎太郎の硬直を、すべて見透かしたような目をしていた。


「……もしかして、聞こえてた?」


「何がだよ。何も聞こえてねぇよ、寝てたわ」


「そっか、寝てたんだ」


「あぁ、爆睡してたな。一文字も聞いてねぇ」


「うん」


「……何だよ、その『分かってますよ』みたいな顔は! ムカつくな!」


「虎太郎が一生懸命、聞こえないふりをしてくれてるのが、すごく可愛いなと思って」


「分かってんなら口に出すな、バカ!」


 虎太郎は顔を耳まで真っ赤にして怒鳴った。石上はそれを見て、本当に愛おしそうに声を立てて笑う。その屈託のない笑顔を見て、虎太郎はまた胸の奥がむず痒くて、どうしようもない気持ちになった。

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