表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星のせいにさせてくれ!  作者: あしゅ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/49

第7話(3) 捕食者の不器用な縄張り

 夕方。


 虎太郎は、部屋を「軽く」片付けた。


 あくまで軽く、である。完璧に大掃除したわけではない。床に落ちていた服を洗濯かごに放り込み、ローテーブルの上のお菓子の袋をまとめ、ペットボトルを捨てただけだ。


 ゲーム機の周りはそのままだし、コントローラーも出したまま。いつでも対戦できる状態にしてある。


 病み上がりなのに何色めき立っているんだ、という冷静な自分もいたが、石上が来るなら多少は体裁を整えたいと思ってしまった。そのことがひどく悔しい。


「……別に、汚いとゲームのコードが引っかかるからってだけだしな」


 ひとりで誰もいない部屋に言い訳をする。


 冷蔵庫には炭酸ジュースがある。石上が何を飲むかは知らないが、これでいいだろう。あいつ、本当は高級な紅茶とか飲んでそうだけど。


 そこまで考えてから、虎太郎はぶんぶんと首を振った。何で石上の飲み物の好みまで考えているんだ。おかしい、調子が狂っている。


 ピンポーン、とチャイムが鳴った。


 虎太郎の身体が一瞬だけ、ビクッと固まる。それから、ゆっくりと玄関へ向かった。ドアを開けると、そこにはお洒落な私服に身を包んだ石上が立っていた。その手には、一冊のカラフルな本。表紙には、可愛らしい動物のイラストが並んでいる。


「お邪魔します、虎太郎」


「……何だ、その本」


「これ? 動物占いの本だよ」


「何でそんなもん持ってきてんだよ」


「虎太郎と一緒にやろうと思って」


「ゲームしに来たんじゃねぇのかよ」


「ゲームもするよ、もちろん」


 石上は当然のように微笑みながら、するりと部屋の中へ入ってきた。


 前回来た時は風邪で脳みそがバグっていたが、今日は意識がはっきりしている。その分、自分のパーソナルスペースに石上がいるという事実に、猛烈に緊張してしまう。


 石上はバッグを置くと、部屋を見渡して小さく笑った。


「この前より、すごく綺麗に片付いてるね」


「言うな」


「お、俺が来るから?」


「ゲームの導線を確保しただけだ」


「そっか」


「その、ニヤニヤした顔をやめろ」


「これ、嬉しさが隠しきれない顔なんだけどな」


「いいからやめろって」


 虎太郎は冷蔵庫から炭酸ジュースを取り出し、コップを二つ並べて石上の前に置いた。


「飲むか?」


「ありがとう」


「炭酸しかねぇけど」


「嬉しいよ。虎太郎の家で出してもらえるなら、泥水でも美味しいと思う」


「愛が重いんだよ、表現のクセが強いし」


「あはは、冗談だよ」


 虎太郎はコップにジュースを注いだ。しゅわしゅわと泡が弾ける。


 石上はローテーブルの前に座り、持ってきた本をパサッと広げた。ゲーム機の前に動物占いの本。あまりにもミスマッチな光景だ。


「先にゲームだろ」


「ちょっとだけ占わせてよ。すぐ終わるから」


「ちょっとだけって言って、お前の『ちょっと』は毎回長いんだよ」


「今回は動物だから直感的で分かりやすいよ」


 石上はページをめくりながら、虎太郎の誕生日を確認してきた。虎太郎は、また始まったと思いながらも、渋々それを教える。石上は細い指先で本をなぞり、やがて嬉しそうにパッと顔を上げた。


「虎太郎、占いの結果も『虎』だって」


「名前そのまんまじゃねぇか」


「すごいね、ぴったり。強そう」


「まあ、虎だしな」


「ええと、なになに?『負けず嫌いで、プライドが高くて、好きなものには一直線』」


「なんか急に悪口っぽくなってねぇか?」


「あとね、『実はものすごく寂しがり屋』」


「……それ絶対違うわ」


「『強がりで、他人に甘えるのが致命的に下手』だって」


「その本、今すぐ閉じろ。燃やすぞ」


 虎太郎は思いきり眉をひそめた。


 当たっているような気がするのが、最高に腹立たしい。占いなんて誰にでも当てはまるように書いてあるだけだ。手相の時もそうだった。なのに、石上の低い声で読み上げられると、妙に心臓の奥に刺さる。


 石上は楽しそうに、今度は別のページをめくった。


「ちなみに、俺の診断は『うさぎ』だったよ」


「弱そう」


「ひどいな」


「いや、虎とうさぎなら、どう考えてもそうなるだろ」


「そうだね」


 石上はそこで、フッと目を細めてにっこりと笑った。


 嫌な予感がした。虎太郎が制止するよりも早く、石上の口から甘いトーンの声が滑り出す。


「虎太郎は虎だからさ……うさぎの俺は、いつか食べられちゃうね」


「いかがわしい言い方すんな!」


 虎太郎は即座にツッコミを入れた。石上はさらに目を細め、楽しそうに喉を鳴らす。


「いかがわしいって思ったんだ?」


「そういうニュアンスで言っただろ、お前!」


「えー? 俺は普通に、食物連鎖としての動物の話をしただけなのに」


「嘘つけ! その語尾の感じと、無駄に色っぽい目付きは絶対に狙ってただろ」


「あはは、バレちゃった?」


「バレちゃったじゃねぇよ!」


 石上は本当に楽しそうだった。虎太郎の過剰なまでの反応を見て、完全に味をしめている。このままだと、会話の主導権を永久に握られかねない。


 虎太郎は本を強引に閉じようと手を伸ばしたが、石上はそれをひらりとかわし、さらに顔の距離をグッと詰めてきた。息がかかりそうなほどの近距離で、ハチミツを垂らしたような甘い声が鼓膜を揺らす。


「いいよ、俺は。虎太郎にだったら、いつだって食べられても」


「だから、言い方――!」


「どういう意味に聞こえたの? 教えて、虎太郎」


「言わせんな、バカ!」


「ふふ、虎太郎、顔が真っ赤だよ」


「怒ってんだよ、お前に!」


「へぇ、虎って照れると怒るんだ。新発見」


「動物占いに変な項目を追加すんな!」


 石上は可笑しそうに笑い転げ、肩を激しく揺らしている。虎太郎は本気でこいつの綺麗な顔を小突きたくなった。だが、風邪の時に看病してくれた大恩があるので、ぐっと拳を握り込んで我慢する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ