第1話(2) 嘘つきな僕らと、ハートを抱えた猫
石上朋也。
同じ大学の同級生で、やわらかい雰囲気の男前だ。いつもどこか余裕があって、誰とでも自然に話せる。占星術やタロットが好きで、周りの人間をよく占っていることでも有名だった。
虎太郎も授業の合間に少し話したことがあり、LINEはグループ課題の連絡用に交換した。特別仲が良いわけではないが、全くの赤他人でもない。だからこそ、一番からまれたくない相手だった。
「よし、石上にしよ」
「やめろって!」
「いいじゃん、ちょっとした冗談だって」
「冗談で済む相手じゃねぇだろ!」
面白がる要の手は止まらない。スマホの画面には、数日前に授業の資料について数行やり取りしただけの、そっけないトークルームが開かれていた。
そこに要の指が、迷いなく文字を打ち込んでいく。血の気が引いていくのが分かった。
「おい、何打ってる……見せろ!」
「だーめ」
要が楽しそうに、打ち込んだ文字を読み上げた。
「『好きだから、付き合ってほしい』」
「はあ!?」
本気で飛びかかったが、一瞬遅かった。
ピコん、と気の抜けた送信音が響く。画面には、間違いなく虎太郎のアカウントから送られた最悪の一文が表示されていた。
【好きだから、付き合ってほしい】
部屋の空気が凍りつく。テレビ画面から流れるゲームの待機BGMだけが、妙に明るく鳴り響いていた。
虎太郎はゆっくりと要を睨みつける。
「お前……っ!」
「いや、シンプルな方がリアルかなって」
「リアルにすんな!!」
スマホを力ずくで奪い返す。まだ既読はついていない。今なら取り消せる。震える指でメッセージを長押しした。
「送信取り消し、送信取り消し……!」
「え、取り消すの早くない?」
「当たり前だろ! 男子に送るとか有り得ねえ!」
「そこ?」
「そこもだよ! あいつ、ノリで流してくれるようなタイプじゃないだろ!」
必死に画面をタップしようとした、その時だった。
【既読】
「……」
「……」
二人の動きが同時に止まった。虎太郎の背筋を冷たいものが伝う。
「……見た」
要が小さく呟いた。
「見たな」
「見たね」
「お前のせいだからな!!」
「いや、元はといえばお前が負けたのがいけないんだろ」
「お前が打って送ったのが悪いんだろうが!」
叫んだ瞬間、画面の上部に【石上朋也が入力中...】の文字が浮かんだ。
虎太郎は息を止める。要もさっきまでのふざけた空気を失い、気まずそうに画面を覗き込んできた。
「え、返ってくるの早くない?」
「知らねぇよ……」
「なんて返ってくると思う? 『え、どうしたの?』とかかな」
「だから聞くなって!」
心臓の音がうるさくて、ほんの数秒がやけに長く感じられる。
気持ち悪いと思われただろうか。変な冗談だと怒っているだろうか。
スマホを握る手にぐっと力を込めた直後、画面が更新された。
【いいよ。付き合おう】
「……」
「……」
今度こそ、部屋が完全に静まり返った。
何度も目をこすったが、文字は変わらない。
【いいよ。付き合おう】
【また、学校で】
その下に、きらきらした目でハートを抱えた、やけにごきげんな猫のスタンプが送られてきた。
虎太郎は、ゆっくりと口を開いた。
「……う、嘘だろ……!?」
声が裏返った。要もぽかんと口を開けている。
「……え、マジ……?」
「マジじゃねぇよ! なんでOKなんだよ!」
「いや、俺に聞かれても」
「お前が送ったんだろ! OKされるような文章打つな!」
「いや、断られると思うじゃん普通!」




