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星のせいにさせてくれ!  作者: あしゅ太郎


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第5話(3) 裏庭の特等席と不意打ちのセリフ

 虎太郎ははっとした。まずい。隠れている場所が悪すぎる。このままだと、思い切り鉢合わせる。


 逃げようと一歩下がった、その瞬間。


「きゃっ」


「うわっ」


 案の定、女子と正面衝突した。虎太郎はよろけ、植え込みの枝に肩を派手に引っかける。手に持ってもいない自販機の飲み物を探すように、空中で変な動きをしてしまった。完全に不審者だ。


 女子は驚いた顔で虎太郎を見た。


「あ、すみません」


「いや、こっちこそ……!」


 虎太郎が慌てて頭を下げると、女子は一瞬だけ虎太郎の顔を見て、それから後ろの石上の方をちらりと見た。何かに気づいたのかどうかは分からない。けれど、彼女はそれ以上何も言わずに、足早に去っていった。


 裏庭に、虎太郎と石上だけが残された。


 終わった。完全に終わった。虎太郎は、できればこのまま植え込みと同化して葉っぱとして余生を過ごしたかったが、現実はそう甘くない。


「虎太郎?」


 石上の声がした。逃げられない。虎太郎は、ぎこちなく振り返った。


 石上がこちらを見ている。驚いたような、でも少しだけ困ったような顔。虎太郎は慌てて両手を振った。


「ち、違うからな! いや、あの、別に聞いてたとかじゃなくて!」


「聞いてたんだ」


「聞いてない!」


「今、自分で言ったよ」


「違う、聞こえただけだ!」


「じゃあ、聞こえてたんだね」


「揚げ足取るな!」


 顔が一気に熱くなる。最悪だ、盗み聞きが完全にバレた。しかも告白現場。さらに、石上が「恋人がいる」と断った直後。状況が悪すぎる。


「自販機に水買いに来ただけなんだよ。そしたら、たまたま声が聞こえて。隠れたのは、その、邪魔したら悪いと思って……だから、盗み聞きじゃねぇからな!」


「うん」


「その顔、絶対信じてねぇだろ!」


 石上は小さく笑った。だが、いつものようにからかってくるわけではなく、少しだけ気恥ずかしそうに頭をかく。


「参ったなぁ……聞かれちゃったか」


「……」


 石上は、ゆっくりと近づいてきた。距離が縮まる。虎太郎は反射的に下がろうとしたが、背後には植え込みがある。逃げ場がなかった。


「別に、誰にも言いふらしたりしねぇよ」


「そこは心配してないよ。そうじゃなくて、虎太郎がどう思ったか気になってる」


「どうって……」


 どう思ったか、なんて。そんなの、自分でも分からない。


 石上が女子に告白されているのを見て、どうしようもなく落ち着かなかった。断ったのを聞いて、胸の奥が少しだけ軽くなった。でも、その理由が「自分」だと分かって、今度はどうしようもなく苦しくなった。


「好きだよ」。石上のあの声が、まだ耳に残って離れない。


「虎太郎」


 石上が名前を呼ぶ。虎太郎は思わず顔を上げた。


 石上は、すぐ目の前にいた。近い。裏庭の植え込みの陰。人通りから少し外れた場所。風の音だけが響く空間で、石上は少しだけ身をかがめた。


 そして、虎太郎の耳元に顔を寄せ、低く囁く。


「わかってる……?」


 熱い息が耳にかかり、虎太郎の肩がビクッと跳ねた。


「俺がさっき言った恋人って、虎太郎のことだよ」


「……っ!」


 体温が一気に沸点まで上がる。耳元で言うな、そんな声で言うな!


 分かっている。分かっていたけれど、本人の口から直接言われると、破壊力が違いすぎる。付き合ってる恋人。虎太郎のこと。石上の声が、頭の中でぐるぐると激しく回り出す。


 虎太郎は、慌てて石上の胸を押し返した。


「近い!」


「ごめん」


「謝るなら最初からやるな!」


「虎太郎にちゃんと聞こえるようにと思ってさ」


「聞こえすぎだろ!」


 虎太郎は耳を押さえた。まだ、そこだけがじりじりと熱い。石上は少しだけ楽しそうにしているけれど、その瞳はひどく真面目だった。


「俺、ちゃんと断ったよ」


「……別に、俺に報告しなくていいだろ」


「虎太郎が見てたからね」


「見てねぇって言ってんだろ!」


「聞こえてたんだよね」


「……」


 言い返せない。虎太郎はぷいと視線を逸らした。


「何で、あんな言い方したんだよ。恋人がいるって」


「いるから」


「……っ」


 即答するな。虎太郎は顔をしかめた。


「お前、分かってんのかよ。その、俺たちのやつは……」


 言いかけて、また言葉が詰まる。まただ。また言えない。「罰ゲームだった、嘘だった」、そう言えばいい。なのに、石上がまっすぐ自分を見つめていると、どうしても声が出なくなるのだ。


 石上は、少しだけ表情をゆるめた。


「俺は、虎太郎からの告白、すごく嬉しかったよ。だから、ちゃんと付き合ってるつもり」


 胸が、きゅうと痛む。虎太郎は唇を噛んだ。


「付き合ってるつもり」。石上は本気でそう思っている。自分だけが、ずっと逃げている。誤解だと言いそびれて、傷つけたくないという言い訳で先延ばしにして。そのくせ、石上が女子に告白されているのを見て、勝手にモヤモヤして。最低だ。


 そう思うのに、石上が「ちゃんと断った」と言ったことに、少しだけ安心している自分もいた。

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