表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星のせいにさせてくれ!  作者: あしゅ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/49

第4話(1) フランス語と手相占い

 針田虎太郎は、フランス語が苦手だった。


 いや、苦手というより、圧倒的に相性が悪い。


 発音も文法も単語の性別も、何もかもが自分に喧嘩を売っているように感じるのだ。


 ゲームなら、敵の攻撃パターンを覚えればどうにかなる。対戦相手なら、癖を読めば勝ち筋が見える。けれどフランス語は、そもそもどこから殴ればいいのかすら分からない。


「……何で机が男で、椅子が女なんだよ」


 講義終わりの教室で、虎太郎はプリントを睨みながら低く呟いた。


 隣でそれを聞いていた石上朋也が、小さく笑う。


「そこ、虎太郎ずっと引っかかってるよね」


「引っかかるだろ。物に性別つける意味が分からねぇ」


「言語の仕組みだから」


「納得できねぇ」


「でも、この前より読めるようになってるよ」


「嘘つけ。俺のノート、ほぼ暗号だぞ」


「虎太郎の字が暗号なのは、フランス語のせいじゃないと思うな」


「うるせぇ」


 虎太郎は反射的に言い返した。けれど、その声は前ほど強くない。


 自分でも分かっている。最近、石上に対する言い返し方が少しずつ変わってきているのだ。


 最初は、とにかく逃げたかった。嘘告白の誤解をどう解くかだけで頭がいっぱいだったはずなのに、先週末に猫カフェへ行ってから、石上のことを無視しきれなくなっている。


 猫に触れる時の丁寧な手つき。ゲームの話をちゃんと聞いてくれる真剣な顔。別れ際に見せた、少しだけ照れた笑顔。


 それらが、妙に頭に残っている。いや、残っているだけだ。特別な意味なんてない。虎太郎は必死にそう自分に言い聞かせた。


「フランス語の宿題、今日中だっけ?」


 石上がプリントを覗き込んでくる。距離が近い。虎太郎は少しだけ肩を引いた。


「明日まで」


「じゃあ、今日やった方がいいね」


「分かってるけど、分からねぇんだよ」


「教えようか?」


「……は?」


 虎太郎は顔を上げた。石上は、当たり前のように微笑んでいる。


「俺、もう終わってるから」


「早くね?」


「昨日の夜やった。占いによると、今週は早めに課題を片づけると運気が上がるんだって」


「何でも占いに繋げんな」


「でも終わったよ」


「くそ……結果出してるのが腹立つ」


 虎太郎が悔しげに呟くと、石上は楽しそうに目を細めた。


「大学の近くの喫茶店、分かる? 駅側のところ」


「ああ、あそこか」


「うん。そこで教えてあげる」


「……写させてくれるのか?」


「写すだけじゃ身につかないよ。でも、虎太郎が困ってるなら手伝いたい」


 その言い方が、また妙に柔らかい。


 虎太郎は一瞬だけ黙った。実際、かなり困っている。ここで石上に教えてもらえれば、宿題は確実に終わる。終わらなければ、今夜のゲーム時間が削られる。それはゲーマーとして死活問題だ。


 石上と喫茶店で二人きり。その響きは少し落ち着かないけれど、これは宿題のため、フランス語のため、そしてゲーム時間を守るためだ。


「……分かった。行く」


 虎太郎が渋々頷くと、石上の表情がぱっと明るくなった。


「本当?」


「宿題のためだからな。勘違いすんなよ、デートじゃねぇから」


「お茶するだけだもんね」


「分かってるならいい」


「でも、俺はちょっと嬉しいな」


「だからそういうこと言うなって!」


 虎太郎は鞄にプリントを乱暴にしまった。耳が熱い。別に、石上が嬉しそうだから動揺したわけではない。講義室が少し暑いだけだ。たぶん、そういうことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ