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星のせいにさせてくれ!  作者: あしゅ太郎


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第3話(3) お試しデートは猫カフェで

 その日の夜、虎太郎は即座に元凶――要へ通信を入れた。


「おー、どうした?」


「どうしたじゃねぇよ! お前のせいで大変なことになってんだよ!」


「うわ、進展早いな。石上と何かあった?」


「進展じゃねぇ!」


 虎太郎はベッドにひっくり返りながら、夕方の通話の内容をぶちまけた。前から話したかったと言われたこと、謎の占いで猫カフェ行きが決まったこと。


 一通り話し終えると、要は感心したように「へぇー」と息を漏らした。


「猫カフェ? いいね、楽しそうじゃん。お前、猫好きだしちょうどいいじゃん」


「面白がるな! 俺は誤解を解きに行くんだよ!」


「猫見ながら?」


「……そうだよ」


「和やかすぎるだろ」


 ケラケラと笑う要の細めた目が目に浮かび、虎太郎は歯を食いしばる。


「お前が嘘告白の罰ゲームなんて仕掛けたからだろ! 少しは反省しろ!」


「うん、それは本当にごめん。でもさ、針田って本当に嫌なら、最初の電話の時点でハッキリ断ってるよね?」


「……っ」


 虎太郎は息を詰まらせた。要は普段はポンコツのくせに、こういう時だけ妙に核心を突いてくる。


「ち、違う! 断りにくかっただけだ! 石上が本気っぽいから、いきなり電話で無下に断るのも悪いと思っただけで……」


「あと、猫カフェが気になるから?」


「本音を補足するな、うるせぇ!」


 電話を叩き切るようにして通話を終えたが、胸のモヤモヤは消えなかった。


 スマホには、石上からすでに詳細なメッセージが届いている。店のURL、待ち合わせ時間、地図。そして、可愛らしい猫の絵文字。


「楽しみだね」


 その五文字を見るだけで、また心臓がうるさく自己主張を始める。


「楽しみじゃねぇし……」と毒づきながらも、虎太郎は送られてきたリンクをタップし、店のホームページに写るふわふわの猫たちを、かなり真剣に眺め続けてしまうのだった。


 そして迎えた週末。


 駅前の待ち合わせ場所に立った虎太郎は、早くも後悔の念に駆られていた。


 指定された猫カフェは、駅から少し歩いた雑居ビルの二階にあった。


 時間は待ち合わせの五分前。早く着いたのは、決して楽しみにしていたからではない。遅刻して余計なツッコミを入れられるのが嫌だっただけだ。


「虎太郎」


 背後から突然名前を呼ばれ、肩がビクッと跳ねた。


 振り返ると、そこに石上が立っていた。


 大学で見る時とは違い、柔らかな白いシャツに淡いサマーニットを合わせた私服姿。いつもの優等生らしい雰囲気の中に、少しだけ抜けたような男らしさがあって、妙にサマになっている。


「……おう」


 言葉が詰まった。石上は嬉しそうに目を細める。


「待った?」


「今来たとこ」


「よかった。……その服、虎太郎によく似合ってる。そういうラフなパーカー姿、好きだな」


「普通の服だろ。褒め方が分かんねぇよ」


 顔が熱くなるのを隠すように顔をしかめると、石上は「入ろうか」と促した。


 受付で「猫を無理に抱き上げない」「寝ている猫を起こさない」といった注意事項を受ける。虎太郎が真面目に頷く隣で、石上もやけに真剣な表情で説明を聞いていた。その横顔を見て、虎太郎は少し意外に思う。もっと軽いノリで来るのかと思っていたが、彼は彼なりに、この場所と猫たちに対して誠実なのだろう。


 扉を開けて一歩中に入ると、そこは外の喧騒が嘘のような、穏やかな空間だった。


 柔らかなクッション、大きなキャットタワー、ラグの上で思い思いに伸びている猫たち。


「……すげぇ」


 思わず口から漏れた感嘆の声に、石上が微笑む。


「本当に猫が好きなんだね」


 その時、虎太郎の足元を茶トラの猫がすり抜けていった。虎太郎は反射的にその場にしゃがみ込む。猫は一度だけ虎太郎を見上げると、満足したように尻尾を立てて歩いて行った。


「今の、見たか? めちゃくちゃ堂々としてて可愛くなかったか?」


「うん、可愛い。なんか虎太郎みたい」


「どこがだよ」


「強そうに見えて、実はすごく警戒心が強いところ」


「猫に例えるな」


「嫌?」


「……嫌ではないけど」


「じゃあ、これからもっと言うね」


「言うなっつってんだろ」


 二人は空いているローテーブルの席に着いた。


 ドリンクを注文し、借りてきた猫用のおもちゃを手に取る。最初はぎこちなく座っていた虎太郎だったが、一匹の白い猫がトコトコと近づいてくると、一瞬で目つきが変わった。


「おい……石上、来たぞ。どうすればいい」


 虎太郎は声を潜め、完全に硬直した。


「無理に触ろうとしないで、向こうから来るのを待ってて」


「わ、分かってる……」


「虎太郎、今すごく顔が緩んでるよ」


「緩んでねぇ」


 嘘だった。白い猫が前足を器用に折りたたんで虎太郎のすぐ隣に座った瞬間、虎太郎の口元は完全にふにゃりと緩んでいた。指先をそっと差し出すと、猫がクンクンと鼻を寄せてくる。


「……かわいい」


「うん、本当にかわいい」


 ハッとして石上を見ると、彼は猫ではなく、虎太郎の方をじっと見つめていた。


「猫の話だからな!」


「分かってるよ」


「絶対別の意味で言っただろ、お前」


「占ってみる?」


「占うな!」


 石上は小さく笑いながら、少し離れた場所にいる黒猫へおもちゃを優しく振り始めた。無理に引き寄せるのではなく、猫のペースに合わせて動かす手つき。黒猫が前足を伸ばす。すると、石上の目元が本当に嬉しそうに、少年みたいにクシャッと綻んだ。


 いつも大学で見せる、誰にでも優しい「作り込まれた笑顔」とは違う、完全に素の、無防備な笑顔。


 ――あ、綺麗だな。


 そう思いかけて、虎太郎は全力で脳内にブレーキをかけた。違う、今のは猫と遊ぶ空間が綺麗なだけであって、石上に見惚れたわけじゃない。絶対に違う。


「虎太郎?」


「な、何だよ!」


 内心の動揺が声に出てしまった。石上は不思議そうに小首を傾げる。


「ぼーっとして、俺のこと見てた気がしたけど」


「見てねぇ! 気のせいだ!」


「しーっ、静かにしないと猫に嫌われちゃうよ」


「誰のせいだと思ってんだよ……」


 気まずさを誤魔化すように、運ばれてきたドリンクのストローをくわえる。

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