招かれざる来訪者⑤
光が落ち着くと──部屋には僕とノエル、駆けつけたアンジェラたちの姿だけがあった。
どうやら上手くいったようだ。
オールテレポーテーションで相手だけを転移させたんだけど、操作を間違えて下手したら僕たちも巻き込まれて一緒に転移していた可能性もある。
「ウィル様、ご無事ですか──」
「うん、大丈夫だよ」
「ノエルも無事でよかった」
「ありがとうございますお母様。しかし──モーガンたちはどちらに転移されたのでしょう」
「え、あ、うーん……」
実は転移先は指定してなかったんだよね……
咄嗟の判断でオールテレポーテーションを使ってしまったから、彼らが今どこに居てどうしているのかは分からない。
オールテレポーテーションを使わなかったら、あのまま僕は拘束されていただろう。
しかも──あの黒い外套の集団、どっかで噂を耳にしたんだよな。
「ねぇ、アンジェラ」
「はい、なんでしょう」
「あの黒い外套の集団、どこかで噂を耳にしたことあるんだけど、どういった集団なの?」
僕の質問にアンジェラとシェナは顔を合わせた。
アンジェラは頷くと、シェナが口を開いた。
「あの集団は昔──シェナが創設した暗殺集団ナイトメアです」
暗殺集団ナイトメア──
聞いたことあるぞ。
聞いたことあると言っても、昔文献で読んだ程度だけどね。
王宮直轄の秘密部隊で諜報暗殺を専門とする組織だ。
組織の構造上秘密が多く、誰が所属していてどのくらいの人数が所属しているのか、全体が掴めなく不明な部隊だと明記されていた。
確か──かなり昔に解散したって記録が残ってたはずだけど。
けど、その創設者がシェナだってことにも驚きだ。
「かなり前に解体したはずなのに、何を今更あの外套に身を包む必要があるのかしら」
「折角私が解体してあげたのに、復活してるなんて縁起が悪いですわ」
──ん? まてよ。
暗殺集団ナイトメアを創設したのはシェナで、そのナイトメアを解体したのはアンジェラ。
もしかして二人って敵対していたの?
普段の2人を見ていると納得してしまうのも否めないけど……。
いや──でも、シェナって確かアンジェラに拾われてその時の恩があるって言ってたよね。
「ウィル様、心の声ダダ漏れですよ」
あらやだ、心読まれてたみたい。
僕が疑問を浮かべた表情をしているから、すぐさま心を読んだんだろうけど、プライバシーの侵害!
「わたしも気になります。どうして解体したはずのナイトメアが復活しているのか」
「結末から言うと、解体したのは私とシェナで行ったの。シェナはもうナイトメアには属してなかった」
「元々、ナイトメアは当時の国王がシェナに命じて創設した部隊です。当時の国王曰く──この国は情報戦において他国よりかなりの遅れを取っている。それらに追いつくために、隠密行動が得意だったシェナが陣頭に立ち、創設したって形です」
「でも──シェナさんは何故、ナイトメアを抜けたんですか?」
「それは……」
シェナの顔が一気に曇った。
シェナが喋れないでいると、それを察したかのようにアンジェラが語り始めた。
「裏切られたんです。しかも──半獣半魔ということがキッカケで」
てことは、シェナはその頃から自身の正体を隠して生きてきたって事だ。
アンジェラは国家間の友好の証として送られてきた特派員みたいなもので、アンジェラと違ってシェナは、純血思想が根深いトゥルメリアで、ひっそりと彼女の援助を得ながら入国して生活していた身だ。
やはり──昔から純血思想の弊害があるじゃないか。
人間は負の真実を知ると、即効掌返しをして裏切る。
シェナはシェナってだけで、ただの半獣半魔の猫人族だ。
意思疎通だって測れるし、人を好きでいてくれてる。
なのになんでこんなくだらない歴史の為に、誰かが傷つかなきゃいけないんだ。
「もう過去のこと。今ここで昔話をしても何の意味もない。今は──これからのことを話すべきよ」
いつも何でも話してくれるシェナは、今回ばかりは過去のことを話すことに躊躇いを持ったのか、自らこの話を遮った。
でも──シェナの言う通りだ。
モーガンたちを遠ざけた今の現状を考えても、安心なんてこれっぽっちも感じられない。
どこに飛ばされたにせよ、モーガンはまたここにやって来る。
その時は徹底的に僕を追い詰めるだろう。
それも、解体されたはずのナイトメアを使って。
「そうだね。今後──この領地で厳戒態勢を敷くよ。王都に居るアリスたちと連携して、モーガンに対する対策を練ろう」
「かしこまりました。早速──アリス様にコンタクトを取りたいと思います」
「シェナはダグラスにコンタクトを取るわ」
「あぁ、よろしく頼む」
アンジェラとシェナは早速、各々とコンタクトを取るために散らばって行った。
そして室内は、僕とノエルの2人きりになった。
ノエルは緊張の糸が切れたのか、僕に寄りかかった。
「ウィル……わたし怖い……」
「うん、僕も同じ気持ちだよ」
「これからわたしたちどうなるの?」
「わからない……。でも、このままモーガンの好きにはさせない」
「うん……無理しないでね?」
「大丈夫、僕が必ずノエルを守るよ」
僕の心の中にある不安も多少燻ってはいるが、相手の出方や目的が分かった以上、指を咥えて待ってる訳にはいかない。
彼女の不安を和らげる為に僕は優しく抱きしめた──




