100話記念番外編 異世界の可憐な乙女たちは、温泉が気に入ったようです
100話記念の番外編です!
時系列的には、ニーナが来た翌日辺りです。
これからも転イジをよろしくお願いします!
投稿頻度落ちててごめんなさい!
みなさまご機嫌よう。
わたしの名前はノエル・カリオペ。
新しく出来た領地の領主にて、名誉公爵であらせられるウィル・グレイシーの婚約者です。
人間が絶対であるトゥルメリア王国で、ウィルはわたしと婚姻することを決めました。
そんなウィルは元々は王家の人間で、事情があって今は育ての公爵家であるグレイシーの名を名乗ってます。
具体的なことは今更話すことではありませんが、ウィルとの婚姻で周りからの反発を貰うことを覚悟しました。
しかし──周りの人たちはあっさりとわたしたちの婚姻を受け入れてくれました。
でも周りの人たちが良くても、ここで暮らしている民たちはどう思っているか分かりません。
もしかしたら暴動やデモが起きるかもしれません。
けど、わたしとウィルは決めました。
どんなに周りから批判されようとも、純血思想主義というこの悪しき風習を終わらせようと。
彼って一度決めたことは諦めず必ず実現させようと真っ直ぐで真面目な人なんです。
そんな実直な姿に惹かれたというかなんというか……
とにかく、そんなウィルが領主になって数日経ったある日、幹部を集めた定例会で、こんなことを言い始めました。
「まだ寒い日が続くし、温泉でも作ろうか」
「温泉……ですか?」
「申し訳ないです、ウィル様。温泉とやらはなんでしょう」
温泉というワードに疑問を抱くお母様。
温泉……。初めて聞く名前でした。
全く想像できませんが、やれやれ──といった表情でお父様が口を開きました。
「温泉とは、自然に湧き出る湯の事で、そこに入れば疲れは取れるどころか傷も魔力も回復する万能の湯だ。サクラ王国に行った際に入ったであろう」
「あー、あれが温泉って言うのね。確か──シェナが男専用の湯に間違えて入って大混乱になったんだっけ」
「あれはシェナとしても恥ずかしい話だわ。今すぐ記憶を消して」
「無理よ。出会って初めてあなたが顔を真っ赤にして半泣きした場面だもの。そうそう消せる記憶ではないわ」
「このクソエルフ、今すぐ記憶を消せッ!!」
「何よメス猫ッ!! 記憶は消せるものじゃないの。大人しく過去の黒歴史として心に刻みなさい」
「まあまあ、2人とも落ち着いて……」
ウィルが困惑しながらも二人を落ち着かせる。
でも──温泉を作るにしても、どうやってその源泉を見つけるかです。
お父様は湧き出ると言っていたので、想像としては山の麓に源泉があることを想像するのですが、ここの領地は裏門から出るとゼノ大森林があって、表門は舗装された道の両端に田畑が広がってます。
山は領地を出て右に進むとあるのですが、気軽に行ける距離ではありません。
ウィルはどうするのでしょうか。
「しかしながらウィル様、ここの領地周辺には山がございません。源泉を見つけるといっても西側にある山岳まで行かなければなりませんが」
「うん、それは大丈夫。わざわざ源泉を見つけなくていいんだ」
「────ん? と言いますと?」
「この間、近くにある川から水路を繋げたでしょ。その貯水から温泉を作るんだ」
それだと魔力回復とかの効能を得られないけど、それを温泉だと言っていいのでしょうか。
どうやらわたし以外の方々も同じことを思っているらしく、目が点です。
「確かに──効能は得られないけど、温泉の楽しみ方って他にも色々あると思うんだ。とりあえず、温泉は僕が作るから着いてきてよ」
ウィルの言葉に困惑を隠しきれないわたしちですが、自信満々のウィルの顔を見たら、何だか大丈夫だと思ってきました。
わたしたちはウィルに着いて行くと、領内の西側に位置する城壁場所にたどり着きました。
ウィルは立ち止まって目を瞑り両手をかざすと、あっという間に建物が出来たではありませんか。
「初めて見たけど、これがウィルの生成スキル……」
「建物は初めて作ったけど、やっぱ僕もまだまだだよ」
「何をおっしゃいますか。こんななんでも作れるユニークスキルは他にありません。普通なら日用品を作ることが精一杯なスキルなんですよ」
わたしもウィルの生成スキルの凄さを他の人から聞いたことがありますが、エルフ王国にも生成スキルを持っている方はいらっしゃいました。
けど、作れるとしてもせいぜい子供のおもちゃや日用品程度。
武器などを生成することは不可能で、試してみてもハリボテで触れれば崩れてしまう程度のものでした。
「さて──僕のスキルの話はさておき、中を案内しますよ」
「え、まだ建物が出来ただけで中には何も無いのでは?」
「甘いねアンジェラくん。僕の生成スキルを舐めたらいけないよ」
そう言うと、ウィルの後を追うように中に入っていきました。
中に入ると──目の前には受付らしきカウンター、両サイドには男女分かれた暖簾がかかってました。
左が男性で右が女性。
男女分かれているので、ウィルと一緒に入ることは無さそう。
ちょっとだけ期待しちゃったかもです。
「それじゃあ、僕たちはこっちだからまた後で」
そういうとウィルはノーマンを連れて男性用に入って行きました。
後からニーナさんも合流しわたしたちは女性用に入っていくと、まず脱衣所がありました。
大人数を想定してなのか、脱衣所のロッカーは数えるのが面倒なくらいあり、左側の壁際には壁一面の大きな鏡、そのすぐ下には化粧台があって、十席分の椅子もありました。
「へぇ、かなりしっかり作り込まれてるじゃない。ウィル様の生成スキルって底が知れないわ」
「ウィル様は在学中から規格外って言われてましたけど、細部まで作り込まれた物を見てしまうと、改めて特別な人なんだなって実感します」
「その自覚があまりないのがウィル様のいい所でもあるわ。彼のおかげでクラスには一定の相乗効果があったからね。担任としてはやりやすいクラスだったわ」
そうか──三人はわたしがウィルと出会う前から知り合いで、わたしよりもウィルのことをたくさん知っているのですよね。
ちょっと嫉妬してしまいます。
ウィルは優しくて誰よりも思いやりがあって、強くて逞しくて……。
たまに真っ直ぐ突き進みすぎて自分を犠牲にしてしまう部分もありますけど、そんなウィルをわたしは愛していて……
「どうしたの? ノエル」
「あ、いや、なんでもありません──」
ニヤニヤしながらお母様はわたしに問いかけますが、心を読めるお母様に隠し事は通用しないのに、咄嗟に隠してしまいました。
それ以上の追求はありませんでしたが、今後お母様の前でウィルに嫉妬するのはやめておきましょう。
「──それにしても、ニーナって結構男を虜にする身体を持ってるのね。もしかして着痩せするタイプなのかしら」
「あ、アンジェラ様、そんなジロジロ見ないでくださいッ。ふ、普通ですから──」
ニーナさんの身体をジロジロ見ながらセクハラ発言するお母様。
凄く恥ずかしがっているけど、確かにニーナさんは出ているところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。
所謂──男性が好きそうな身体つきをしていて、肌もエルフに負けんばかりの透き通った色をしている。
「ですってシェナ。ニーナにとってはこれくらい普通なんですってよ」
「はぁ? なんか言ったかしら」
お母様、その話の振り方は間違ってます。
喧嘩になるから止めましょう……と、言いたいところでしたが、時すでに遅しでした。
いつものように痴話喧嘩をし始める二人。
もう見慣れた光景なので呆れしかないのですが、今日は折角ウィルは温泉を作ってくれた日なのです。
喧嘩ぐらいしないで欲しいですよね。
「お母様もシェナさんも喧嘩してないで早く行きますよ」
「ちょっと待ちなさい。お母さんだって好きで喧嘩してるわけじゃ……」
「自分から喧嘩ふっかけておいてそれはないわよ。まずシェナに謝るべきじゃない?」
「なんであんたに謝んなきゃいけないのよ。被害者意識も甚だしいわ」
「なんですって──」
あぁ〜あ。
ダメだこりゃ。
わたしとニーナさんは二人を置いて温泉の中に入っていきました。
中に入ると、目の前には小高い丘から辺りを一望できる風景があるじゃないですか。
「すごーいッ!! これってもしかして、景色が見える温泉ってことかしら」
「これって本物の風景なんですかね?」
「これは露天風呂っていうのよ。幻影魔法で風景を作り出しているから本物では無いけれど、これなら本当に温泉に入っている気分になるわ」
いつの間にかわたしの隣に居たお母様が説明しますが、これがウィルの言っていた温泉の楽しみ方ってやつですね。
擬似的ではあるものの、本物の温泉がサクラ王国にあるので、サクラ王国に行ってみたくなりました。
温泉の湯に浸かるわたしたち。
温度は適切で、熱過ぎずぬる過ぎずで丁度いいです。
目の前には風景があって、湯に浸かっていても風景のお陰でリラックスできます。
「これなら毎日来ても飽きないわね」
「ついつい長湯してしまいそうですから、気をつけないとですね」
「シェナは長湯出来ないから、城内の浴場で十分だわ」
「そう考えると、わたしたちってみんな別の種族なんですね」
わたしはハーフエルフで、お母様はエルフ。ニーナさんは人間でシェナさんは猫人族。
そんな種族がバラバラのわたしたちは、今一つの湯に浸かっているのです。
純血思想が強いこの世界で、わたしたちは身体をさらけ出して一人の御方にお仕えしています。
そんなわたしたちを繋げてくれたのはウィルであり、ウィルはこういう種族の垣根を越え、皆が手を取りあって生きていける世界を望んでいます。
「私、両親からずっと人間が第一であるって教えられていたので抵抗はありましたが、ウィル様の言葉を聞いて考えが改まりました。種族の隔たりは無くすべきだって」
「シェナが猫人族だって打ち明けた時、ウィル様はシェナを受け入れてくれました。ウィル様には感謝しています」
「私はエルフ王国を取り戻したいわ。でも、今はその力は無い。けど──ウィル様は約束してくれたわ。必ずエルフ王国を取り戻すって」
みんなそれぞれウィル様に対して抱く尊敬の形は違えど、心の底からお仕えしたいって気持ちは一緒なのです。
そして、わたしは──
「わたしは、ウィルと──」
「あ、みんな。温泉どうだった?」
「良い湯でしたわ。また本物の温泉に入りたくなりましたわ」
「うん、いつか本物の温泉も作るつもりだよ」
誰かのために一生懸命になれるウィルにわたしは惹かれています。
そんなあなたを、わたしは心の底からお支えしたいと思っております。
これからたくさんの困難が待ち受けているでしょう。
ウィルの進む道は修羅の道で、決して楽な道ではありません。
でも、わたしがついてます。
だから安心してください。
わたしがこの手で──
「どうしたの? ノエル」
わたしはウィルに近付くと耳元に口を添えました。
「今度は2人きりで温泉、入りましょうね」
「の、ノエルッ!?!?」
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