幕間のひと間 その13
全く──彼には驚かされるよ。
オールテレポーテーションを発動したと思いきや、我とゲイリー、さらに周りを取り囲んでいたナイトメアだけを転送させたのだ。
本来ならば範囲以内に居る者が転送の対象で、それは術者本人も対象に含まれる。
ウィルとハーフエルフもこの場に居なければならないのだが、転送されたのは我たちだけ。
相当な魔力操作の鍛錬を積んできたのだろう。
王族という高潔な血筋があれど、公爵家の人間として育った彼には、おごりという概念は無いのだろう。
公爵家であったとしても怠惰堕落の温床となっているのは否めないが、そう考えたら彼の人間性の部分がそうしているのか。
考えるだけ野暮か。
どのみち彼には退場してもらわなければならない。
「モーガン様、位置が判明しました」
ナイトメアの一人が跪いて報告するが、大方の予想は付いている。
ここは、百年以上前に滅んだガルシア王国の跡地。
今は砂漠化して緩衝地帯になっているが、滅ぶ前はこの大陸の通商を一手に担っていた国家だ。
その為、ガルシア王国の利権を奪おうと多くの国々が侵略戦争を行った。
ガルシアの南に位置するメイス帝国が主に侵略を行っていたのだ。
だが──ガルシアは強かった。
数で勝る強国のメイスを独自の防衛システムで毎度撃退していたのだが、そんな強国を退けるガルシアは滅亡した。
理由は定かではない。
一説によればガルシアを侵略できないことに焦りを感じたメイスが、北の魔族と手を組んでガルシアを滅ぼしたと言われているが、人間も獣人亜人も見境なく殺す魔族と手を組んで得られるメリットはないことを、メイスも分かっているはず。
ただ──文献として残っているのは、メイスとガルシアの戦争に手薄になった北の国境から魔族がなだれ込んで来たという記載がある。
百年以上も前の出来事だから今は知る由もないが。
「緩衝地帯のど真ん中です。ここに暫く留まってますと人体に悪影響を及ぼします」
「なるほど。緩衝地帯だということは分かっていたが、よりによってデッドゾーンに転送させるとはな」
この緩衝地帯にはデッドゾーンという危険区域がある。
ガルシア王国の首都があったプロスペリダッドが危険区域になっているのだ。
砂漠化しているため周辺を見渡しても一面砂だらけだが、地底から溢れ出てくる有毒ガスみたいなものが人間の身体に悪影響を及ぼしているらしい。
急に身体中赤い斑点みたいなのが出てくるが、暫くすると皮膚が爛れて急に死んでしまう。
赤い斑点が出てきても治癒魔法でなんとかなるが、皮膚が爛れてしまうともう手遅れだ。
なのでここに近寄る人間は居ないし、近寄ったとしてもそいつは自殺願望のある人間だ。
「まあでも心配しなくていい。我も王族の人間だ。すぐに帰れる」
「モーガン様、このような愚行を行ったウィル・トゥルメリアをどう処罰すればよろしいでしょうか。やはりここは極刑を──」
「その件だがゲイリー、少し待て」
「しかし、奴はあなたの道を邪魔する輩でワタシの息子を──」
「──我が待てと言ったら待て。犬でもできるぞ」
ゲイリーはお堅い頭をしているのか融通が利かなくなる時がある。
20年前、ゲイリーがジェフリー派の貴族たちを不当に拘束し処罰したせいで捕まった。
捕まってトカゲの尻尾切りを出来れば良かったが、お堅い上にマメな性格なのか、我たちの会話や作戦内容などを全て手記に記していたのだ。
それがめくれて我は失脚しステイシア王国に放逐された。
それでもこいつを側に置いているのは、使い道があるからだ。
今、こいつは復讐心に燃えている。
悪魔に憑依されていたと言えど、息子のジェイドをウィルに殺されたのだ。
そのお陰でこいつは自分の持っている権力を余すことなく振りかざしてウィルを追い詰めようとしている。
表では平然を装っているが、心の内はどうかな。
法で裁きを下すことよりも、自分の手で裁きを下したいった思っているのだろう。
でも、今はこいつの持っている権力が必要だ。
法は何よりも盾になる。
「ゲイリー、ジェイドのことは残念だ。お前がウィルを断罪したい気持ちはよく分かる」
「お言葉ですが、モーガン様にワタシの気持ちは分かりません。ワタシは愛する息子を失ったのです。事情は分かってます。彼は何も悪くない。でも、この行き場のない怒りを晴らすためには、彼を──いや、ウィル・トゥルメリアを断罪するしか他ならないのです」
我は嗤いたい気持ちを必死に抑えた。
それは──我がダンタリオンとジェイドを引き合わせたからなのだ。
だがこいつは知らない、知る由もないのだ。
ジェイドを贄にしたのは放逐されるキッカケを作ったお礼に過ぎない。
「気持ちはよく分かった。だからこそ頭を冷やせ。今お前が勝手に動くと後のスケジュールに響いてくる」
「ならばせめて、理由をお聞かせ願っても?」
「そうだな。ウィルがどういう対策を講じてくるか気になったのが第一だな。名誉公爵といえど、大きな後ろ盾は育ての親のグレイシーしか頼る場所は無い。王族に頼ろうとしてもジェフリーは病床で娘のアリスは王宮内でも孤立気味だ。そんな手数の少ないウィルがどう立ち回るのか見てみたい気持ちになったんだよ」
妙に納得した表情を浮かべるゲイリー。
ここまで説明しておけば、反論する余地も無くなるだろう。
わざわざこっちから捕まえなくても、あっちが勝手にこちら側にやってくるからだ。
「さて、行こうか。ここに長居しても良いことはないからな」
我はオールテレポーテーションを発動し拠点に戻った。
これから楽しみでしょうがない。
王になる前の余興ができたからな。
さあ、どうするウィル──
王都某所──
「──というのがあっちの言い分だ」
「放逐された身で自分が王になる気満々かよ」
「放逐されようがなにされようが、自分が王になることに一切の手段は選ばない男だ。気を抜くなよダグ」
「それはこっちのセリフだ。お前も絶対にバレるんじゃねーぞ」
「分かってるさ。ワタシを誰だと思ってる」
「うるせーよ、ゲイリー」
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