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神に選ばれた転生貴族は、世界を救うことにしました 〜退屈だった人生から始まる英雄譚〜  作者: リオン
第三部 トゥルメリアの後継者編

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招かれざる来訪者②

 出来ることなら頼りたくないことの一つに、お金のやり取りというのが僕の心に刻まれている。

 企業間同士の商談による契約金ならともかく、個人間のお金のやり取りは、間違いなく人間関係が拗れやすい。

 転生する前の人生で一回だけ失敗したことがある。

 職場の同僚の坂本くんが今月お金がなくて家賃が払えないから10万円貸してくれって言われたことがある。

 それを言われる前から坂本くんは昼休憩でもおにぎり一つだけだったり、どこから仕入れてくるのかわからないけどパンの耳をかじっていたり、明らかに極限まで食費を切り詰めた生活をしていた。

 かなりの倹約家なのかなと思ったけど、お金を貸してくれって言われた瞬間に全てが合致した。

 とりあえずどうしてそんなにお金が無いの? って聞いたけど、彼は──プライベートのことだから詮索しないでくれると嬉しいって言ったっけ。

 でも、かなり困ってる表情だったから10万円貸したけど、お金を渡す時坂本くんは泣いて感謝してたよね。

 でも──それも全て彼のパフォーマンスだって気付かされるのはそう遠くない未来に起きたんだ。


 彼は所謂──ギャンブル依存症だった。

 坂本くんは僕のお金を握って、そのままパチスロ店でギャンブルに興じていたんだ。

 なんで分かったかって?

 帰り道の途中にパチスロ店があって、坂本くんは堂々と窓際に座って楽しんでたからだよ。

 その時僕は果てしない後悔に苛まれたよ。

 1万円ならまだ心が痛まずにすんだけど、10万円はさすがに心が痛んだよね。

 何やってんだろう、僕。ってね。


 その翌月──坂本くんは、またお金を貸してくれって泣きながらせがんできたんだけど、一度は拒否して返済を要求したんだ。

 でも、坂本くんは逆ギレして挙句──


『お前みたいな居るか居ないか分からねえ陰キャが、金使うアテもねえんだから、大人しく金渡せよカス』


 って、言われたっけ。

 職場でみんなが仕事してる時にだよ?

 大声で罵倒だよ?

 上司とか他の同僚が仕事に勤しんでる中でだよ?

 あの時の坂本くん、他人にお金を無心してまでギャンブルにのめり込んでたんだろうね。

 その一部始終を見ていてたまたま部長に用があった人事部の人が間にはいってくれたんだけど、バツが悪くなってしまったのか、坂本くんはそのまま会社を辞めてしまったんだ。


 僕の10万円?

 返ってくるわけないじゃん。

 坂本くんの給料から天引きされて僕に返ってくる訳でもないし、人事部の人は最終的に当人間で問題を解決してくれって結論づかれるし。


 結局何が言いたいかって?

 お金のやりとりは転生する前も転生する後も苦手ってこと。

 稼ぐのは好きだけどね。


 さて──どうしてこの話をしたかと言うと、ダンジョンが見つかった僕の領地は、今まさにハンター向けの宿舎と依頼を受注発注するギルド支部の建設を急いでいる。

 ダンジョンが見つかってそろそろ一週間経つのだが、間もなくギルド本部から、事前調査の許可が下りるところだった。

 許可が下りた段階で調査隊の編成を行うのだけれど、その前に、この領地はいかんせんお金がない。

 宿舎をつくるのにもギルド支部を建設するのにも、資材と人件費は必要なわけで、その費用の捻出は僕の私財でも賄えないレベルの額だった。

 てなわけで──国に融資の申請も同時に行ったわけだけど、その為に財務担当の査察が入るというのだ。

 要は本当にダンジョンが見つかったのか、国庫を融資して返済能力があるのか、そもそも融資しても大丈夫なのか、など──色々な側面を見られる。

 何か──銀行の融資査定みたいで緊張するな。


 しかも──今回の査察は、財務担当のネルソン・レニツァ公爵が自ら査察に赴くというのだ。

 この間の任命式で悪いイメージしかないから、ちょっと嫌な感じではあるけど。

 絶対に重箱の隅をつつくような質問してくるよ?

 絶対に法外な利子で返済を迫ってくるよ?

 そもそも、グレイシーに金なんか貸さねえってなるかもよ?


 そうか!

 僕がグレイシーの人間だから難癖を付ける為にわざわざお偉いさん本人で来るわけか!

 財務担当もヒマなんだね。

 絶対老後は貯めに貯め込んだ裏金で豪遊生活って考えてるよ。

 あ、これは個人的な偏見ね。


 そして──そのネルソン公爵が査察の為に僕の領地に来る日である。

 僕たちは居城の中にある、公爵家だけが使用できるゲートの前に待機していた。

 今回──ネルソン公爵を出迎えるのは、僕、ノエル、シェナ、アンジェラ、ニーナだ。

 出迎えのために他にも文官は居るが、ネルソン公爵を出迎えるには十分だろう。

 すると──ゲートが光り、中からネルソン公爵とその部下たちが入ってきた。


「レニツァ公爵、遠路はるばるお越し頂きありがとうございます」


 僕たちは一礼をするが、当のネルソン公爵はあからさまな不機嫌な態度だった。


「なんだこの湿っぽい場所は。財務担当の公爵である私が直々に来たというのに、出迎えはこれっぽっちか」


「申し訳ございません。まだ発展途上の領地ですので、多くの者が出払っております。ご容赦ください」


「ふッ──まぁいいだろう。グレイシーにそこまで期待しておらんわ。それよか、事は早く済ませたい。まずは財務状況のヒアリングから行う」


「かしこまりました」


 僕が合図すると、案内役のメイドがネルソン公爵御一行を専用の会議室に案内した。

 僕も後ろを付くかたちで向かおうとしたが、一人の男に呼び止められる。


「久しぶりだな、ウィル」


 細身で引き締まった身体。

 だが──彼の面影は何処かで見覚えがあった。


「もしかして──スレブッ!?」


「あぁ、スレブ・レニツァだ」


 びっくりした……。

 いかにも親の七光りで贅沢と贅肉三昧だったあのスレブが見違えるほどのイケメンになっていたのだ。

 しかも喋り方も物腰柔らかで角が取れて丸い。

 どこからどう見ても好青年じゃないか!


「久しぶりですね、スレブさん」


「ニーナも久しぶり。君がいきなり卒業してしまうからびっくりしたけど、まさか──ウィルの下で働いてたとはね」


「お陰様でこの領地の法務担当を任されてます」


「大出世じゃないか。ニーナは優秀だからな。ボクも負けないように頑張るよ」


 な、なんという好青年……。

 イケメンで優男で気遣いが出来て、まるで非の打ち所がない人間になってしまったではないか。

 本当にスレブなのか? ちょっと疑ってしまうが。

 坂本くん、人は努力すれば変われるよ。


「本当にスレブなの? シェナにわかに信じ難いんだけど」


「そうね、ここの領主代行で忙しかったから私もにわかに信じ難いわ」


「嫌だな2人とも。紛れもなくスレブ・レニツァですよ。以前の振る舞いは大変申し訳なく思っております」


 スレブは深々と頭を下げた。

 あ、あのスレブが頭を下げただと……。

 やっぱりこの人スレブじゃないよ。

 多分他の人だよ。

 本当の彼は知らないどこかで幽閉されてるんだよきっと。

 じゃないと辻褄が合わないよ。

 あんなに傲慢で人を見下すスレブが謙虚になってるなんてにわかに信じ難い。

 てかさ、半年の間に何があった? 教えてよスレブくん!


「あなたがノエルさんですね。はじめまして、スレブ・レニツァと申します」


「ノエル・マクレーンと申します」


「ウィルとの婚約おめでとうございます。まさか、マクレーン家のご令嬢がグレイシー家とご婚姻されるなど、王宮では話題になっておりますよ」


「いえいえ、とんでもございません。ありがとうございます」


 口ぶりから察するに、スレブはマクレーンとグレイシーの歴史について見識がある。

 公式上──マクレーン家の情報が抹殺されても、まだ歴史は浅い為、公爵家や他の貴族はマクレーン家とグレイシー家の歴史を知ってる者は多いか。

 それ以上に打倒派が、本当はノエルがアンジェラ先生の娘だということに気づいているかどうかだ。

 例え気づかれているとしても、打倒派の宿願はジェフリー王の失墜なわけだから関係が無いと思うがそれは間違いかもしれない。


 今回──王の勅命で領主としての任命、さらには名誉公爵としての授爵も行っている。

 その僕がノエルと婚姻を結んだということが公になっているのは事実で、更にノエルがまだ周りには隠している事実のハーフエルフだということが公にバレてしまったら、ジェフリー王の任命責任になりかねない。

 これはあくまで僕たち側が盤石な体制が整ってない場合に限るが。


 どちらにせよ──まだバレてないことを祈るしかない。


「スレブなにをしている。さっさと来い──ッ」


「申し訳ございません、今行きます。では──皆様の健闘を祈ります」


 そう言い残すと、スレブはネルソン公爵の下に走っていった。

 スレブの変わりように僕たちはポカンと口を開けて立ち尽くしていた。


「本当にスレブだったんだ」

「シェナまだ信じられない」

「昔のスレブさんを知らないけど、好青年だったね」

「入学当初の傲慢さはどこ行ったのかしら」


 だが──ニーナだけは別だった。


「ここだけの話、彼が本気で痩せたいって言ってたので、本気で雷魔法を放って逃げ回ってもらいましたよ。何回か当たって死にかけてたのは申し訳ないですが……」


「「「「────えッ!?」」」」


「でも、自分からお願いしたんだからそれくらいは覚悟の上で当てに行きましたけどね。泣いて謝る姿が滑稽でなんだか笑えてきましたよ」


 ニーナさん、鬼畜すぎない?

 彼女はにこやかな表情だったが、どこか恍惚な表情にも見えた──

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