20. 何かと忙しい日々
所信表明演説を行ってから翌日──
今後の領地運営を決める上での大事な役職決めを行っていた。
とはいうものの、限られた人員の中から各役職のトップを決めなければならないのだが、いかんせん人が居ない。
しかも──難民となったエルフ族に対し、偏見と差別を行わない人材となるともっと限られるし、やはりここは身内で固めるべきなのか頭を悩ませる。
「とりあえず、軍の統括はアンジェラに任せるとして、問題は司法と財務だよね。小さい子供たちに学びの場も作ってあげたいし、そうすると教育部門のトップも決めなければならない」
「頭抱えてるね。どうしたの?」
温かい飲み物を持ってきたノエルが僕の執務室に入ってくる。
「ノエル。どうしたらいいのか分からなくて。領地を運営するにしても各部署の人材が少なくて組織編成が出来ないんだ」
「どれどれ? えーと、ここがこうで……」
横に立ったノエルが顔を近づけて覗いてきた。
チラッとノエルの方を向いたが、綺麗な金髪ををかきあげ見えた横顔は、今まで見たことのない美しさだった。
胸がドキッと強く鼓動し痛くなる。
改めて思うけど、ノエルって凄く美人だよね。
こんな綺麗な人をお嫁さんに貰うだなんて、転生してよかったなって思うよ。
ありがとね、神。
「どうしたのウィル。わたしの顔に何か付いてる?」
「あ、いや……なんでもない……」
さすがに美人すぎて見とれてましたなんて言えないよ。
「軍事部門のトップをお母様ではなくお父様に任せるのはどうかしら。そしたらお母様が教育部門に配置できるし、財務は暫くわたしが担当するわよ?」
だが──兵の大半は有志で募ったエルフ族が大半であり、人間の兵士は各領地から異動してきた100人程度しか居ない。
「それだとエルフの人たちの士気が下がるんじゃないか? アンジェラがトップだから有志で参加したって人も少なからず居ると思うし」
「それなら大丈夫。お父様は意外とエルフから慕われてるのよ。最強の絶拳から武術を教われるなんて滅多にないって言ってるくらいだし」
ノーマンってそんなに人望が厚かったのか。
そんなことを思ってしまってはノーマンに失礼だが、エルフ族は本来──魔法による攻撃を得意とする部族で、格闘に関してはほぼ素人と言っても過言ではない。
先の戦いでもノーマンは悪魔を倒した実績があるし、そのノーマンから格闘術を習うってことは目からウロコなのかもしれないな。
「じゃあ、軍事はノーマン、教育はアンジェラ、財務はノエルにお願いするとして、残りの司法はどうするかだよね」
すると──いきなり執務室のドアがバタンッと勢い良く開く。
そこには僕の姉であるアリスが仁王立ちして立っていた。
「話は聞かせて貰ったわ。こういうことは国王代理であるお姉ちゃんに任せなさいッ!!」
「──アリスッ!!」
「アリスお姉様ッ」
アリスは駆け足でこちらに向かってくると、ノエルを後ろから抱きしめる。
「どうしてここに来たんだ?」
「なぁーに? 私がここに来るのに理由なんているの? 義妹になる可愛い可愛いノエルちゃんに会いに来ちゃダメなのかしら」
「お姉様……」
「ウィルと違ってノエルちゃんは、私にお姉様って慕ってくれるのよ? いい加減、ウィルも私のことお姉ちゃんって呼びなさいよ」
それは悪いが願い下げだ。
お姉ちゃんって呼んだ暁には調子に乗ってあれこれ言ってくるだろうし、なにより──姉って気がしない。
悪い人じゃないし嫌いでも無いけどね。
嫌なものは嫌だって感じだ。
「そんなことより──人材にアテがあるって本当なの?」
「そんなことってなによ。まあいいわ。もちろん、私の人脈を使えば、問題はすぐ解決するわ。その人材もここに呼んでるしね。入って」
なんとも用意周到だ。
まるで僕が人材不足に嘆くことを、前もって知ってたかのように。
「し、失礼します……」
ひとりの女性が執務室に入ってきた。
この人どこかで見覚えがある──どころか、ニーナ・オースティンだった。
「ニーナ? なんでここに?」
確か、ニーナはトゥルメリア魔法学院の上級クラスに進級したはず。
ここに来るってことは学院を辞めたのか?
「実は──」
「──ニーナちゃんって、ずっとグレイシー将軍からオファーを貰ってたんだけど、飛び級卒業して軍に入れようとしてたから、私がここに連れてきちゃった! てへッ!」
てへッ! じゃないよ!
それ、父さん怒らない?
ニーナの力に惚れ込んで、ずっとオファーしてたってことでしょ?
半ば無理矢理軍に入隊させる行動を取ったのは、アンジェラという鉄壁要塞が居なくなったから、自由に事を成そうとしたのか。
自分の父さんなのに、凄く恥ずかしい。
大人のくせにやり方が狡い……。
だからグレイシーは嫌われるんだ。
「父さんにはどう説明するんだよッ!!」
「私を誰だと思ってるの? アリス・トゥルメリア様よ? 私より権限が上の人が居るのかしら?」
「アリス、今凄い悪い顔してるからね」
「ある程度威厳は示さないと、舐められるもの」
むしろ──悪い顔すぎてゲームとかに出てくる悪役令嬢みたいだけどね。
「とにかくまぁ、それでニーナをここの領地に連れてきたら、たまたま僕が頭を悩ませてたと」
「うん、それもあるけどオースティン家って司法に強いじゃない? 確かここの領地って司法関連に強い人居なかったなって思ってちょうど良かったの」
オースティン家は元々、司法担当の公爵6家のマーセナス家の直属の部下だ。
司法に強いのは当たり前といえば真っ当なことだが、つい最近まで学生だったニーナに務まるのか?
まあでも、そんなこと言ったらつい最近まで学生だった僕たちもそうなので、言える立場ではないが。
「状況は理解した。で──ニーナはここで司法担当として働くことに異存は無い?」
「はい、ウィル様のお力になれるのであれば……」
ニーナは赤面してモジモジし始める。
それを見たノエルは、僕の方をジロっと見て足を踏んできた。
「痛──ッ!! 何するんだよッ!!」
「ウィルってわたしという婚約者が居ながら、色んな女の子にツバ付けてるのね。もしかして、女の子だつたら誰でもいいの?」
え、ちょっとどういうことなのか分からない。
なんでいきなりそういう展開になるんですか?
「何を言ってるの? ノエル。僕はなにもしてないし、ノエルだけしか見てないよ?」
「そう言えばわたしの機嫌が収まるとお思いですか。シェナさんといい、ニーナさんといい、次は実姉のアリスお姉様にまで手を出すんでしょう」
「僕はなにもしてないって。ノエル落ち着いて? 君以外の女性に手を出すつもりは毛頭無いよ。僕にとってこれからもノエルだけだ」
正直言うと、この間ニーナに抱きしめられたのは記憶に新しいけど、あれは僕からじゃないし他意は無いのでノーカウントだ。
「そんなの当たり前よ。他の女の子にうつつ抜かしたら許さないんだからッ」
「そんなつもりはないんだけどな……」
「何か言った!?」
「な、なんでもありません! 気をつけます!」
なんでこうなるかな……。
とりあえずノエルが嫉妬深いってのは分かったけど、どの世界も女心ってのは分からないものだね。
「ウィルったら、早速ノエルちゃんの尻に敷かれてるわね。この国の将来も安泰かしら」
「アリスも変なこと言わないでッ」
「──そういえば、先程実姉のアリス様っておっしゃいましたが、それはどういう……」
あぁ、ニーナは知らないんだっけ。
確かにニーナには伝えてなかった気がする。
そこらへんの込み入った事情はとっくにアリスが話してたと思ったけど。
「実は──僕とアリスは実の姉弟なんだ」
「そう、私が姉でウィルが弟」
「てことは──ウィル様って王族の生まれなのですか? 確か──15年前に男の子が生まれたけど、病気ですぐ亡くなったって……」
その病気で亡くなったとされるのが、実は僕なんだよね。
複雑な話だから説明が少し面倒だけど、僕の生い立ちをニーナに余すことなく説明した。
すると──ニーナの目からはスラッと涙が流れる。
「そ、そんな……なんと労しい……そんな過去がありながら、ウィル様はずっと戦い続けてたんですね……」
「そんな大したことじゃないよ。僕はずっと守られて生きてきたわけだし、今は大人になってある程度自分の力で対抗できるようになったんだ。だから次は僕がみんなを守る番なんだ」
「それで半年も眠ってたら意味がないでしょ。本当に私の弟は無茶するんだから」
「アリスお姉様の言う通りです。例え力があっても無茶して戦って死んでしまったら意味が無いの。もうウィルひとりの身体じゃないんだからね」
自分なりにカッコつけたんだけど裏目に出てしまった……。
結局僕は2人に怒られるのね。
あ、神も僕が神聖魔法を行使しすぎたことに怒ってたっけ。
神が言うんだから2人に怒られるのは当然か。
その件に関しては本当に反省してます……。
「ウィル様、これからウィル様の部下として精一杯お支え致します。でも──どうか、お身体だけは大事にしてください」
「うん、これだけみんなに言われればもう無茶は出来ないよね。気をつけるよ」
「本当に無茶しないで。約束破ったらその時は一日中わたしの買い物に付き合ってもらいますから。それで釣り合いを取りますッ」
「釣り合いって、ノエルが僕とデートしたいだけでしょ」
「ウィルのバカッ!!」
執務室にドッと笑いが起こった。
でも、この時の僕はまだ知らなかった。
醜い継承争いが始まりを告げていたことを──
最後までお読み頂きありがとうございます。
【面白かった】【続きが読みたい】と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
今後のモチベーションにもなりますので、正直な感想のほど、よろしくお願いいたします!
ブックマーク登録とX(旧Twitter)のフォローも併せてよろしくお願いします!




