ノエルとデート②
ノーマンに見送られながら王宮を出た僕たちは、王都セリカの街に向かった。
見送ったノーマンが今まで見たことのない穏やかな表情だったのだが、そこは気にしないことにしよう。
そういえば、僕も久々に王都の街に出る。
ずっと戦っていたし、しまいには半年も眠っていたこともあって時の感覚ってものが鈍っているが、街に着いた瞬間──そこは、以前見たものと同じ人々が活気に溢れた光景だった。
「これが──王都の街並みなんですねッ!!」
ワクワクを隠しきれないノエルさん。
興味津々に周りをキョロキョロしていて、まるで初めて街に来た子供みたいだ。
少しクスっと笑ってしまう。
「やはり──故郷とは違う?」
「えぇ、こんな人だかりは初めてです。前を歩くのもやっとですね」
街の賑わいは国内いちと言っては過言ではない程、盛り上がっている。
これだけの人集りだ。
僕はノエルさんに手を差し出した。
「ノエルさん、その……はぐれないように……」
「えっ……」
「──あッ、いや、その……嫌なら別に……」
自分から差し出しておいて照れるなんてらしくないぞ! ウィル・トゥルメリア!
だったら最初からするなよ!
こんなことするなんてらしくないけど、もしノエルさんとはぐれて何かあったら気悪くなるし、なによりも僕がアンジェラ先生とノーマンに怒られるんだぞ。
ここは男らしく、正々堂々と手を握るべきだ!
「ウィル様、その……」
やっぱ、ダメだよね。
ノエルさんは僕のこと慕ってくれてるのは分かるけど、いきなりこんなことしたら困惑させてしまうのは仕方ないよね。
どうしよう、ノエルさんの顔が見れない。
ごめんね父さん、僕はまだ男にはなれないみたい。
しかし──僕の手には、ピタッと手が重なる感触がした。
ノエルさんの温情、痛み入ります……。
「さ、さて──行きましょう! どこに行きたいですか!?」
「ウィ、ウィル様──ッ!!」
「どうしたんですか?」
「その手、わたしじゃないですッ」
「え? 何を言って──」
ノエルさんのちょっとしたイタズラ心が働いたのだろうと思いながら横を見ると、僕が握っていた手は老婆の手だった。
「ノエルさんッ!?」
「ノエル? あたしゃ、ベルナじゃよ?」
「だ、誰──ッ!?」
咄嗟に老婆の手を離し周りを見渡すと、すぐ後ろでふくれっ面になりながら僕を睨んでいるノエルさんが居た。
「ウィル様のバカッ!!」
さっさと歩いて行ってしまうノエルさん。
僕はその後を追いかけた。
暫く歩いて大きな噴水がある広場のベンチに腰掛けたノエルさん。
だが彼女の機嫌は直らない。
「ノエルさんごめんって。ちゃんと確認しなかった僕が悪かった」
「別にもう怒ってないからいいです」
でも明らかに怒ってるよね。
だってこっち見てくれないもん。
僕が顔を覗こうとすると他の方向に顔向けるし。
ここは男らしく土下座でもするしかないか。
「土下座なんてしなくていいですからね。わたしおこってないですから」
うわ、心読まれてる。
この状況どうしたらいいんですか!
顔は良いから色んな女の子が寄ってくるし、デートだって数多の回数を経験しているだろう、いけ好かないモテ男──もとい、ケインに教わっておけばよかった。
「でも──凄く不機嫌でいらっしゃるので……」
「それは──ッ」
「それは?」
「あのおばあ様に嫉妬してる自分が怒ってるだけです……。だって、ウィル様の差し出した手はわたしが取るはずだったのに、横からスっと取られてしまって……」
そういうことだったのか。
自身の嫉妬を一生懸命に隠すあまり、僕に対して素っ気ない態度を取ってしまったのだ。
ノエルさんは可愛らしくて真っ直ぐな女性だ。
僕はおもむろに彼女の手を取った。
そして、その手を自分の心臓付近に手を充てる。
「ウィル様?」
「僕の心臓が早いスピードで鼓動を刻んでるのが分かりますか? 実は──ずっと緊張してたんです。恥ずかしい話です。僕がノエルさんをエスコートするのに緊張してただなんて」
ノエルさんはクスっと笑った。
「あんなに勇猛でお強いウィル様でも、男の子らしく緊張することがあるんですね。安心しました」
「──安心?」
そして、彼女の両手は僕の手を優しく包み込む。
「最初──ウィル様を見た時、怖い顔をされていました」
あの時──僕はジェイドを救うことに必死だった。
そして、僕はジェイドの身体を乗っ取ったダンタリオンに敗北し、屈辱を味わされた。
その時にノエルさんと出会い、怖い印象を持たせてしまったのだろう。
「そういう状況だったから仕方ありません。でも、わたしはウィル様の戦う姿を見て感激したのです。そしてこうも思いました。ウィル様のお傍に居たいと」
ノエルさんの真っ直ぐで綺麗な目。
淀みない言葉は全て真実だと直感的に理解した。
こんなにも気持ちをストレートに伝えられる彼女は、芯の強いお方だ。
そんな彼女が僕に想いをぶつけてくれたのだ。
僕もしっかり答えを出さないと。
「ウィル様の行く道は、決して楽な道ではありません。修羅の道です。でも──少しでもウィル様のお役に立てるなら、わたしはそれだけで幸せです。わたしは、あなたと幸せになる道を進みたい」
「ありがとうノエルさん。ノエルさんは優しくて、誰かを想いやれる強い人です。そんなあなたが僕の傍に居てくれたら、この上ない幸せです。でも──まだ待ってて欲しい。今抱えている問題が片付いたら、絶対に答えを出すから」
「はい、今すぐとは言いません。わたしはずっと待ってます。それに──」
「それに──?」
いきなり──彼女は僕の唇にキスをした。
急にしてきたものだから反応できなくてそのまま受け入れちゃったけど、これはどういう……
「この間のシェナさんの釣り合いです。わたしもウィル様に求婚を迫ってること、忘れないでくださいよ?」
彼女のイタズラな笑顔が心にチクッと痛みを走らせた。
周りの人たちが僕たち二人を見て、「お熱いこと」「昼間から堂々と若いっていいね」「お母さん、ちゅーしてる」と視線が集中しているが、そんなことしったことではない。
僕の目の前にはノエルさんが居て、ノエルさんの前には僕が居る。
ただそれだけの事なのだ。
「もうひとつ、釣り合いを取らせなきゃいけません」
「まだなにかあるの?」
「はい、これからはわたしのことノエルって呼んでください。シェナさんだけシェナって呼んでるのは、釣り合いが取れません」
「いや、シェナはシェナだし、それ以上でも以下でも──」
「──それでもですッ!! わたしだけさんが付いてるなんて不平等です。釣り合いが取れません」
か、顔が近い……。
でも、ここは仕方ない。
ここで拒んでしまったら、次なにされるかわからないからね。
でも──このまま引き下がる僕じゃない。
僕はそっとノエルの耳に口を近づけ──
「わかったよ。ノエル──」
「──ひゃうッ! ウィ、ウィル様……」
瞬時に顔が真っ赤になるノエル。
僕の仕返しが効いたみたいだ。
「あ、あの……も、もう1回……」
「ノエル……」
「あっ……あふんッ……」
すると──いきなり、僕とノエルさんは引き剥がされた。
その相手を見上げると──
「なりませぬなぁ、ウィル様。度が過ぎてますよ?」
めちゃくちゃキレてるノーマンがそこに居た。
「ノーマンッ!? いつから──」
「最初から見てましたよ。もちろん──ノエルがキスするところもね」
「お父様!?」
「お二人が心配だから様子を見に来たは良いものの。ウィル様、公然の場であなたともあろうお方がわたくしの娘に破廉恥なことをするなぞ──言語道断」
「ご、ごめんノーマン。これはその場のノリで……」
「言い訳無用──」
「だからごめんってッ! ノーマン!!」
「あなたと良い、ダグラスといい、グレイシー家はいつもわたくしの癇癪に障ることをする」
「それ関係あるの!? 父さんは良いけど、僕は関係ないよね!?」
「これだから子どもは……来なさい──」
「ウィル様──ッ!!」
「ノエルッ!! 助けてぇぇぇえ!!!!!!」
その後──僕はノーマンに首根っこを掴まれ、引きづられながら広場を後にした。
そして、かなりの時間組手に付き合わされた挙句、説教をくらった──
最後までお読み頂きありがとうございます。
【面白かった】【続きが読みたい】と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
今後のモチベーションにもなりますので、正直な感想のほど、よろしくお願いいたします!
ブックマーク登録とX(旧Twitter)のフォローも併せてよろしくお願いします!




