卒業式②
僕はゆっくりニーナの元に向かった。
ニーナの前に止まると、彼女はゆっくりと頭を下げた。
「ウィル様、あの時はわたしのことを助けてくださり、ありがとうございました」
「頭を上げて? ニーナ。寧ろ──僕は君に謝らなきゃいけないことがあるんだ」
ニーナは顔を上げる
「ジェイドのことですよね。話は聞いてます──」
そりゃ半年前の出来事だ。
誰かからジェイドのことを聞いたのだろう。
「まさか──彼が悪魔に乗っ取られていたなんて。それでウィル様はジェイドを助ける為にボロボロになるまで戦われたと聞いてます」
「でも──僕は、ジェイドを助けることは出来なかった」
ニーナは優しく僕を抱きしめた。
身体の小さいニーナが僕にすっぽりと収まるような抱擁だが、彼女の背中に手は回せなかった。
「ウィル様は人間です。神様ではありません。ウィル様は正義心が強いから、彼を助けられなかったことに自責していると思いますが、そんなに自分の心を追い詰めないでください。彼は助からなかった──それだけのことなんです」
ニーナがジェイドに対し良い感情を持っていなかったのは事実だし、例え悪魔に乗っ取られていたとしてもニーナはジェイドに対して憎悪を抱いていたのも事実。
それでも──そんな言い方しなくてもいいじゃないか。
誰かを助けたいという気持ちで戦って何が悪い。
僕はジェイドを助けて、ニーナに対し誠意ある謝罪をして欲しかったんだ。
みんな、命をなんだと思ってる。
そもそも──僕は何故こんなにも正義心が強いのだろう。
転生する前は自分のことで精一杯だったし、誰かの為にとか、誰かを助けたいだとか思ったことはなかった。
もしかして──これこそ神が言っていた、統合された元の人格のウィルなのか?
「わたしは、ウィル様が戻ってきてくれたことが1番嬉しいです」
「それでも僕は──彼を助けたかった。ニーナに直接謝罪させたかった。彼は最期に言ったんだ。ニーナにすまなかったと伝えてくれって」
「彼が悪魔に乗っ取られていたと知って、本当の彼が最期に謝罪を口にしたのなら、わたしはそれだけで十分です。わたしは彼を許します。でも──それ以上にウィル様が戻ってきてくれたことに心から嬉しいのです。どうか、もうこれ以上自分を責めないでください」
亡くなった人にこれ以上の責め苦は良くないと、ニーナも分かっているのだろう。
だから彼女は許しを口にした。
なら──僕自身も前を向かなきゃいけないよね。
「ありがとうニーナ。少し心が軽くなったよ」
「そう言って頂けたのなら幸いです」
それと同時に僕は決心した。
もう誰も失わないと。
どんな窮地が襲おうと、どんな理不尽を叩きつけられようと、僕が絶対にみんなを守る。
そして──悪魔たちを僕がこの手で根絶やしにすると。
「──ところでウィル、いつまでニーナを抱きしめてるつもりかしら?」
後ろから冷たい声が耳元をくすぐった。
声の主はアリスだった。
僕は咄嗟にニーナを離す。
「ご、ごめん! 抱きしめたのは別に深い意味はないんだ!」
「深い意味? 話の内容はわからないけど、はたから見たらウィルがいきなりニーナのことを抱きしめたくらいしか分からないけど!」
「逆だって! ニーナが僕を抱きしめたんだ!」
「だとしても、そんなに長時間抱きしめる必要なんてないじゃない! 私のウィルよ? ニーナにはあげないんだから!」
何を言ってるんですかね? このお姉さんは。
いつから僕はあなたのものになったんですか。
アリスの突拍子もない発言に、ニーナは軽く微笑んだ。
「おふたりは仲がよろしいんですね。羨ましいです」
「でしょ! かわいいかわいいウィルは私の大事なウィルなんだから」
もちろん弟として大事に思ってくれていることには変わりはないのだが、僕がトゥルメリアの王子だってことは、ごく僅かな人間しか知らないから、おおっぴろげにそんなことを言われても困るんだけどね。
人間って勘違いしやすいから、もしかしたら──僕がアリスの婿を狙ってるって思われちゃうかもしれないし。
「アリス様、言い方、いじわる」
「良いじゃない、しばらくウィルとの時間がなかったんだから。その点シェナちゃんはウィルとずっと一緒だったんだからいいでしょ?」
「シェナ、ウィル様の傍、ずっと居た。ウィル様に求婚した。結婚してくれる」
「ちょっと!? 誰も結婚するなんて言ってないよ!?」
出ました、シェナの暴走。
本当に誰も結婚するなんて言ってないですからね?
シェナさんの妄想ですからね?
「どういうこと!? ウィルッ!! 私許してないわよ」
「シェナの妄言だよッ!! 僕は許してないッ!!」
どうしてこんなにも呼吸をするように嘘がつけるのだろうか?
あれか? これは僕を籠絡する前に外堀から埋めていく作戦なのか?
最近のシェナは僕に対してかなり言い寄ってくるし、この間もいきなりキスだってしてきた。
彼女が僕に対して抱く行為は本物だろうし嬉しいが、さすがに大胆すぎて周りから変な誤解をされたらいたたまれない。
「ノエルも親公認で求婚。ライバル多い。でも、ウィル様の傍、いられるなら、第2夫人、構わない」
「あのエルフさんも求婚したの!? ──ったく、親揃って結婚を申し出るなんて、抜け目ないわね」
だからなんでこうも話が飛躍してしまうのか。
あの時僕は言いましたよ? この件は一旦保留って。
やっぱり外堀から埋めていく作戦なのか?
「ウィル大変だな。でも──婚姻関係は慎重にな。何かとは言わないが」
「先に身を固めたからってそういうこと言うなよ……」
「あら、その物言いはシノちゃんになんかしらの不満があるってことでいいのかな? ケイン」
「い、いや、別に不満とかあるわけじゃないですよ! 物騒なこと言わないでください! 怒られるのは俺なんですからッ!!」
何か言いたそうな表情はしているのだが、ここはあえてスルーしておこう。
なにせ、毎日いがみ合ってた二人が結婚して親になるんだから。
でも──こうやってみんなと楽しく談笑するのは久しぶりだ。
考えてみれば、ベリアルとの戦い以来──僕はずっと戦っていた。
こういう日があってもいいなって思ったけど、こういう日がいつか毎日来るといいな。
退屈はしたくないけどね。
卒業式が終わり、僕は学院を背に振り返る。
たった4ヶ月しか通ってない学院だったけど、何年も通ってたって錯覚するくらい、濃い毎日だった。
明日からは領主として領地運営をしていかなければならない。
学院生活が少し恋しいと思うが、新領主としてしっかり心を入れ替えないと。
話していてわかったことだが、ケインも卒業するらしい。
明日からは、シノを含め僕の領地に越して来るらしい。
シェナも引き続き僕の護衛として付いてくるようだ。
ニーナは進級し、卒業後は事務方として働きたいと言っていたが、既に父さんから軍のオファーがあったらしく、迷っているらしい。
雷属性の加護をもっている彼女の実力を考えれば、父さんが放っておけないのは理解できる。
でも──父さんの所にいくなら、僕が事務方として雇ってもいいけどね。
そのことはニーナには伝えたし、ニーナもその方がやりやすいと思う。多分。
とにもかくにも、楽しかった学院生活だった。
またここに戻ってくることはないけど。
「ウィルッ! 早く行こ!」
「ウィル様、黄昏てる」
「早く来ないと、今日はウィルの奢りになるぞ」
「新領主になるのにウィル様の奢りになるのは、さすがに可哀想ですよ」
「うん、今行く!」
僕は学院に一礼すると、みんなに追いつくため、駆け足で向かった──
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