誰かの為に、強いては自分の為に④
第二部最終話です!
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そして、時は戻る──
報告し終えたアンジェラ先生の目からは大量の涙が流れていた。
自分も死ぬ気であった最後の戦いに、自分だけ生かされたのだ。
愛している者たちを亡くし、そして──祖国まで失ってしまった。
これが半年前の話であっても、アンジェラ先生の心には深い傷が抉るように残ってるに違いない。
でも──僕だって同じだ。
僕にも、もっと力があれば。もっと魔力があれば。
エルフ王国のみんなを、そして──ジェイドを守れたかもしれない。
「エルフ王国を陥落させた悪魔と魔族は、エルフ王国を占領し、既に魔素溜りが出来ているため、奪還する場合は時間を要します」
「それで、エルフ王国民はどれくらい生き延びたのですか?」
「ウィル様の領地に難民として入ってきたエルフたちの話によりますと、首都が陥落して皆散り散りに逃げたと仰ってます。ここに身を寄せたのは100人程度だったかと。殆どが子供と女性たちです。男たちはこの戦いでたくさん死んで行ったので」
散り散りになったとしても、エルフが絶滅してなくて良かった。
いつか──彼らの領地を奪い返したいが、今のままではそれは不可能だ。
どうにか力を蓄えないと。
しかも僕が眠っている間に半年は時間が経過している。
確か──トゥルメリア王国暦1000年に、偉大なる御方が復活すると言われていた。
既に復活する年の3ヶ月は終わっているわけで、あまり悠長に構えている場合じゃないのだ。
「それとウィル様──」
「どうしたの? ノーマン」
「現在、国王が療養の為国家運営は姉君のアリス王女殿下とその後見公爵家であるスミス家が舵取りを行っております」
アリスが国家運営?
本当に大丈夫?
確か学院のテストの成績は常に上位は取ってたけど、それにしてもアリスが舵取りしてるなんて想像が付かないや。
ノーマンの話は続く。
「そして今回、ウィル様が領地運営をされますが、表向きは公爵家跡取りのお立場ですので、爵位が必要になります」
この国では、領地を治める為には爵位が居るのだ。
伯爵から領地を授かることになるのだが、となると僕に爵位が与えられるってことになるよね。
ちなみに日本で例えると、伯爵が村長で、侯爵が市長。公爵が知事みたいなもん。
そう考えると、村長クラスの伯爵が妥当だけど──僕には公爵家跡取りという肩書きがあるので、この際貰える爵位は──
「この度ウィル様には、名誉公爵が授けられます」
名誉公爵とは──
公爵家の跡取りが貰う爵位で、正式に跡取りに任命され、領地運営を学ぶ準備期間みたいなものだ。
領地運営の知識殆ど無いけど、いきなり名誉公爵にして領地を守れって、かなり鬼畜だよね。
新人アルバイトが働き始めて三日で店長になるくらい鬼畜だよ。
でも、領地運営とかやったことないから逆にワクワクするかも。
「みっちり領地運営を学んだ頃に、王家の後継者として大々的に発表する予定です。それまではくれぐれもトゥルメリア王家の人間だと悟られぬようお願い申し上げます」
「来る時までそれは隠し通すつもりだよ。ノーマンもありがとう」
「いえいえ。それと──これはわたくしの勝手なお願いなのですが……」
ノーマンが先程よりも緊張した面持ちになった。
もしかして、またアンジェラ先生と一緒になりたいってことなのかな?
それだったら大賛成だよ。だって2人は愛し合ってたんだし、娘のノエルさんだって居る。
長年夢だった3人で暮らすってことができるんだから、そんな緊張した面持ちで言うことないよ。
「娘のノエルを嫁に貰っては頂けないでしょうか」
「嫁ねぇ、確かにそろそろ婚約の……って、嫁ッ!?!?」
「お父様ッ!?!?」
「あなた、何言ってるのよッ!!」
「シェナに恋敵が生まれる」
「おいッ!! ノーンッ!! オマっ……自分が言ってることが分かってんのか!?!?」
「耳元でうるさいぞダグラス。分かっているとも。大事な娘を信頼しているウィル様に嫁がせて欲しいと嘆願しているんだ」
いや、そうじゃなくて、そんな涼しい顔で弁明しないでくださいよ。
純血思想が強いこの国で、ハーフエルフと人間の僕が結婚しても、今後次期国王としてやっていくのに、ハーフエルフと結婚したという事実が、返って国民の求心力と支持率は得られないし、ましてや──打倒派に勢いをつかせることになるんじゃないんですか?
「お父様、わたしはハーフエルフです。次期国王のウィル様との結婚はこの国の民が持つ思想に真っ向から背く事になります」
「ノエルのいう通りだわ。これからウィル様がこの国を背負って立つというのに、ノエルの存在は政治を行うにしてはかなりのリスクだわ」
「そんなことは、わたくしもよくわかっている。だが、自分の娘はハーフエルフということだけで迫害されてきた。ノエルは何も悪くない。ただ彼女には幸せに生きてほしいと願うことさえも罪なのか? そんなの間違っておるだろう」
確かにハーフエルフと生まれただけで、ノエルさんが迫害されるのは、やっぱり──僕もしても納得できない部分はある。
彼女にだって幸せになる権利はある。
誰かと一緒になって、子宝に恵まれて、平和な一生を過ごすって当たり前な幸せを望んでもいいのだ。
でも──何百年も続いている思想は、簡単には覆らない。
人はそれほど考えというものを変えない生き物だからだ。
「ノーマンの言いたいこと分かるよ」
「では──」
「それでも──ノエルさんとの婚約はリスクがある。今この場で答えを出すことはできない」
だが──こんな純血だのなんだのと、くだらない思想で誰かが傷ついてしまうのは心が痛くなる。
それでも、自分が抱く思想よりも今は国民のことを第一優先に考えるべきではないのだろうか。
おそらく僕が眠っている間にエルフ王国が陥落したことは、トゥルメリアの国民にはとうに知れ渡っているだろう。
それに緊急事態宣言は未だに発動したままだろうし、国民生活の緊張は今までにない高まりを見せているかもしれない。
だからこそ、他種族であるノエルさんとの結婚は慎重になるべきだ。
「ごめんね、ノーマン。ありがたい申し出だけど、今はそれどころでは無いってのが正直な感想かな」
「左様でございますか……」
どこか残念そうにしているノーマン。
確かに──ノエルさんはかわいいし、エルフ王国で軟禁状態だったとしても、礼儀作法は申し分ない。
家族想いで誰に対しても愛情を持って接してくれる方だ。
ノーマンの勝手な申し出だと理解しているが、こういうのはノエルさん自身の意思もしっかり把握していたい。
「ノエルさん」
「は、はい──ッ」
「ノエルさん自身はどう思ってるかな……?」
「わ、わたしは……」
ノエルさんは言うのが憚られてしまったのか、俯いてしまった。
やっぱり──ノエルさんも良くは思ってないってことだよな。
さっきも、僕の立場を案じて反対の意見を言ってた訳だし。
「言いづらいなら無理に言わなくても──」
「──わたしは、ウィル様がエルフ王国の為に自身の身を犠牲にしてまで、悪魔に立ち向かったこと、凄く感銘を受けました。それと同時に、ウィル様ならこの世界の在り方を変えてくれる方だとも思いました」
「そんな大それたことは出来ないけどね」
「それでも、わたしはこの世界の在り方を憎んでます。愛こそあれば、種族関係なく分かり合えるのに、血にこだわって他種族を排斥するのは、わたしみたいな境遇の人たちに生きるなと言われているようなものです。それをウィル様はきっと変えてくれる、その可能性をわたしはウィル様に見出しました」
「ノエル……」
「わたしは、お母様とお父様のことは憎んでおりません。寧ろ──わたしを産んでくれてありがとうと思っています。だからこそ変えなければなりません」
「でも良いのかよ。ウィルと一緒になると言うことは、茨の道──いや、修羅の道だぞ?」
父さんの言う通りだ。
僕と結婚したら、周りから何を言われるか分からないし、必ず反発するものだって生まれる。
しかも──グレイシー家の跡取りが、実は王家の子でしたってことをいつかは世間に公にしなければならないし、この国は必ず不安定になる。
それこそ──僕の歩む道は、修羅の道だ。
「今は一緒になることは許されませんが、わたし個人の感情から言えば、わたしは──英雄であるウィル様の側に居たいと思っております」
ノエルさんの気持ちは嬉しかった。
実直で素直な言葉と眼差しに嘘はなかった。
でも──英雄だなんて……。
僕は英雄なんかじゃない。
誰も守れないし、エルフ王国だって結局守れなかった。
彼女は僕を過大評価しすぎだ。
あと──あの神も。
「ノエルがそこまで言うなら仕方ないわ。ウィル様、私もノエルとの婚約、宜しくお願い申しあげます」
「お母様……」
「うん、でも──今はそれどころじゃないってことはみんな理解して欲しい。この件は一旦保留にする。世界情勢が落ち着くまでは、答えを待って欲しい」
「かしこまりました。ありがとうございます。ウィル様──いえ、ウィル王子」
その後の話は、細々とした領地運営の話が殆どで、終わる頃にはすっかり日も暮れていた。
どうやら──僕が眠っていた間に領地の開拓は殆ど終わっており、最初は険悪だったエルフと人間は、今や互いに酒を酌み交わすくらいには仲良くなっているらしい。
明日は街に出て視察でもしようかな。
「それにしても、僕が国王の後継者か……」
シェナに僕の執務室に案内され椅子にすわって暫く経った時に、ふとボヤいてしまった。
当然それをシェナは聞き逃す事もなく──
「国王になるんですから、現実味がないのは当然です。ですが──」
シェナはいきなり僕に馬乗りになる。
ちょっとシェナさんッ!?
また顔が妖艶な表情になってますよ!?
「国王なんですから、夫人は何人いても構いません。あのエルフの娘が嫁になるならば、シェナだって夫人候補に躍り出ますよ?」
「なに言ってんの!? まだ決まった訳じゃないんだから、変なこと言ってからかわないでよッ」
「からかう? そんな──シェナは本気でウィル様を愛してますよ。エルフの次ってのは癪に触りますが」
僕が眠っている間になんでこんなに積極的になってしまったんですかね?
もはや、この半年の間に僕になにかしたか心配になってくる。
あと、息を首筋に当てないでッ!
ゾワゾワするからッ!!
「なんならもう、ここで既成事実──作りますか?」
「そ、それは──ッ!!」
するといきなり──バタンと何か落とす音が聞こえた。
その方向に目を向けると、そこには──ノエルさんが口を押さえて立っていた。
「ノエルさんッ!! これはちが──ッ」
「ノエル、シェナとウィル様は深い所で繋がってるの。あなたにそれが出来る?」
「シェナッ!! お前、何言ってるんだッ!!」
事実無根です!
僕は、ただの護衛対象です!
勘違いする体勢ではありますが、至って健全な仲であり、それ以上もそれ以下でもありません!
それとシェナさん!
早くここから降りてくださいッ!!
「どうせシェナさんの事だから一方的に言い迫ったんですよね。わたしが婚約者になるかもしれないっていう嫉妬で……」
「嫉妬なんかしてないわよ。貴族や王族は望めば何人も妻を娶っていいのよ? シェナもウィル様を愛してるし、第二夫人でもいいから、求婚してるだけよ」
いや、ゴリゴリに嫉妬してたからね?
癪に触るとか言ってたからね?
「それは構わないです。ですがッ──それじゃ釣り合いが取れないので、わたしもウィル様の上に……」
釣り合いとか何とか言うなら、途中でモジモジしないでくださいッ!!
「なら、一緒に既成事実、作る?」
「ちょっと!? 変なこと言わないで!?」
「シェナさんと共にってのが心残りですが、ここは仕方ありません。それで釣り合いを取ろうと思います」
「だからなんでそうなるのッ!!」
その日──僕はシェナとノエルさんから一晩中逃げ回った。
逃げた先にアンジェラ先生が居たので、二人はこっぴどく叱られていたが、この先どうなるのやら。
あれ? 退屈しない人生ってこういうことなのかな?
なんか違う気もするけど、まあいいか──
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ジェイド・マーセナス、安らかに眠ってくれ




