幕間のひと間 その11
王座の間の玉座には、未だに偉大なる御方の姿は無い。
偉大なる御方と共に天界を追われてから、どれ程の時が流れたのだろう。
父上に逆らい、自ら神になることを目指した偉大なる御方は、ミカエルに敗北し精神体が消滅しかけた。
辛うじて消滅しかけた精神体を死守し、逃げた先は地獄だったが、それももう1000年以上前の話。
我は偉大なる御方の復活を長い時をかけ待ち望んだ。
地球からこの世界にやってきて、復活を今か今かと待ちわびた甲斐があってか、15年前にようやく──偉大なる御方の器が現れると予言があった。
ウィル・グレイシー。
いや、今ではウィル・トゥルメリアと言うべきか。
最初はベリアルに偉大なる御方の器の回収を命じた。
だが──ベリアルは再三の回収に失敗。
遂には、ウィル・トゥルメリアの手によって精神体が消滅し、この世界から永遠に消え去った。
同じ天界からやって来た悪魔だというのに、こうも無能な奴だとは思わなかったがな。
ウィル・トゥルメリアの血液を採取し器の量産をすることに成功はしたが、器本人が生きていては、偉大なる御方が復活したとしても、その力は充分に発揮することはできない。
しかし、ウィル・トゥルメリアに固執しても仕方ない。
次に我はアスモデウスにエルフ王国の計略もしくは殲滅を命じた。
アスモデウスは前々から仕込んでいたダンタリオンを撹乱に使い、その間にエルフ王国の九割の国土の占領を完了。
エルフ王国の将軍エルドレッドを捕獲し、オロバスを顕現させることに成功した。
ここまでは良かった。
だが──ここからは誤算だった。
どこから聞きつけたのか、ウィル・トゥルメリアがエルフ王国の援軍に来てしまったのだ。
アスモデウスの考えでは九割の占領をし消耗戦に持ち込んだ後、一気に殲滅する算段だったはずだが、結果的にダンタリオンとオロバスを失う結果になり、アスモデウスはたかがエルフと獣人に敗走。
一度は失敗するかと思われたが、こちら側で手を打っておいてよかった。
二年前からエルフ王国の国王を殺す為にクラウリーを潜入させていたのだ。
クラウリーは我の直属の部下、腹心と言っても良い。
そのクラウリーは無能で有名な第一王子のアンデルを抱き込み、国王を水銀で破滅に導いた。
この世界の生物は水銀が自身の身体を蝕む毒だって知らないからな。
国王が死ぬタイミングも完璧で、エルフ王国内が何もかも瓦解してる間に、クラウリーが魔族を引き連れて後詰めを行い、エルフ王国を滅亡させた。
アスモデウスは同じ一派であるが、信用ならない相手だ。
どこか気まぐれの所があるし、面白くないと思ったら途中で投げ出すような悪魔。
今回も自分が一方的に相手を支配できないから、面白くなくなって退散したのだろう。
だが──我々に敗北は許されない。
偉大なる御方の直属の部下として、必ずや全ての任務を忠実にかつ完璧に遂行する必要があるのだ。
アスモデウスには何かしらのペナルティを与えなければな。
「かくしてクラウリー、今回の働き誠に見事だった」
「お褒めに預かり光栄です、バアル様」
我の前に膝まづいているのは、序列4位の地獄の王、契約の悪魔クラウリー。
元々の序列は5位だったがベリアル亡き今、序列が一つ昇格した。
「お前には褒美をやらんとな。お前に占領した旧エルフ王国の統治を任せる」
「褒美など頂けません。わたしはバアル様の指示に従い、アスモデウス様の尻拭いをしたまでです」
「それでも褒美は受け取っておけ。以上だ」
「では、ありがたく頂戴します」
クラウリーが一礼して去ろうとすると──いつから居たのか、アスモデウスが不満そうな顔で腕組みしながら我とクラウリーを睨んでいた。
「あたしよりも序列が低い悪魔風情が、尻拭いをしたまで? あなた、あたしのこと舐めてるの?」
「これは、アスモデウス様。この場にいらしてたのですね」
「質問に答えなさいよ。あたしのこと舐めてるでしょ」
「さて──まあ、たかがエルフと獣人に敗走するアスモデウス様が滑稽でならないとは思いましたがね」
アスモデウスはクラウリーに詰め寄り胸ぐらを掴む。
「あなた、あたしが神聖魔法を使えるって覚えてないのかしら?」
「もちろん──覚えてますとも。天界から来たあなたと、純粋に悪魔のわたしとでは、力の差は歴然ですからね」
だが──アスモデウスはあの戦いで神聖魔法は使わなかった。
我々も長年地獄にいるせいか、神聖魔法の力が弱まってきていることは分かっている。
それでも我々が地獄を支配できているのは、神聖魔法という悪魔の弱点を保持しているからであって、この力が残っている間に偉大なる御方を復活させたいという側面も持ち合わせている。
「なら──あまり大きな口を開かないことね。あなたのこと簡単に消せるのよ」
「肝に銘じておきます」
神聖魔法を使われたらクラウリーはひとたまりもないのだが、脅されている割には一切表情を変えず、淡々と返答しているクラウリーに少し笑えてきた。
クラウリーは、任務に失敗したアスモデウスを舐めいているし、心の中では嘲笑しているのだろう。
やはり──悪魔とは性格がひん曲がってる奴が多いな。
「話は終わったかな? アスモデウス──」
「バアル様、大体話は聞いたと思うけど、あたし負けたと思ってないわよ」
アスモデウスは我の元に寄ってくる。
身体を密着させては、やけに胸を当ててくる。
自分の失敗を色欲で濁そうってわけか。
だが──そんな色仕掛けは我には効かない。
「しかし、お前は負けた。そしてダンタリオンとオロバスを失い、我々悪魔に損失をもたらした」
「だって──ッ!! まさか、ただのハーフエルフがあのクソジジィから加護を受けてるとは思わなかったんだもん。ウィルと対峙してる気分だったわ」
ハーフエルフに神聖魔法だと?
ハーフエルフは半分エルフの血が流れていても、魔力は人間に近く、神聖魔法なんて使えるわけがない。
だが──気まぐれの父上が、そのハーフエルフに加護を与えるなんて何を考えてるんだ。
これは調査が必要だな。
「だがお前は失敗した。ペナルティは受けてもらう」
「嫌よ。あたし悪くないわ。しかもそこのクラウリーが後始末してくれたんじゃない。なら──結果的に成功なんだからいいじゃない」
「それでもだッ!! お前には暫く業火に焼かれてもらう」
「嫌よそんなの」
アスモデウスは立ち去ろうとする。
そんなのは許されない。
ペナルティを与えなければ、下の序列の奴に示しが付かなくなる。
「伏せろ────ッ」
「だから却下──」
アスモデウスを拘束しようとしたが、アスモデウスはいとも簡単にそれを解除した。
「あたしが神聖魔法を使えることを忘れたのかしら、バアル様──いや、バアル兄様?」
やはり──まだ神聖魔法は使えたか。
先の戦いで神聖魔法を使ってないから、もしかしたらと思ったが、まだ力は衰えて無いらしい。
「アスモデウス、我の命令を無視するなら、例え兄弟でもお前を消滅させなければならん」
「そういうのパス。まだ死にたくないし。だからあたしはこの一派から抜けるわ。元々偉大なる御方に近い一派だったから入ったまでだし、あなたの理不尽な命令を聞く義理はないもの」
「そんな勝手なことが許されるわけないだろ。止まれ、アスモデウス」
我は再度アスモデウスを拘束しようとするが、アスモデウスはまたオールパージで防いだ。
「それじゃ、後は頑張ってねぇ」
そういうとアスモデウスは去って行った。
最後まで我に舐めた態度を取った奴だった。
この屈辱は消滅をもって返させてもらう。
「クラウリー、アスモデウスを探し出して消滅させろ。どんな手を使っても構わん」
「かしこまりました」
クラウリーは再度一礼をし、玉座の間から去った。
ひとり取り残された我は深く嘆息をついた。
「全く──悪魔は一枚岩ではないのが癪だ。我の苦労が絶えんな」
偉大なる御方の復活までもう少し。
我は玉座を見て、偉大なる御方の復活が待ち遠しい気持ちに駆られた──
第二部
~完~
最後までお読み頂きありがとうございます。
第二部これにて終了です。
第三部はゆったりさせる予定です!
戦いの連続で、回収しなきゃならない話が多すぎ問題!
第三部もよろしくお願いします〜
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