トゥルメリア魔法学院③
「さて、今日からお前らの担任を務める、美人でナイスバディで知的な、アンジェラ・カリオペだ!得意な属性は全部、多少なら神聖魔法も扱えるぞ!」
教室に戻った僕たちは、今日からお世話になるアンジェラ先生が教壇に立って挨拶をしていた。
金髪で色白で緑色の瞳。身長は僕と同じくらいだろうか、出ているところは出ていて、引っ込んでいる所は引っ込んでいる。
そして、なんと言っても尖った耳が特徴的なのは、彼女がエルフだからだ。
この世界にもエルフや他の種族が存在しているのは知っていたが、まさか共生してたなんて驚きだ。
他にもドワーフ、竜人族、獣人族、そして魔族と細分化すればもっと多く種族が存在する
中でも人間以外の種族は寿命が長命で、エルフ族に関しては1000年以上生きるんだとか。
でも普通、各種族は種族同士でのコミュニティを形成していて、他種族に対し排外的になってしまうのだが、アンジェラ先生はなんで教鞭を執っているのだろう。
しかも、国が運営する魔法学院に。
──すると、シノがすっと手を挙げた。
「先生!質問いいっスか?」
「あら、シノちゃん。どうぞ。それと、私のことはお姉ちゃんって呼んでいいわよ」
「へへっ……それはいいっス……」
あからさまな引きつった顔で拒否するシノ。
一つ咳払いをして口を開いた。
「アンジェ先生はエルフっすよね?なんで人間の住む国で、しかも、国立の魔法学院で先生やってるんすか?」
おお!僕が聞きたいことを!
シノは気になったら質問せずにはいられない性分だからな。
こういうセンシティブな所を躊躇なく聞けるのは、彼女の長所でもある。
僕も見習わないと。
「まあ、その質問が来るのは妥当よね。そう、私はエルフよ。それも500年は生きてるわ」
500年!?!?
凄く長生きしてますね……。
この世界の人間の寿命が大体60歳だから……まだにじゅう……
「こらそこ!人間換算で年齢を算出しない!!」
僕の目の前にいきなりアイスランスが飛んでくる。
咄嗟にバリアを張って対処したが、アンジェラ先生は軽く舌打ちをした。
「その歳で無詠唱で雷魔法を使うなんて、あなたやるわね。噂の天才、ウィル・グレイシーくんかしら?」
「いやぁ、天才だなんて、僕はただ努力しかしてませんよ〜」
「ヘラヘラするのはあなたのキャラじゃないでしょ?ウィル、あなた、この教室で闇魔法を使ったわね?」
なんでそれを──?
あの後、闇魔法の痕跡は辿れないレベルで消したはず──
さすが、500年も生きてる……お姉さんだ。
「500年も生きてる……なに?ウィル」
心が読まれてるだと?
まさか──この人のユニークスキルって、読心術なのか?
「ご名答ウィル。これがユニークスキルってことまで当てるなんて、本物の天才ね」
「勝手に人の心を読まないでください!プライバシーもあったもんじゃない!」
全くだ。
こんなチートレベルのユニークスキルで心を読まれてみろ?授業が退屈だってバレたら、この人何してくるか分からないぞ。
とりあえず隠匿の魔法を自分に掛けておくか。
隠匿の魔法は神聖魔法だから先生にはバレるけど、表情から察するにこの人は俺が何をしても全部お見通しってことを理解してるから、神聖魔法を隠しても意味が無いだろう。
隠匿の魔法を掛けた瞬間、先生はガックリしたのか、まあいいわと言い、話を戻す。
「私がここで教鞭を取り始めたのは300年前。その頃はもっと、各種族が他種族に対して排外的だったわ。でも、私は人間とエルフの平和的文化交流の為に送り出された使節団みたいなものよ」
歴史の文献で読んだことがある。
領土が隣接する人間とエルフは、その当時は争いが絶えなかったらしいのだが、その時に魔族が侵攻してきて共闘する為に和平を結んだらしい。
魔族の侵攻は一時的だったものの、魔族の力は強大だったらしく、魔族に対抗する為、人間とエルフの同盟関係が成立したとかなんとか。
でもそこに使節団の記載は無かったのを覚えている。
「もちろん、未だにエルフの中では人間と交流するのを中止すべきって言うおじいちゃんおばあちゃんもいるけど、それよりも魔族の力は強大で、とてもじゃないけど片方の種族だけで太刀打ちできるような相手ではないわ」
そうだ──
魔族の力は例えると、魔族1人に対し練兵された人間10人で戦えるか否かの戦力差だ。
これが魔族1万の軍勢で攻めて来てみろ?
人間だけでは本当に太刀打ち──って!!!
「先生!!また人の心を読んで話をしないでください!!なんで僕なんですか!!」
おかしい──
隠匿の魔法を使ったのに、この人は簡単に解除して僕の心を読んできた。
隠匿の魔法は簡単に解ける魔法ではないし、前述の通り、神聖魔法の類だ。
少し神聖魔法が使えるアンジェラ先生だからと言って、こうもいとも容易く解除されると、為す術がない。
「だってぇ〜、心の扉を閉じてしまった生徒の心を開くのはぁ〜、先生のし・ご・とっ!」
こいつ、ぶっ飛ばしていいか
今なら許されるだろうな
「歴史の授業はさておき、あなたたちはトゥルメリア魔法学院のエリートクラスに入れたわけだけど、もちろん、前期の成績が悪ければ、即刻下のクラスに落ちることになるわ」
先程のふざけたやり取りとは売って代わり、アンジェラ先生の目は真剣だ。
その目は、エリートクラスになったからと言って、驕るな、勉学に励み努力を続けろ。そう言われてるみたいだった。
ここに居れば、貴族だろうが実力がある一般学生だろうが、ここでは平等だ。
地位も権力もここでは無意味。
「てことで、明日から授業が始まるわけだけれども、その前に、このクラスで起きた蟠りを清算しておきたいわ」
そういうと、アンジェラ先生はケインに指を指した。
あぁ、入学式前のアレね。
ちゃっかりしてるわね先生。どこで聞いてたのかしら。
家政婦の方も驚きよ。
「なんですかアンジェラ先生。ボクに蟠りなど──」
「あなたとウィル、決闘するんでしょ?」
「なぜそれを──!!」
「だって私ぃ〜、先生だもぉ〜ん。それとこの国を担う未来ある若者たちが己のプライドを賭けて闘うなんて、ロマンがあるじゃない?」
一方的に決闘を申し込まれたので、賭けるプライドはないのだが、これもこれでアンジェラ先生の粋な計らいなのだろう。
要は──事を早めに済ませて、次のステップに行けよ若者たち!時間が惜しい!ってことなのだろう。
「さすが──ウィルは理解が早いわね。さてと、では皆さん、これから演習場に向かいまぁ〜す!」
人の心の声を読むのは本当にやめて欲しい。
やっぱもう一度、隠匿の魔法を掛けておこう。
アンジェラ先生の手のひらが光り輝く。
これは神聖魔法──
「親愛なる光の神よ、我が言の葉の願いを聞き光の加護を。テレポーテーション」
すると──教室中が光に包まれた。
光が収まると、僕たちは先生のいう演習場に到着した。
神聖魔法のテレポーテーションを目の当たりにした他の生徒は目が点になっており、何が起こったのか理解出来ていない様子だった。
まぁ、僕は慣れてるしいつも使ってるから驚かないんだけど。
「今のは神聖魔法、テレポーテーションよ。対象を目的の場所に瞬時に送り届ける魔法で、普通の人じゃまず扱えない魔法ね」
「それでアンジェラ先生、ボクとこの6家風情はどういったルールで戦うんですか?」
「シンプルよ。魔法は禁止」
「お言葉ですが──ここは、魔法学院です!魔法を禁止されたら決闘の意味がない!」
「ルールを尋ねた時点で、意味があるかどうかはあなたが決める事じゃないわ」
「それは──」
「──あなた、ウィルの魔法は規格外よ。そりゃあ、あんな魔法に当てられたら、私ですら木っ端微塵よ?」
それもそうだ。
入試で他の人の魔法レベルを見た限り、僕にとっては赤子が頑張って魔法を捻り出したレベルに過ぎないと感じてしまった。
ケインは貴族で優秀だからある程度は高い魔法レベルだろうけど、アンジェラ先生がそこまで言うなら、魔法を使うのはケインの為ではない。
「では、こうしよう。純粋に剣で戦うのはどうだろうか。これなら自身の力のみで勝負ができると言えよう」
「それなら問題ない。剣戟には自信がある。こんな6家風情、一瞬で片付けよう」
おぉ、自信に満ち溢れた表情!
若いって無敵だよね。わかるよ、僕も転生前はすんごく強かったんだから!
え?なにがって?
実は転生前の僕は、剣道を嗜んでいて、中学の頃に全国大会に出場してるんだよね。
だから──そこらへんの素人には、おじちゃん負けないよ!
誰がおじちゃんだ。
「僕もそれでいいですよ。魔法に頼らないってのも、案外大事ですからね」
「そうよ。人には魔力の限界がある。魔力が枯渇したとき、人が最後に取る手段が剣による白兵戦。普通──魔力が枯渇したら動けないものなんだけど、不思議と人間は動けるのよね」
それは初耳だ。
「では──剣による決闘といこう。ストレージ」
ケインはアイテムボックスから剣を取り出した。
おぉ、アイテムボックスを無詠唱でできるなんて、君は優秀だねぇ!
「こんなもの造作でもない。それに貴様、剣は持っているんだろうな」
「あー、ちょっと待ってて。今作るから」
「作る?なにを言っているんだ」
僕は目を瞑ると、剣をイメージした。
この生成スキルはイメージした物を具現するスキルで、僕のユニークスキルでもある。
複雑な構造の物は作れないが、拳銃、グロック程度なら作れる。
生成が終わると、僕の両手には漆黒の日本刀が生成されていた。
通常の日本刀でないのはちょっと憧れがあったからであって、詮索しないで頂きたい。
人のにはそういう時期もあるってことだ。
「すげぇ──」
「何あの剣、初めて見た!」
「ウィル様、凄い……」
「ウィル!!素晴らしいぞ!こんな東の最果ての国で作られてる剣を生成するなんて!私も現物を見るのは久方ぶりだ!」
この世界には、日本に似た東の最果ての国、サクラ王国という国があるらしい。
元居た世界で例えると江戸時代初期辺りの街並みらしい。
いつかは行ってみたいのだが、そのサクラ王国で作られる刀と酷似しているらしい。
「なぁ、ウィルぅ〜、私も同じやつ欲しいんだが、ちと作ってくれない〜?」
甘えた口調で上目遣いのアンジェラ先生。
なんだか昔飼っていた犬にそっくりだった。
お腹が空くと抱きついてきて、くぅ〜んって鳴くんだっけ。懐かしいな。
「わかりましたよ。後で作りますので下がってください」
「約束だぞ!ウィル!」
そういうと、不服ながらも下がって行く先生。
「そんなか細い刀身で何ができるというのだね。これだから6家風情は身の程を弁えないのだ」
「まあまあ、やって見なきゃわからないよ」
互いに剣と刀を構える僕とケイン。
演習場には独特の雰囲気が流れる。
「それでは──ウィル・グレイシー、ケイン・スミスの決闘を始める。この勝負は魔法は禁止、相手に致命傷を与えるのも禁止。どちらかが行動不能、または降参するまで継続をするものとする!」
「後悔するなよ、ウィル・グレイシー」
「お手柔らかにね、ケイン・スミスくん」
「両者──始めっ!!」
アンジェラ先生の号令に僕とケインは一斉に飛び出した──




