トゥルメリア魔法学院②
トゥルメリア魔法学院
トゥルメリア王国が運営する、最高峰の魔法学院。
トゥルメリア全土から集まったエリート中のエリートの若い男女が、己の魔法を磨き研鑽を積み、未来へ羽ばたいていく、栄えある教育機関である。
卒業後は捜査官、日本で言う警察。政治に携わる官僚、元老院議員など国家の中枢を担う職に就くのが殆どだ。
僕みたいな貴族の出は卒業後は親の仕事を世襲していくのが決まってるけど、たまに世襲せず己の道をすすんでしまう人も居るみたい。
転生する前日本にいた頃は、親の仕事を継いで生業にしていくなんてごく限られた人たちだったし、自分の道を進むってのは当たり前のことだった。
僕も転生前は一般企業に勤める社会人だったし、両親は共に小学校の教師だったから、それこそあなたも公務員って言われてたな。
でもこの世界は決められたレールの上をしっかり歩いて人生を全うするってのが当たり前な考えだ。
階級や身分が存在する封建社会だし個人の自由など二の次だ。
そんな窮屈な世界に転生し、ウィル・グレイシーとして生きていくんだから、おそらくこの人生は退屈はしないのだろう。
「ウィル様? どうなされました?」
「えっ!? あ、いや!なんでもない!」
アリスが不思議そうに僕の顔を覗き込んでくる。
宝石のように綺麗な瞳に純粋無垢な表情。
──かわいい!!!!
「あ、ウィル、もしかしてアリスに見惚れてたでしょ??」
「み、見惚れてないよ!」
「どうかなぁ〜。付随してかわいいってのは激しく同意してあげる。でもあんたってほんと分かりやすいよね」
俺の心を見透かしたかのように聞いてくるシノ。
ニヤニヤとした表情で聞いてくる辺り、僕って意外と顔に出やすいのか??
「シノちゃんが何の話をしてるのかわかんないけど、3人一緒にAクラスになれるのは嬉しいですね。2人ともよろしくお願いします」
「まあ、アタシがAクラスに入れるって自信なかったから正直驚いてるけど、とりあえずよろしく」
「そうだね、これから卒業までよろしくな」
「はい!ウィル様!」
その純粋無垢の笑顔、癒されるなぁ⋯⋯。
エリートが集う場所だから、もっと殺伐としたメガネクイクイくんがたくさんいるとこだと思ってたけど、厳格だけが独り歩きして、実際はもっとラフなそんな学院なのかもしれないな。
「時にウィル。ずっと聞きたかったんだけど、あんた詠唱破棄して魔法を発動させてるけど、一体どういう原理なの?」
「あ、それ!私も気になりました!ウィル様どう発動なされてるのですか?」
「あぁ、詠唱破棄は特別そんな難しいものでもないんだ。自分の思い描いた魔法をイメージして、そのイメージを手のひらに顕現させる。そんな感じかな」
2人の顔が何言ってんだこいつ?となっているのは、全くイメージがつかなく、理解できていないことなのだろう。
まぁ、少し説明が抽象的なのは申し訳ないが、無詠唱で魔法を繰り出すにはイメージの鍛錬が必要となる。
現に僕も無詠唱で魔法を繰り出せるようになったのは、練習を開始して半年経ってからだ。
人によっては年単位で鍛錬が必要なことだってあるし、魔法の極地に至り、加護を得なければならない。
でもさ──元々加護与えられてた場合どうしたらいいの!?!?
極地ってなに!?!?
僕にも分からないことはたくさんあるんですよ!!
「まあ、2人も加護を得ればそのうち出来るようになるよ」
「加護ねぇ。何年後になることやら」
「一生得られないことだってありますしね。それでも、私頑張ります」
「お、アリスすごいやる気じゃん!もしかして、本気でウィルの許嫁狙ってるぅ??」
「そそそそそ、そんな!!私は!!シノちゃん、変なこと言わないで!!」
アリスが顔を真っ赤にしながら弁明しているが、本当に2人は仲がいいんだな。
うん、2人の百合の花園は僕が守らないと。
でも、許嫁になってほしいって言葉本当になんだったのだろう。
ここで聞いてもいいのだが、周りに人がたくさんいるし、俺たちは貴族で、公爵家の人間でもある。
そこを気にせず大衆の前で口に出してしまえば、それを聞いた人達が噂を流し、仕舞いにはありもしないことに歪曲され噂が流れてしまう。
今日のローブの男といい、アリスの許嫁といい、裏には何かある。
慎重にことを進めていかないと。
そんなことを考えながら、教室に着いた僕たち。
僕たち以外の人達は既に揃っていて、談笑をしていた。
僕たちが教室に入ると、視線が一気にこちらに向く。
ちょっと嫌かも……。
そして1人の男が僕たちに近付いてきた。
「お前がウィル・グレイシーか。戦鬼、ダグラス・グレイシーの嫡男」
紅色の瞳に金髪ロン毛、180センチくらいあるだろう高身長でスタイルの良い男は僕を嘲笑うような顔で詰め寄って来る。
紫の瞳に黒髪で身長が170センチ前後しかない僕に比べたら、都会の貴族は彼で、田舎の貴族は僕になるのか?いや、だから辺境伯って言われるのか!?
見た目で舐められてる!?
別に羨ましくないし!見上げるのにちょっと首が疲れるなって思うぐらいだし!!
しかし──なぜこいつが父さんの二つ名を?
父さん、ダグラス・グレイシーは、戦鬼という二つ名を持っている。
公爵家で軍総司令官であるのにも関わらず、戦場には最前線で単身1番に身を乗り出し多くの敵や魔物を、屠って来た。
その勇猛果敢な姿から、人々は父さんの事を戦鬼と呼び始めたのだ。
「あんた何者だよ。良くボクのことをご存知で」
「そりゃあもちろんさ!なんてたって僕はスーパーエリート貴族のケイン・スミスだからね」
「マジかよ、あのスミス家かよ」
横にいたシノが嫌そうな顔をしている。
隣にいたアリスは強ばった顔をしていた。
どうやら2人には因縁がありそうだ。
「いい?ウィル。あのケイン・スミスってやつ、スミス公爵家の跡取りで、スミス家は王家の後見人を務める大側近の公爵家だ。あいつに目をつけられたらグレイシーでも終わるよ」
スミス公爵家。
シノからの説明があった通りだが、トゥルメリア王家の後見人であり、王家に関する執務を一手に請負い、かつ、公爵6家を束ねる存在でもあるのだ。言わば、公爵家の中でも絶対的な権力を誇り、他の公爵家が粗相を犯せば、爵位剥奪、領地没収。最悪奴隷落ちまで有り得る。
「そんなスーパーエリート貴族のケイン・スミスくんが、僕になんの用だい?」
「おっと、そんな強ばった顔をしないでくれ、ほんの挨拶だよ。君とは仲良くしたいからね。なにせ入試で規格外の力を見せつけて、首席で合格した逸材だからね」
「ウィル様首席合格なの?す、すごい……でも、あの能力だったら納得する。うん」
「やっぱ規格外、すげぇ」
合格の通知を受け取った際には書面で、『尚、貴殿は首席で合格されましたので、入学式には新入生代表として、登壇して頂きます』と、記されていた。
周りに言ってなかったこともあるので驚かれるのも仕方ないが、ちょっとこそばゆいのは否めない。
「さて、ウィル。ボクはいささか疑問に思っている。一介の公爵家であるキミが、なぜそんな強大な力を保有しているのかを」
「なぜって、俺は小さい頃から魔法の文献に10歳までに魔力量の鍛錬をしないと、そこで成長が止まるって書いてあったから、ずっと練習してただけだよ」
「ほう、それは間違いではないのだが、ここに居る貴族連中は皆やっていることだ。しかし、キミは桁外れに膨大な魔力量を有してる」
「なにが言いたい」
ケインはサラッと髪をかきあげ、自信満々に言い放った。
「なら言わせて貰おう。キミが保有している魔力量、なのにそれに見合わぬ人の姿をしているが、本当はキミ、魔族なんだろ?」
教室中が戦慄を走った。
隣に居るアリスとシノも身を強ばらせ一歩引いた。
ん?待て。僕が魔族?
それは有り得ない。
何故なら、僕は神聖魔法が使えるからだ。
魔族には神聖魔法は扱えないし、逆に闇魔法に精通している。
僕も闇魔法を使えないことはないが、闇魔法を使うと魔族と勘違いされるし、代償を伴うから使わないようにしている。
でもそんな根拠の無いことをペラペラと良く言えたものだ。
少しイタズラでもするか
「僕が魔族だったらどうするんだ?」
僕は右手に闇魔法を顕現させる。
紫色の火球、グツグツと音をたてていた。
それを見て、周りの人たちは更に後退りする。
「ウィル、あんたまさか──」
「ウィル様──そんなこと、ないですよね?」
「ハハハッ!!やはりそうか!!ウィル、キミはやっぱり魔族だったか!!」
だが、僕は火球を消し払った
さすがにこれ以上はやりすぎだ。
「なわけあるかよ。僕の手を見ろ」
僕は皆の前に手を出した。
僕の右手は闇魔法の影響で焼けただれている。
結構ガチで痛いよ。
「ねえ、アリス。闇魔法の性質って知ってる?」
「はい、闇魔法は主に魔族が使う魔法で、人間が使うと皮膚はただれ、最悪の場合、使用した当人が闇に飲まれ魔獣化する恐ろしい魔法です」
「でもウィルは闇魔法を使ったが、その代償に右手の皮膚が焼けただれた。──ってことは!」
「そう、僕は魔族でもなんでもない、ただの人間だよ。魔法の知識を得るために、勉強の一環で習得したけど、毎回こうなるから使いたくないんだ」
「なんだよウィル〜、勘違いさせんなって……アタシ、マァジで魔族かと思ったよ」
ホッと胸を撫で下ろすシノ。
アリスも安堵の表情を浮かべてる。
しかし──ケインだけは違った。
「貴様──このボクを、この高貴なるケイン・スミスを愚弄したなっ!!!」
「ま、まぁ、凄くトンチンカンなことを言ってるから、面白くなってしまってからかってしまったというかなんというか……」
「き、貴様!!6家風情がこのボクを!!まぁ良いだろう、ボクは貴様に決闘を申し込む」
そういうとケインは、手に嵌めていた手袋を僕の前に投げ捨てた。
これは決闘を申し込む合図みたいなもので、それを拾った者は決闘を承諾したことになる。
仲良くしたいって言ったのはそっちなのに決闘だなんて、飛んだ手のひら返しだ。
「拾えウィル。公爵家筆頭として、君には制裁を加えねばならない」
理不尽極まりないのだが、仕方ないよね。
僕自身が撒いてしまった種なわけだし、ここは素直に決闘に応じて白黒付けるしかない。
恐らく楽勝だけど。
僕はケインの手袋を拾った。
「その勇敢さには評価してやろう。たが、ウィル・グレイシー、貴様はきっと後悔するであろう。貴様のその不遜な態度が、この僕を怒らせたことに」
ケインがそういうとチャイムが鳴り、入学式のために僕たちは大講堂に向かった。
入学式はすんなりと終わり、また教室に向かった僕たちなのだが、ケインの睨む顔はずっと僕に向けられたままだった──




