2.トゥルメリア魔法学院
魔法学院の入試試験から半月が経ち、僕は晴れて王立トゥルメリア魔法学院の生徒になる。
白を基調としたブレザーは襟の部分を沿うように金色の刺繍が施されている。
ネクタイは紅で真ん中には院章がある。
いかにも、エリートが通う学校の制服だ。
この学校に通うっていうことは、アリスとシノもこの学校に通うということになる。
僕は既に学校に着いていてクラス発表されるまで待っているのだが、なんとなくアリス会うのは気まづい。
「私を、ウィル様の許嫁にしてくだはひ!!」
あの後、恥ずかしくなったアリスはその場から走り去ったんだっけ。
結局のところ返答すらさせて貰えないまま、会う機会も無いし、ここまでずるずる来てしまったって感じだ。
でも許嫁ねぇ……。
その場で精神干渉魔法で彼女の記憶を探る事もできたのだが、プライバシーは尊重するべきだ。やめておこう。
どういう意図があって許嫁立候補したのか分からないが、初対面の人にあんなことを言うなんて、よっぽどの事が無い限り有り得ないものだ。
これは裏があるに違いない。
でも僕から聞くのは野暮なので、彼女が話してくれる時を待とう。
あ、ちなみに精神干渉魔法は禁術指定されてるから、普通の人は扱えないよ。
そんなこんなで考え事をしていると、クラス表が大広場に掲示された。
俺の名前、俺の名前……あった。
良かった、Aクラスだ。
まああれだけ派手にやったらAクラスは間違いないけどね。
ちなみにAクラスは入試で成績上位12名が入れるエリートクラスだ。
もちろん貴族だからといって絶対にAクラスに入れる保証はない。
成績が悪ければ問答無用でそこからあぶれることだってあるのだ。
「おーっす!ウィル!あんた早いねぇ!」
「あ、シノ。おはよ」
「おはよ!んで、アタシは何クラスだ?やった!Aクラスじゃん!」
「Aクラスおめでとう」
「ありがとっ!」
シノは居るけど、アリスとは常に行動を共にするんじゃないんだな。
周りを見渡してもアリスの存在を視認できない。
「なあ、シノ。アリスは?」
「え? あれ? アリス居ないじゃん!今日一緒に来てたのに」
ん? どういうことだ?
シノが言うにはさっきまでアリスと一緒に登校して来たらしい。
だが、気づいたらアリスが居ない。
何かトラブルに巻き込まれた可能性がある。
とりあえずアリスを探さねば。
「シノ、こっち来て」
「え? あ、うん!」
俺は人気のない場所に身を移した。
心配そうにシノは見つめるが俺は目をつぶって集中する。
「空間魔法」
「わあ、無詠唱。まじか」
空間魔法は誰でも扱える魔法だが、索敵範囲は鍛錬を積まないと距離は伸びない。
こんな僕でも空間魔法はせいぜい500メートルは限界だ。
そしてこの空間魔法は人の判別は魔力の色で判断できるのだ。
僕の場合はほぼ全ての属性を扱える為、何色か分からないが、大体の人は色で判別できる。
例えば、スレブだったら水属性なので青色。
父さんは炎魔法を使うので紅など、色での判別が可能なのだ。
だが今日は入学式だ。ただでさえたくさんの学生の往来が激しいくて、いくつもの色が点在している。
半径100メートルでは判別が難しい。
しかし、索敵範囲を広げても人の反応が増えるだけだ。
仕方ないあの魔法を使うしかないか──
「シノ、アリスから貰ったものでもなんでも良い。何か持ってないか?」
「アリスから貰ったもの? んー、これならあるけど……」
「悪い、少し借りるよ」
「別に良いけど、何に使うの?」
「見れば分かる──」
──僕はシノがつけていた星型の髪飾りを受け取ると、そこに魔力を注ぎ込む。
「追跡魔法、シーカー」
そう魔法の名を唱えると、髪飾りは宙に舞い追跡を始めた。
この追跡魔法は対象物に魔力を流し込むと、その対象物を触った者の追跡を行うことができる。
1人しか触れたことのない物であれば簡単に追跡できるが、複数の人間が触れた物だと、追跡したい人物の顔を思い浮かべなきゃいけない、少々厄介な魔法だ。
しかも、並の人間だと膨大な魔力を必要とするので、おいそれと使える魔法ではない。
僕とシノは髪飾りの後に着いていく。
すると髪飾りは路地裏に入っていった。
路地裏に入ってすぐ、見覚えのある女の子と黒い外套を着た人物がやり取りしていた。
しかし──女の子は困惑の表情を浮かべてるし、何やら言い争っている。
僕は直ぐに彼女の元に向かった。
「──アリス!!」
「ウィル様!!」
アリスは僕に気づくと、咄嗟に僕の後ろに隠れた。
「彼女に御用ですか? 何やら言い争っていましたが」
「………………ったく、飛んだ邪魔が入ったな」
男の声。
だが──男はローブを外そうとしない。
寧ろ、懐から短刀を取り出したではないか。
僕も咄嗟に臨戦態勢に入る。
「邪魔とは?あなたは一体何者なんです?」
「君には関係ない事だ」
「関係あります。友達が見知らぬ人と言い争ってたら助けるのが当たり前でしょう」
「見知らぬ人ねえ。……まあいい。あまりこういうことはしたくないんだがね、これでは分が悪い。今日は引かせて貰うよ」
そういうと男は助走も無しに高く飛び──建物の上に消えて行った。
しかし──なんだったんだ?
僕がここに来た途端、すぐに撤退するなんて……。
短刀と取り出したのは恐らく──追って来たら殺す……そういう意味合いだったのだろう。
「もお!アリス!!無事だった???」
「うん、大丈夫……」
「でも、なんで正体の分からない男と言い争ってたんだ? 何かに巻き込まれてるのか?」
「え、あ、その……なんでもない。心配しないで」
それは無理な話だ。
現にアリスは男と言い争っていたし、相手は武装していた。
なんなら──すぐアリスを殺せた。
あの男の身体能力を考えれば造作でもない。
だがあの外套──どこかで見た気がする。
肝心なとこで思い出せないのが痛い話だが、なによりアリスが無事ならそれで良かった。
これは暫く警戒が必要だな。
「そろそろ学校行こ?遅刻しちゃう」
アリスはそういうと、学校に向かうべく歩いていく。
間違いない──彼女は何かを隠している。
あの動揺した表情に荒い息遣い、相当な緊張をしていたに違いない。
けどこれ以上の詮索は無理だ。
僕は周囲を警戒しながら再び学校に向かった──




