トゥルメリア王国③
キーンコーンカーンコーン……
筆記テストの終了を知らせるチャイムがなった。
先生の止め!という合図でみんな手に持っているペンを置く。
生徒が記入した答案用紙は先生の浮遊魔法によって回収された。
浮遊魔法はごく一般的な風魔法で、風魔法の適正がある人は誰でも扱える簡単な魔法だ。
「では、これから演習場に向かってもらう。そこで魔法適正の試験を行うから、皆がんばるように。では着いてこい」
僕は言われるがまま、演習場に向かうべく先生の後をついて行った。
「それでは、魔法適正の試験を行う。20メートル先には的がある。あの的に対して各々の魔法をぶつけて欲しい。早速、1番から5番の生徒は前に出ろ」
僕は11番次の次だ。
番号が呼ばれた男子生徒と女子生徒たちが前に出ると、1番の男子生徒は、なにやらモゴモゴと喋り始めた。
「親愛なる神よ、我が言の葉の呼び掛けに大地の御加護を。アースランス!!」
アースランス。
土魔法のごく一般的な魔法で、土魔法適性がある人なら誰でも使える魔法だ。
円錐状に形状されたアースランスは真っ直ぐ飛び柔らかいものなら簡単に貫く攻撃なのだが……。
ちょっと待て。
ヒラヒラと浮遊して勢いなんて微塵も感じられないくらいゆっくり進んでるではないか!!
5秒経ってゆっくりと的に当たる。
「お!やった!当たった!」
「すげぇ!お前やるなぁ!」
「私もやってみる!」
うそぉん……。
え?そんなレベルなの?
なんかこうもっと、ヒュー!ドスン!!とかそういうのあるじゃん?勢い良く当たって的を貫く的なあれあるじゃん?
なに?ヒラヒラ〜トスン。って!
もしかして、近い歳の子たちの魔法レベルってそんなもんなの?
「お前は規格外だからな(笑)」
父さんの言葉をまた思い出す。
なんか思い出の中で父さんが嘲笑してるの付け足されてない?
父さんは悪くないけど、気分が害された感あるよ。
そんなこんなで嫌な考え事をしていると、5番までの生徒の試験が終わる。
「では、6番から10番の生徒は前に」
「ようやく、僕の番が来たようだ。愚かな庶民ども、レニツァ公爵家の長男、スレブ・レニツァの力を見るがいい」
あれは、さっき筆記試験の前に突っかかってきたスレブではないか。
6家の中でも財務を担当するレニツァ公爵家の跡取り。
公爵家だから中々の力は持ってるだろう。
僕はスレブに注目した。
「刮目せよ。水星の巫女よ、我の言の葉の力に呼応し水の加護を与えよ。リヴァイアサン!!」
リヴァイアサン。
水魔法の中では上位クラスの魔法だ。
さすがは公爵家の長男。
これくらいはやって当然か。
上位魔法になると手のひらから魔法陣が出現し力が放たれる。
スレブの手のひらからも青の魔法陣が出現し、力が放たれた。
「おぉ!さすがレニツァ公爵家のスレブ様!上位魔法を扱えるなんて!」
「苦しゅうない!愚かな庶民どもよ。僕にかかればこんな魔法造作でも無い!」
でも、待てよ。
上位魔法って結構かなりの勢いで放たれるものなのだが、スレブの場合、ホースの口を潰して勢い良くでた水の威力しかないじゃないか!!
おいおいおい、こんなんでドヤ顔してるの?
ちょっと汗かいてて息も荒いから気持ち悪い。
「おい、ウィル・グレイシー、貴様はこの高みに来れるかな?」
な、名指し止めてもらえない?
僕にとってスレブは身の丈に合わない上位魔法を無理して出したにしか見えないんだけど……
まあいいや。もうそろそろ僕の番だな。
「11番から15番は前へ」
そう先生に呼ばれると僕は前に出た。
僕も公爵家の人間だから、他のみんなは僕に注目している。
それもそうだ。
その前のスレブが上位魔法を展開したんだ。
自ずと僕にも注目の視線は集まる。
僕はひと呼吸整えると、指先だけを的に指し魔法を放った。
超高速に放たれた炎は的に命中し、後ろの壁をも貫通した。
まあ、これくらいだろう。
割と抑えめで魔法を放ったんだ。
高みというのはこれくらいを指さなきゃ。
「うぃ、ウィル・グレイシー。今のは……」
驚愕した面持ちで先生が僕に尋ねてきた。
あれ?僕なんかやっちゃいました?
あぁ、技名言ってなかったっけ。
「あれはラピッドファイヤです。先程スレブくんが上位魔法を展開したので、僕も負けられないと思い上位魔法を使わせて頂きました」
ラピッドファイヤ
火属性の上位魔法。
高速で貫く魔法なので、爆散はしないがラピッドファイヤで重なった敵を殲滅するのは容易な魔法だ。
「ラピッドファイヤは見れば分かる!!!い、い、いや!!!そうじゃない!!!君!詠唱は!?したのか?してないのか??」
「無詠唱ですよ?」
「「「「えーーーーーっ!!!!」」」」
「む、む、む、無詠唱!?!?!?その歳で!?!?」
何がおかしいのだろう。
僕にとっては普通の事だ。
むしろ父さんも言っていた。
「公爵家である人間は無詠唱で魔法を放てるのは一般的だ。ウィル、お前は当たり前の事をしてるんだよ(大爆笑)」
ん?なんかおかしくない?僕の記憶。
なんで父さん大爆笑してるの?
「ウィル・グレイシー。無詠唱で魔法を展開できるのは公爵家では当たり前だ。しかし、無詠唱でできるのは魔術を極めていて、それぞれの属性魔法の加護を与えられてる人間しかできない。しかも、上位魔法ラピッドファイヤを無詠唱かつ魔法陣無しで放てるのは君しか見たことないぞ!」
「え!?ホントですか??」
「嘘ついても仕方ないだろ!!」
「じゃあ違う属性の魔法を使いますね」
「ち、ち、違う属性!?!?!?」
なにこの人?
さっきから凄く驚いてるけど、他の属性魔法を使えるのも貴族だったら当たり前でしょ?
「まあ見ててくださいよ。そうだ!さっきスレブくんがやったリヴァイアサン、僕もできるので見ててください。次はちゃんと技名は言いますから」
僕はまた的に身体を向け、手のひらをかざした。
「リヴァイアサン」
僕の手のひらから纏まりのある水が勢い良く放たれた。
放たれた水は龍の顔を形成し的へと一直線にむかっていく。
やがて目的の対象物に当たると、ドゴーン!と音を立て爆散した。
これも全力でやったら被害が出るから、抑え目にやった方だ。
「どうですか?先生」
「ウィル・グレイシー……いや、ウィル様……あなたは規格外だ……規格外だぁぁぁぁぁ!!!!!」
先生はその場でヘタれ込んでしまった。
僕は他の生徒に目を配るが、生徒も呆気を取られている。
もちろんスレブも口をポカンと開けて身動き1つしていなかった。
「やりすぎちゃったか」
「も、もういい……。君は戻りなさい……。これでまだ15歳だなんて、グレイシー家はとんだ規格外を隠してたものだ……」
頭を抱えている先生を横に僕は元居た場所に戻る。
確かに少しやり過ぎてしまったようだ。
周りの受験生の顔は畏怖を浮かべている。
無理も無い。
己の力の差を目の当たりにしたんだ。
15歳が平然とやってのける力ではない。
しかし、こんなことになるなら父さんも少しくらい忠告してくれてもいいのに。
あの人、絶対にこうなる事が予想できてて僕を魔法学院に入らせようとしたんだな。
少し父さんの評価が落ちました。
そんなこんなで実技試験は終了し、全ての試験を終えた僕は学校を後にしようとした。
「あ、あの!」
「は、はい!」
後ろからいきなり声を掛けられる。
僕は振り向くと、そこには身長は156センチ程度、タレ目でぷっくらとした唇。ピンク髪でハーフツインの可愛らしい女の子が立っていた。
うん、この子絶対モテる。アイドルやったほうがいいよ。
「ウィル・グレイシー様ですよね? 先程の魔法は素晴らしいかったです!」
てことは、同じグループで試験を受けてたのか。
筆記試験ではスレブに絡まれてたし、実技試験ではどの魔法を繰り出そうか考えてたから、あまり周りなんて見てなかった。
「そうですけど、僕もまだまだですよ」
「そんなことないです!ウィル様はこの魔法学院に通われる予定なのですか?」
「まあ試験を受けたからそうなるね。ところで何の用?」
「あ、あの……」
「アーリス!!」
「わっ!シノちゃん!!」
話しかけてきた女の子の後ろから勢いよく肩を組むように、もう1人の女の子がやってきた。
シノと呼ばれるこの子、綺麗なクリーム色の髪の毛にセミロングの長さ。キリッとした眉につり目。
身長は女の子と同じくらいかちょっとそれよりも上だ。
「アリスぅ、どうしたの?あんたが男の子に話しかけてるなんて珍しいじゃん!」
「そそそ、そんなことないよ……」
シノとアリスという女の子は仲がいいのだろう。
一見正反対の性格に見える2人だが、やり取りや表情を見るだけで親密さを伺える。
「ところでアリス、この人は誰?」
「僕はウィル・グレイシーと申します。ウィルと呼んでください」
「グレイシーって、あのグレイシー公爵家の人? うわ、やばっ!マジモンの公爵家の方じゃん! アタシはシノ・エクシア。一応エクシア侯爵家の長女ね!」
エクシア候爵家。
確かエクシア家は商業面において力を持ってる家だよな。
主に流通や貿易を担当していると聞いてる。
「アリス、あんたも自己紹介したの?」
「あ、私はアリス・フローレスです。一応フローレス公爵家の長女です……」
「アタシとアリスはね、身分は違うけど幼なじみなんだ!だからってあんたにも礼儀正しくするのはないからね!」
だから砕けた会話をしてるのか。納得。
しかしこのアリスって子、公爵家の子だったのか。
オドオドはしているが、佇まいはさすが公爵家、しっかりしている。
そして、フローレス公爵家。
先のエクシア侯爵家の直属の上司的な感じで捉えてくれればわかりやすいだろう。
6家の中でも商業を担当していて、このトゥルメリア王国の経済を一手に担っている家だ。
しかし、今日のうちにこんなにも公爵家の人間に会うなんて、世間は狭いものだ。
軍事担当のグレイシー家。
財務担当のレニツァ家。
商業担当のフローレス家。
スレブはどちらかというと、公爵家の人間としてはだいぶ嫌われテンプレの存在だけど、アリスみたいな穏やかな公爵家の人が居てちょっと安心してる。
「改めて、僕はウィル・グレイシーと申します。一応グレイシー公爵家の跡取りです。よろしくお願いします」
「え!?グレイシー家の跡取りなの?? アリス!ウィルと結婚したら将来安泰だよ!」
「シノちゃん!言葉には気をつけて!」
「えー!だって、グレイシー家って内政干渉とかしないし、首都から遠いじゃん? 誰の目も気にせず夫人としてのんびり暮らせるんだよ??」
確かに父さんは内政干渉を嫌うし、俺たちは国を守ってりゃそれでいいって言ってるけど、国防とか大変よ?
隣国だって攻めてくる可能性があるし、魔物の脅威だってある。
何より毎日生きるか死ぬかの瀬戸際だから、のんびりスローライフってわけにもいかない。
「まあまだ跡取りってことだけで仕事に携わったことは無いけど、アリスさん何か話しがあって僕に話し掛けたんだよね」
はっ!とするアリス。
しかし、彼女の表情はどんどんと曇っていく。
口をモゴモゴして言い出せない彼女だが、ひと呼吸おいて意を決した表情になり言葉を放った。
「あの!私を、ウィル様の許嫁にしてくだはひ!」
「あ、噛んだ」
「ひゃうっ!!」
この時僕は思いもしなかっただろう。
退屈だった元の世界から異世界に転生して来て、こんなにも激動の日々を送るなんて。
しかも、アリスと出会ったことで平穏とはかけ離れた、戦いの日々が訪れるということを。
この時の僕はまだ何も知らなかった──




