トゥルメリア王国②
荷馬車を走らせて2ヶ月、ようやく首都セリカに到着した。
何度か来た場所なので転移魔法を使えば一発なのだが、転移魔法は禁術らしいのでおいそれと使えない。
あと、この国の風景も堪能したかったってのもあるね。
荷馬車に積んだ荷物を降ろし2ヶ月共にした付き人の人と別れると、格納魔法で荷物を収納する。
ちなみに格納魔法は誰でも使える魔法だが、一般的には化粧ポーチほどの容量でしか収納できないらしく、父さんは僕に、
「お前は規格外だ」
と言われる始末だ。
そんな事を言われても張り合う同世代の友達が居なかったので分からないが。
普通じゃないってのは自分が1番理解している。つもりだ。
城門前にある検問を難なく突破した僕に一層賑やかな街の風景が目に映った。
「ここが首都セリカの街並みかぁ」
屋台や露店商で賑わい、かなりの人の往来。
お祭りをしているのかと勘違いしてしまうほどだ。
さすがこの国の経済の中心、首都セリカだ。
その賑わいを横目に街を歩く僕は、目的地トゥルメリア魔法学院に着いた。
今日ここで、魔法学院の入試が始まる。
受付を済ませて指定の教室に向かった僕は教室に入ると1番後ろの席に座った。
周りを見渡すと、友達同士なのか談笑しているグループがいくつも散見できる。
友達が居ない僕には話かける人なんて居ないけど、なんだか懐かしい。
前世でもこういう光景は学校然り、会社然り当たり前だった。
退屈だった前世から魔法のあるこの世界に転生して、たとえ友達が居なくても、僕の心は躍った。
すると、僕の席の前に3人ほど同じ歳くらいの男の子が腕を組んで立っている。
なにやら僕を睨んでいた。
「おい、お前」
「はい、なんでしょう」
「お前、グレイシー公爵家のウィルだな?」
いかにもいじめっ子みたいな目つきで、プライドが高そうな面持ち。
そんで体たらくを表したかのようなデブ。
僕より身長が少し大きいが、横に居る取り巻きは虎の威を借る狐みたいで威圧感は無い。
どうやら友達になろうって感じの雰囲気ではないな。
「はい、グレイシー公爵家の長男、ウィル・グレイシーです。よろしくお願いします」
「なにがよろしくお願いしますだよ!辺境伯もどきの公爵家が」
「そうだそうだ。グレイシーは国境沿いでも守ってろよ」
「その分、僕たちがしっかりと学び舎で学習し未来のトゥルメリアを支えるからさ!」
「公爵もどきの辺境伯はさっさと自治領に帰るんだな」
凄い言われようだ。
辺境伯もどきだの公爵もどきだのどっちだよ。
親が凄いだけで自分はなにもできないくせに、凄く偉そうなのはどこの世界に居ても同じなんだな。
でも、今日は大事な入試。
波風を立てては今後に関わってしまう。
僕はひと呼吸置いて喋り始めた。
「申し訳ございません。まだ政治に関しては無知なもので。我が父、ダグラス・グレイシーがご迷惑をおかけしたのなら、父に代わり謝罪させて頂きます」
軽く頭を下げ視線を再び彼に戻すと、二チャリと気味の悪い笑みを浮かべていた。
あー、これパシリルート入りますね。
「うへへ、分かりゃいいんだよ。たっくよ、底辺公爵のグレイシーも分かるやつがいるじゃねえか」
「スレブ様、レニツァ家もこれで悩みの種が無くなりましたね」
「あたりめえだ。国防だのなんだのって予算の増額させて、父上の頭を悩ませてるグレイシーを僕の代で完全に掌握できるからねぇ。お金には限りがあるってわかって貰わないと」
口ぶりから察するに、このスレブ・レニツァという人物は6家の中でも国の財務を担当する公爵家の跡取りだな。
取り巻きはそこの家の付き人みたいなもんだろう。
「おい、ウィル」
「はい、なんでしょう」
「お前、今日から俺の言うことは絶対だ。分かったな?どうせ大した事ない底辺公爵家なんだから、無能は俺の世話でもしておけばいいんだ。ちなみにお前に拒否権はねえからな」
「………………」
ニコニコしながら黙った僕。
辺りは少しの静けさを保った。
それと同時に怒りの感情が湧いてきた。
僕が次に何を発するのか、周りは気になって固唾を飲んで見守ってる。
うん、この状況だるいね。
「はい、お断りします」
「は? てめえもういっぺん言ってみろ」
「いやだから、お断りします」
スレブは僕の胸ぐらを掴む。
彼のこめかみはピキピキしているし、鼻息も荒い。
自分の思い通りに行かないことがあると、すぐ感情に出ちゃうタイプなんでしょうね。
あらヤダ。アタシ怖いわ。
「てめえに拒否権はねえって言ってんだろ!グレイシーの分際で生意気なんだよ。俺の言うこと聞いてりゃ痛い目見ないのによ!」
「少し建設的にお話ししましょう。質問しますが、あなたに隷属して何のメリットがあるのでしょうか。さっきからグレイシー家に対する侮辱も、あなたに明確な理由があって侮辱を行ってるのか、もしくは、ただ父親の愚痴を聞いて先入観で悪と決めつけているだけでは無いのでしょうか。」
「う、うるせえ!お前は言うことを聞いてりゃいいんだよ!」
「質問の答えになってません。的確な返答をお願いします」
スレブが掴む手がより一層強くなった。
彼が意外と短絡的なのは分かったが、反論されるという想定はなかったのだろう。
スレブは口ごもんで、ただ怒りを僕にぶつけようとしていた。
おいおい、こんな奴が将来財務管理できんのかよ。
この国の行く末は非常に険しいかもー
「反論がないのであれば、その腕を離し謝罪してください。」
「謝罪?なぜ僕が謝らなきゃいけないのさ。生意気な態度を取って謝罪するのはお前のほうだろ」
ねえ、この状況めんどくさいー
もうボコボコにされて終わりたいんですけど、いつになったら殴ってくれるの?
殴ってくれたら喜んで謝るのに。
そのくせ煽りまくってる僕も大概だよね。
お願い、早く終わらせて。
すると、思わぬ助け舟がやってきた。
「はい、お前たち席につけー、これから学力試験をするぞー」
この魔法学院の先生が教室に入ってきたのだ。
しかしながら先生は大人だ。
教室の雰囲気が異様なのをすぐに察知する。
入試生徒たちの視線の先を辿っていき、胸ぐらを掴まれている僕と目が合った。
「おい!そこ!!なにしてる!!!」
スレブは咄嗟に手を離し、両手を挙げた。
「ちょっとしたじゃれ合いですよ!そんな、喧嘩してた訳ではないので安心してください」
「胸ぐらを掴まれたキミ、どうなんだ」
「特に問題はございません。ただのじゃれ合いです」
「そうか、でも誤解されるような行動は慎むように」
「はーい、すみませーん」
そういうとスレブとその取り巻きは自分の席に戻って行った。
なんとか事なきを得たが、スレブも貴族だから同じ学院に通う生徒になるんだもんな。
どうか同じクラスにはなりませんように!!
スレブが飛んだバカでありますように!
そんなこんなでいきなりアクシデントがあった入試前の待ち時間だが、何事も無かったかのように筆記テストが始まった。
どれを見ても問題は中学生レベルといったところだろうか。
問題数が多いが難問ばかりではない。
むしろ優しい問題羅列しているだけであって多少の学でも解ける問題だ。
この世界は世界の共通言語、アーク語を使っている。
この国、トゥルメリア王国はもちろん、隣国のメイス帝国でもアーク語を使用している。
僕は赤子で転生したから長い間アーク語に触れてるし問題ないけど、もし大人のまま転生していたら習得出来たか不安ではある。
そのアーク語を用いた国語のテストと簡単な数式の問題、そしてトゥルメリア王国の歴史の問題。簡単な魔術式の問題だ。
そして最後の問題が1番僕の興味を惹いた。
「魔法とはなにか」
シンプルかつ超難問のこの問題。
たった齢15の人間が解くには重すぎる問題だ。
でもそこに興味を惹いた。
元いた世界では有り得なかった魔法という概念。
ファンタジーやおとぎ話の類の想像の産物であった魔法というものが、転生して当たり前のように社会に溢れている。
かく言う僕も、魔法なんて元いた世界では魔法の魔の字も想像していなかった。
それだけ魔法というのは非現実的だったのだ。
配られた答案用紙にはまっさらな紙が1枚ある。
そこに魔法とはなにか、その問いの答えを書くのであろう。
僕は今思っている魔法に対する感情を時間の限り書き綴った──




