トゥルメリア魔法学院④
剣と刀がぶつかり合う。
さすが王家後見の公爵家の跡取り、名の恥じぬ力強さ。
しかし、僕も負けてはいない。
相手が力で押してくるのなら、こちらは技で勝負だ。
転生前は剣道で日本一も経験したことがあるんだ、間合いの勝負ならこちらに分がある。
僕は一歩引くと、ケインも一歩引いた。
「凄い力だ。さすが公爵家の頂点に立つ家に相応しいかぎりだね」
「今更そんな事に気づいたのかウィル・グレイシー、降参するならまだ間に合うぞ」
「力を認めただけで負けを認めたわけではないよ。ちょっと早とちりしてしまったかい?」
「くっ……。口だけは何とも達者だな。魔法の才があるとも、剣の才はないだろう」
ちょっとプライド傷ついた。
ムカついたので少し本気をだしてみるか。
僕は間合いを少しずつゆっくりと詰めていく。
ケインも間合いを詰められてるのは気づいているだろう。
いつ来るのかと身構えている。
さぁ、君から攻撃してくるといいよ。
その為の間合いを詰めているんだから。
そして、僕が大袈裟に一歩前に足を出した瞬間──
「──ぬかったなっ!!」
彼は僕が油断して前に出たのかと思ったのか──大きく剣を振りかざしてきた。
だが──それを待っていた!!
「ぬかったのは君だよ──」
僕はケインの斬撃を躱すと、胴に横一閃、斬撃を繰り出す。
「なっ──避けられない!!」
僕の斬撃が彼に当たると、ケインは力を無くしたかのように、膝を付いた。
刃抜きはしてるから怪我はしないけど、ちょっとだけ痛いのは我慢してね。
「勝負あっただな。勝者ウィル・グレイシー」
「うっし!」
「ウィル様!お見事です!」
僕は彼女たちの元へ向かうと、万遍の笑みで迎えてくれた。
それにしても呆気ない勝負だったな。
でもあんな大味の振りかぶり方をしたら、僕の斬撃は当たるに決まってる。
剣道でも面を取る瞬間が一番隙が生まれやすい。
そこの隙を突いて胴を取るなんてのは常套手段だ。
「それにしても、見たことない剣裁きでしたね。ウィル様、その剣術はどちらで習得されたのですか?」
「あ、いや、その……」
まずいマズイ不味い!
実は転生者で転生する前に剣道という競技を習ってたなんて言えるはずがない!
そりゃ、この世界は転生前の世界で例えるならば、ヨーロッパみたいな剣術スタイルで、もっと分かりやすく言うと、某モンスターハ○ターの片手剣装備の動きに近い。
とりあえずそれと無いことで誤魔化しとくか。
「じ、実は、グレイシー家は色んな人間が集まる性質上
、色んな剣術を指南してくれる方々がいらっしゃるんです!僕にはサクラ王国の剣術が一番合ってまして、それでこのスタイルになったわけです!」
「へぇ、さすが魔法よりも筋肉自慢が集まるグレイシー家だな。色んなもの取り入れてるんだな」
「納得しました!数多のものを取り入れるなんて、素晴らしいお家なのですね!」
あぁ〜……。納得してくれて良かった……。
実際にサクラ王国の剣術指南の方がグレイシー家を尋ねて来た事もあったし、嘘は言ってない。
「なぜっ──なぜ、ボクが負けた……」
負けたことにガクッとうなだれているケイン。
僕たちはケインの元に駆け寄る。
「ボクは圧倒的に強い。負けるはずなんて無かったんだ。なら──どうして、どうして?」
「そんな自分を責めて──」
「──うるさい!!君に負けるなんて有り得なかった!そうやって敗者に情けをかけて、君はよっぽどボクをバカにしたいようだな!!」
「そ、そんなこと──」
「──よせ、ウィル。ここは私の役回りだ」
そういうと、アンジェラ先生はケインに詰め寄る。
「いいか、ケイン。力が強い弱いの世界の話じゃないんだ。君が負けたのは、自分自身が心に持っている傲慢さ、奢りのせいだ。君は自らの力を過信し油断して負けた。それだけのことよ」
「先生……俺も、強くなれますか……」
「あら!もっと反抗してくると思ったけど、案外素直に聞き入れる子なのね。大丈夫──強くなりたい、誰かを守りたいって思ってる人は、きっと強くなるわ」
「先生……」
うんうん。良い生徒と教師って感じで感動するねぇ。
僕、こういうのに弱いんだよね。
身体は子供でも、中身はアラサーのお兄さんだからね。
おい、誰だおじさんって言ったやつ。
アラサーはまだお兄さんだ!!
「それはそれ、これはこれなので……」
「先生?なんですか?」
「さーて、ケイン・スミスくん!君は決闘に敗北しました!君の生殺与奪の権利はウィルくんが握ってるんだけどぉ〜、どうするぅ〜?ウィルくん」
そういえば──この世界の決闘って勝者が敗者に命令を下せるんだっけ。
もちろん嫌いな奴だったら、この世から抹殺してるんだけど、これから仲良く勉学に励む仲だからそんなことはしたくない。
「さぁ、ウィルくぅ〜ん、煮る?焼く?それとも蒸す? 自分のイヌにしてご主人様って呼ばせる? それとも、自分で決めるのがはばかられるのなら、私の研究のペットにしてもいいのよ?」
なにおぞましい事言ってんだこの人。
仮にも教師なのに、立場忘れて楽しんでません?
「せ、先生!?ボクは公爵家の人間ですよ!?」
「公爵家ぇ〜?決闘に負けたザコがうるせぇよ!」
「はぅっ!!!!」
プライドが高いケインくん死んじゃうから止めてあげてね……。
ケインは僕の前で正座すると、手前で両手を付き深々と頭を下げた。
「ウィル・グレイシー、君を軽んじてすまなかった。この通りだ。罰は受ける。しかし──人としての罰を願いたい」
わぉ!ジャパニーズビトクDO☆GE☆ZA☆
この世界でも土下座ってあるんですね。
でも、こんな簡単に土下座をするなんて、プライドが高いと思ったけど、意外と小心者なんですね、ケインくん。
そんな冗談はさておき、僕はケインの前に屈む。
「顔を上げてください。公爵家の人間が軽々とそういう行為をしてはなりません」
彼は頭を上げた。
その目には大粒の涙が流れていた。
もうこれ以上彼が苦しむのは見てられない。
こんな醜態を晒してしまっては、公爵家の名に恥じる。
そろそろ許してあげよう。
こいつの自業自得の自爆だけど。
「許すも何も、僕は君を憎んでないですよ。ただ──同じ公爵家なのに、自身の優越感に浸り、他者を見下すのは頂けないですけどね。でも、僕は君と友達になりたいです。これから一緒に学んでいくのですから」
「うぃ、ウィル……いいのか?このボクを許してくれるのか?」
「だから怒ってないですって。友達になりましょう」
「あぁ!!君がそう言ってくれるなら、友達でも恋人にでもなろう!!」
「ちょ、恋人は遠慮します……」
「これからよろしくな、ウィル・グレイシー。だが、次は負けないからな」
「うん、よろしくね、ケイン・スミス。僕も負けるつもりはないよ」
僕とケインは厚い握手を交わした。
これが後に希代の軍師──ケイン・スミスとなる事を、この時の僕はまだ知らない。
トゥルメリア城某所──
「お待ちしておりました、グレイシー様」
「あぁ。ここにはあまり来たくはないんだがな」
深々と頭を下げる、黒くシワのないタキシードを着た執事。
年齢は50才程度だろうか、身なりから相当有能そうな気配がする。
その執事の言葉に呼応するように、ゲートから出てきたのは、ウィルの父、ダグラス・グレイシーだ。
彼はこの国の国防を任されてる、グレイシー公爵家の当主である。
ここトゥルメリア王城は、各公爵家邸宅と直通するゲートがあり、何日もかけなくても直ぐに登城することが出来る。原理は不明だ。
「国王様がお待ちしております。さ、こちらへ」
「わかった。──しかし、こんな時に私を呼び出すなど、国王も暇だな」
「そんなこと仰らずに。ですが──この謁見はご内密にとのことです。よろしいですか、グレイシー様」
「わかってるさ。てかよ、昔みたいにダグラスでいいっての。お前が堅苦しい言葉遣いしてると気が狂うわ」
「何をおっしゃいます。今はもう立場も身分もちがうのですよ。6家の人間なんですから立場を弁えてもらいたいものですね」
「へいへい。そういう事言ってるお前が一番言葉にトゲがあるけどな」
そんなこんなで2人はやり取りしていると、あっという間に国王が居る応接室に到着した。
執事はノックを3回する。
「国王様──お客様が参られました」
「ご苦労、入れ」
「失礼します」
入室の許可が下りると、執事はドアを開けダグラスは中に入っていく。
中に入るとソファに腰掛けた国王が紅茶の入っているマグカップを片手に匂いを楽しんでいた。
「国防省国防軍総司令、ダグラス・グレイシー今参上しました」
「悪いなダグラス。どうぞ掛けてくれ」
「では、失礼します」
ダグラスが対峙して座っているのは、トゥルメリア王国国王、ジェフリー・トゥルメリア。
この国のトップであり象徴でもある人だ。
執事がドアを閉めると、ジェフリーは、すぐさま──魔法を展開した。
「親愛なる光の神よ、我が言の葉の願いを聞き光の加護を。シャットアウト」
シャットアウトは神聖魔法のひとつで、自身から半径10メートル圏内の空間の音を外部から遮断する魔法である。
「ここまでするもんかね、ジェフ」
「仕方ないだろう。どこで誰が聞いてるのかわからないからな。ノーン、君も座れ」
「いえ、陛下。わたくしはここで参加させていただきます」
「だからよ!ノーマン!今は俺らしか居ねえんだからその堅苦しい言葉遣いやめろよ。俺ら3人の仲だろ」
「いえ、ですので──」
「──もう良い。ノーンがそこまで言うのじゃ。それより、奴らの動きはどうなっておる」
「あぁ──あいつら、やはりこちらの動きに勘づいてるな。15年前の事が明るみになったら、俺たちはひとたまりもない」
「それを引き合いに出して、王権派は瓦解の一歩を辿ります。ですが──定期的にコンタクトを図って情報の共有は怠っておりません」
「しかし──彼と接触したそうじゃないか」
「えぇ、ですが──余計な情報は与えず退散したと報告があります」
「あいつはつくづく勘のいい奴だからな。打倒派が動けば、遠からずこの事に気付くだろうよ」
「ですが、学院内には打倒派の人間も居ます。彼の監視をそこまで強く──」
「──大丈夫だよノーマン。そこは俺の秘蔵部隊を配置してる。現にあいつの担任はあのアンジェだ」
「アンジェラか。それなら安心して彼を監視できるな」
「だから安心しろジェフ。お前の息子と娘は、必ず俺たちが守ってやるから」
「申し訳ない。ダグ、ノーン……」
「昔のあだ名で呼ぶな。痒くなる」
国王は大粒の涙を拭くと、また紅茶の香りを楽しんだ──




