表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生して貴族になった僕は、どうやら最強チートを手に入れて人生イージーモードみたいです  作者: リオン
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/17

2.トゥルメリア魔法学院

魔法学院の入試試験から半月が経ち、僕は晴れて王立トゥルメリア魔法学院の生徒になる。

白を基調としたブレザーは襟の部分を沿うように金色の刺繍が施されている。

ネクタイは紅で真ん中には院章がある。

いかにも、エリートが通う学校の制服だ。

この学校に通うっていうことは、アリスとシノもこの学校に通うということになる。

僕は既に学校に着いていてクラス発表されるまで待っているのだが、なんとなくアリス会うのは気まづい。


「私を、ウィル様の許嫁にしてくだはひ!!」


あの後、恥ずかしくなったアリスはその場から走り去ったんだっけ。

結局のところ返答すらさせて貰えないまま、会う機会も無いし、ここまでずるずる来てしまったって感じだ。

でも許嫁ねぇ……。

その場で精神干渉魔法で彼女の記憶を探る事もできたのだが、プライバシーは尊重するべきだ。やめておのう。

どういう意図があって許嫁立候補したのか分からないが、初対面の人にあんなことを言うなんて、よっぽどの事が無い限り有り得ないものだ。

これは裏があるに違いない。

でも僕から聞くのは野暮なので、彼女が話してくれる時を待とう。

あ、ちなみに精神干渉魔法は禁術指定されてるから、普通の人は扱えないよ。


そんなこんなで考え事をしていると、クラス表が大広場に掲示された。

俺の名前、俺の名前……あった。

良かった、Aクラスだ。

まああれだけ派手にやったらAクラスは間違いないけどね。

ちなみにAクラスは入試で成績上位12名が入れるエリートクラスだ。

もちろん貴族だからといって絶対にAクラスに入れる保証はない。

成績が悪ければ問答無用でそこからあぶれることだってあるのだ。


「おーっす!ウィル!あんた早いねぇ!」


「あ、シノ。おはよ」


「おはよ!んで、アタシは何クラスだ?やった!Aクラスじゃん!」


「Aクラスおめでとう」


「ありがとっ!」


シノは居るけど、アリスとは常に行動を共にするんじゃないんだな。

周りを見渡してもアリスの存在を視認できない。


「なあ、シノ。アリスは?」


「え? あれ? アリス居ないじゃん!今日一緒に来てたのに」


ん? どういうことだ?

シノが言うにはさっきまでアリスと一緒に登校して来たらしい。

だが、気づいたらアリスが居ない。

何かトラブルに巻き込まれた可能性がある。

とりあえずアリスを探さねば。


「シノ、こっち来て」


「え? あ、うん!」


俺は人気のない場所に身を移した。

心配そうにシノは見つめるが俺は目をつぶって集中する。


「空間魔法」


「わあ、無詠唱。まじか」


空間魔法は誰でも扱える魔法だが、索敵範囲は鍛錬を積まないと距離は伸びない。

こんな僕でも空間魔法はせいぜい500メートルは限界だ。

そしてこの空間魔法は人の判別は魔力の色で判断できるのだ。

僕の場合はほぼ全ての属性を扱える為、何色か分からないが、大体の人は色で判別できる。

例えば、スレブだったら水属性なので青色。

父さんは炎魔法を使うので紅など、色での判別が可能なのだ。

だが今日は入学式だ。ただでさえたくさんの学生の往来が激しいくて、いくつもの色が点在している。

半径100メートルでは判別が難しい。

しかし、索敵範囲を広げても人の反応が増えるだけだ。

仕方ないあの魔法を使うしかないか──


「シノ、アリスから貰ったものでもなんでも良い。何か持ってないか?」


「アリスから貰ったもの? んー、これならあるけど……」


「悪い、少し借りるよ」


「別に良いけど、何に使うの?」


「見れば分かる──」


──僕はシノがつけていた星型の髪飾りを受け取ると、そこに魔力を注ぎ込む。


「追跡魔法、シーカー」


そう魔法の名を唱えると、髪飾りは宙に舞い追跡を始めた。

この追跡魔法は対象物に魔力を流し込むと、その対象物を触った者の追跡を行うことができる。

1人しか触れたことのない物であれば簡単に追跡できるが、複数の人間が触れた物だと、追跡したい人物の顔を思い浮かべなきゃいけない、少々厄介な魔法だ。

しかも、並の人間だと膨大な魔力を必要とするので、おいそれと使える魔法ではない。


僕とシノは髪飾りの後に着いていく。

すると髪飾りは路地裏に入っていった。

路地裏に入ってすぐ、見覚えのある女の子と黒い外套がいとうを着た人物がやり取りしていた。

しかし──女の子は困惑の表情を浮かべてるし、何やら言い争っている。

僕は直ぐに彼女の元に向かった。


「──アリス!!」


「ウィル様!!」


アリスは僕に気づくと、咄嗟に僕の後ろに隠れた。


「彼女に御用ですか? 何やら言い争っていましたが」


「………………ったく、飛んだ邪魔が入ったな」


男の声。

だが──男はローブを外そうとしない。

寧ろ、懐から短刀を取り出したではないか。

僕も咄嗟に臨戦態勢に入る。


「邪魔とは?あなたは一体何者なんです?」


「君には関係ない事だ」


「関係あります。友達が見知らぬ人と言い争ってたら助けるのが当たり前でしょう」


「見知らぬ人ねえ。……まあいい。あまりこういうことはしたくないんだがね、これでは分が悪い。今日は引かせて貰うよ」


そういうと男は助走も無しに高く飛び──建物の上に消えて行った。

しかし──なんだったんだ?

僕がここに来た途端、すぐに撤退するなんて……。

短刀と取り出したのは恐らく──追って来たら殺す……そういう意味合いだったのだろう。


「もお!アリス!!無事だった???」


「うん、大丈夫……」


「でも、なんで正体の分からない男と言い争ってたんだ? 何かに巻き込まれてるのか?」


「え、あ、その……なんでもない。心配しないで」


それは無理な話だ。

現にアリスは男と言い争っていたし、相手は武装していた。

なんなら──すぐアリスを殺せた。

あの男の身体能力を考えれば造作でもない。

だがあの外套──どこかで見た気がする。

肝心なとこで思い出せないのが痛い話だが、なによりアリスが無事ならそれで良かった。

これは暫く警戒が必要だな。


「そろそろ学校行こ?遅刻しちゃう」


アリスはそういうと、学校に向かうべく歩いていく。

間違いない──彼女は何かを隠している。

あの動揺した表情に荒い息遣い、相当な緊張をしていたに違いない。

けどこれ以上の詮索は無理だ。

僕は周囲を警戒しながら再び学校に向かった──



------------------


トゥルメリア魔法学院

トゥルメリア王国が運営する、最高峰の魔法学院。

トゥルメリア全土から集まったエリート中のエリートの若い男女が、己の魔法を磨き研鑽を積み、未来へ羽ばたいていく、栄えある教育機関である。

卒業後は捜査官、日本で言う警察。政治に携わる官僚、元老院議員など国家の中枢を担う職に就くのが殆どだ。

僕みたいな貴族の出は卒業後は親の仕事を世襲していくのが決まってるけど、たまに世襲せず己の道をすすんでしまう人も居るみたい。

転生する前日本にいた頃は、親の仕事を継いで生業にしていくなんてごく限られた人たちだったし、自分の道を進むってのは当たり前のことだった。

僕も転生前は一般企業に勤める社会人だったし、両親は共に小学校の教師だったから、それこそあなたも公務員って言われてたな。

でもこの世界は決められたレールの上をしっかり歩いて人生を全うするってのが当たり前な考えだ。

階級や身分が存在する封建社会だし個人の自由など二の次だ。

そんな窮屈な世界に転生し、ウィル・グレイシーとして生きていくんだから、おそらくこの人生は退屈はしないのだろう。


「ウィル様? どうなされました?」


「えっ!? あ、いや!なんでもない!」


アリスが不思議そうに僕の顔を覗き込んでくる。

宝石のように綺麗な瞳に純粋無垢な表情。

──かわいい!!!!


「あ、ウィル、もしかしてアリスに見惚れてたでしょ??」


「み、見惚れてないよ!」


「どうかなぁ〜。付随してかわいいってのは激しく同意してあげる。でもあんたってほんと分かりやすいよね」


俺の心を見透かしたかのように聞いてくるシノ。

ニヤニヤとした表情で聞いてくる辺り、僕って意外と顔に出やすいのか??


「シノちゃんが何の話をしてるのかわかんないけど、3人一緒にAクラスになれるのは嬉しいですね。2人ともよろしくお願いします」


「まあ、アタシがAクラスに入れるって自信なかったから正直驚いてるけど、とりあえずよろしく」


「そうだね、これから卒業までよろしくな」


「はい!ウィル様!」


その純粋無垢の笑顔、癒されるなぁ⋯⋯。

エリートが集う場所だから、もっと殺伐としたメガネクイクイくんがたくさんいるとこだと思ってたけど、厳格だけが独り歩きして、実際はもっとラフなそんな学院なのかもしれないな。


「時にウィル。ずっと聞きたかったんだけど、あんた詠唱破棄して魔法を発動させてるけど、一体どういう原理なの?」


「あ、それ!私も気になりました!ウィル様どう発動なされてるのですか?」


「あぁ、詠唱破棄は特別そんな難しいものでもないんだ。自分の思い描いた魔法をイメージして、そのイメージを手のひらに顕現させる。そんな感じかな」


2人の顔が何言ってんだこいつ?となっているのは、全くイメージがつかなく、理解できていないことなのだろう。

まぁ、少し説明が抽象的なのは申し訳ないが、無詠唱で魔法を繰り出すにはイメージの鍛錬が必要となる。

現に僕も無詠唱で魔法を繰り出せるようになったのは、練習を開始して半年経ってからだ。

人によっては年単位で鍛錬が必要なことだってあるし、魔法の極地に至り、加護を得なければならない。

でもさ──元々加護与えられてた場合どうしたらいいの!?!?

極地ってなに!?!?

僕にも分からないことはたくさんあるんですよ!!


「まあ、2人も加護を得ればそのうち出来るようになるよ」


「加護ねぇ。何年後になることやら」


「一生得られないことだってありますしね。それでも、私頑張ります」


「お、アリスすごいやる気じゃん!もしかして、本気でウィルの許嫁狙ってるぅ??」


「そそそそそ、そんな!!私は!!シノちゃん、変なこと言わないで!!」


アリスが顔を真っ赤にしながら弁明しているが、本当に2人は仲がいいんだな。

うん、2人の百合の花園は僕が守らないと。

でも、許嫁になってほしいって言葉本当になんだったのだろう。

ここで聞いてもいいのだが、周りに人がたくさんいるし、俺たちは貴族で、公爵家の人間でもある。

そこを気にせず大衆の前で口に出してしまえば、それを聞いた人達が噂を流し、仕舞いにはありもしないことに歪曲され噂が流れてしまう。

今日のローブの男といい、アリスの許嫁といい、裏には何かある。

慎重にことを進めていかないと。


そんなことを考えながら、教室に着いた僕たち。

僕たち以外の人達は既に揃っていて、談笑をしていた。

僕たちが教室に入ると、視線が一気にこちらに向く。

ちょっと嫌かも……。

そして1人の男が僕たちに近付いてきた。


「お前がウィル・グレイシーか。戦鬼せんき、ダグラス・グレイシーの嫡男」


紅色の瞳に金髪ロン毛、180センチくらいあるだろう高身長でスタイルの良い男は僕を嘲笑うような顔で詰め寄って来る。

紫の瞳に黒髪で身長が170センチ前後しかない僕に比べたら、都会の貴族は彼で、田舎の貴族は僕になるのか?いや、だから辺境伯って言われるのか!?

見た目で舐められてる!?

別に羨ましくないし!見上げるのにちょっと首が疲れるなって思うぐらいだし!!


しかし──なぜこいつが父さんの二つ名を?

父さん、ダグラス・グレイシーは、戦鬼という二つ名を持っている。

公爵家で軍総司令官であるのにも関わらず、戦場には最前線で単身1番に身を乗り出し多くの敵や魔物を、ほふって来た。

その勇猛果敢な姿から、人々は父さんの事を戦鬼と呼び始めたのだ。


「あんた何者だよ。良くボクのことをご存知で」


「そりゃあもちろんさ!なんてたって僕はスーパーエリート貴族のケイン・スミスだからね」


「マジかよ、あのスミス家かよ」


横にいたシノが嫌そうな顔をしている。

隣にいたアリスは強ばった顔をしていた。

どうやら2人には因縁がありそうだ。


「いい?ウィル。あのケイン・スミスってやつ、スミス公爵家の跡取りで、スミス家は王家の後見人を務める大側近の公爵家だ。あいつに目をつけられたらグレイシーでも終わるよ」


スミス公爵家。

シリカからの説明があった通りだが、トゥルメリア王家の後見人であり、王家に関する執務を一手に請負い、かつ、公爵6家を束ねる存在でもあるのだ。言わば、公爵家の中でも絶対的な権力を誇り、他の公爵家が粗相を犯せば、爵位剥奪、領地没収。最悪奴隷落ちまで有り得る。


「そんなスーパーエリート貴族のケイン・スミスくんが、僕になんの用だい?」


「おっと、そんな強ばった顔をしないでくれ、ほんの挨拶だよ。君とは仲良くしたいからね。なにせ入試で規格外の力を見せつけて、首席で合格した逸材だからね」


「ウィル様首席合格なの?す、すごい……でも、あの能力だったら納得する。うん」


「やっぱ規格外、すげぇ」


合格の通知を受け取った際には書面で、『尚、貴殿は首席で合格されましたので、入学式には新入生代表として、登壇して頂きます』と、記されていた。

周りに言ってなかったこともあるので驚かれるのも仕方ないが、ちょっとこそばゆいのは否めない。


「さて、ウィル。ボクはいささか疑問に思っている。一介の公爵家であるキミが、なぜそんな強大な力を保有しているのかを」


「なぜって、俺は小さい頃から魔法の文献に10歳までに魔力量の鍛錬をしないと、そこで成長が止まるって書いてあったから、ずっと練習してただけだよ」


「ほう、それは間違いではないのだが、ここに居る貴族連中は皆やっていることだ。しかし、キミは桁外れに膨大な魔力量を有してる」


「なにが言いたい」


ケインはサラッと髪をかきあげ、自信満々に言い放った。


「なら言わせて貰おう。キミが保有している魔力量、なのにそれに見合わぬ人の姿をしているが、本当はキミ、魔族なんだろ?」


教室中が戦慄を走った。

隣に居るアリスとシノも身を強ばらせ一歩引いた。

ん?待て。僕が魔族?

それは有り得ない。

何故なら、僕は神聖魔法が使えるからだ。

魔族には神聖魔法は扱えないし、逆に闇魔法に精通している。

僕も闇魔法を使えないことはないが、闇魔法を使うと魔族と勘違いされるし、代償を伴うから使わないようにしている。

でもそんな根拠の無いことをペラペラと良く言えたものだ。

少しイタズラでもするか


「僕が魔族だったらどうするんだ?」


僕は右手に闇魔法を顕現させる。

紫色の火球、グツグツと音をたてていた。

それを見て、周りの人たちは更に後退りする。


「ウィル、あんたまさか──」


「ウィル様──そんなこと、ないですよね?」


「ハハハッ!!やはりそうか!!ウィル、キミはやっぱり魔族だったか!!」


だが、僕は火球を消し払った

さすがにこれ以上はやりすぎだ。


「なわけあるかよ。僕の手を見ろ」


僕は皆の前に手を出した。

僕の右手は闇魔法の影響で焼けただれている。

結構ガチで痛いよ。


「ねえ、アリス。闇魔法の性質って知ってる?」


「はい、闇魔法は主に魔族が使う魔法で、人間が使うと皮膚はただれ、最悪の場合、使用した当人が闇に飲まれ魔獣化する恐ろしい魔法です」


「でもウィルは闇魔法を使ったが、その代償に右手の皮膚が焼けただれた。──ってことは!」


「そう、僕は魔族でもなんでもない、ただの人間だよ。魔法の知識を得るために、勉強の一環で習得したけど、毎回こうなるから使いたくないんだ」


「なんだよウィル〜、勘違いさせんなって……アタシ、マァジで魔族かと思ったよ」


ホッと胸を撫で下ろすシノ。

アリスも安堵の表情を浮かべてる。

しかし──ケインだけは違った。


「貴様──このボクを、この高貴なるケイン・スミスを愚弄したなっ!!!」


「ま、まぁ、凄くトンチンカンなことを言ってるから、面白くなってしまってからかってしまったというかなんというか……」


「き、貴様!!6家風情がこのボクを!!まぁ良いだろう、ボクは貴様に決闘を申し込む」


そういうとケインは、手に嵌めていた手袋を僕の前に投げ捨てた。

これは決闘を申し込む合図みたいなもので、それを拾った者は決闘を承諾したことになる。

仲良くしたいって言ったのはそっちなのに決闘だなんて、飛んだ手のひら返しだ。


「拾えウィル。公爵家筆頭として、君には制裁を加えねばならない」


理不尽極まりないのだが、仕方ないよね。

僕自身が撒いてしまった種なわけだし、ここは素直に決闘に応じて白黒付けるしかない。

恐らく楽勝だけど。

僕はケインの手袋を拾った。


「その勇敢さには評価してやろう。たが、ウィル・グレイシー、貴様はきっと後悔するであろう。貴様のその不遜な態度が、この僕を怒らせたことに」


ケインがそういうとチャイムが鳴り、入学式のために僕たちは大講堂に向かった。

入学式はすんなりと終わり、また教室に向かった僕たちなのだが、ケインの睨む顔はずっと僕に向けられたままだった。



-------------



「さて、今日からお前らの担任を務める、美人でナイスバディで知的な、アンジェラ・カリオペだ!得意な属性は全部、多少なら神聖魔法も扱えるぞ!」


教室に戻った僕たちは、今日からお世話になるアンジェラ先生が教壇に立って挨拶をしていた。

金髪で色白で緑色の瞳。身長は僕と同じくらいだろうか、出ているところは出ていて、引っ込んでいる所は引っ込んでいる。

そして、なんと言っても尖った耳が特徴的なのは、彼女がエルフだからだ。

この世界にもエルフや他の種族が存在しているのは知っていたが、まさか共生してたなんて驚きだ。

他にもドワーフ、竜人族、獣人族、そして魔族と細分化すればもっと多く種族が存在する

中でも人間以外の種族は寿命が長命で、エルフ族に関しては1000年以上生きるんだとか。

でも普通、各種族は種族同士でのコミュニティを形成していて、他種族に対し排外的になってしまうのだが、アンジェラ先生はなんで教鞭を執っているのだろう。

しかも、国が運営する魔法学院に。


──すると、シノがすっと手を挙げた。


「先生!質問いいっスか?」


「あら、シノちゃん。どうぞ。それと、私のことはお姉ちゃんって呼んでいいわよ」


「へへっ……それはいいっス……」


あからさまな引きつった顔で拒否するシノ。

一つ咳払いをして口を開いた。


「アンジェ先生はエルフっすよね?なんで人間の住む国で、しかも、国立の魔法学院で先生やってるんすか?」


おお!僕が聞きたいことを!

シノは気になったら質問せずにはいられない性分だからな。

こういうセンシティブな所を躊躇なく聞けるのは、彼女の長所でもある。

僕も見習わないと。


「まあ、その質問が来るのは妥当よね。そう、私はエルフよ。それも500年は生きてるわ」


500年!?!?

凄く長生きしてますね……。

この世界の人間の寿命が大体60歳だから……まだにじゅう……


「こらそこ!人間換算で年齢を算出しない!!」


僕の目の前にいきなりアイスランスが飛んでくる。

咄嗟にバリアを張って対処したが、アンジェラ先生は軽く舌打ちをした。


「その歳で無詠唱で雷魔法を使うなんて、あなたやるわね。噂の天才、ウィル・グレイシーくんかしら?」


「いやぁ、天才だなんて、僕はただ努力しかしてませんよ〜」


「ヘラヘラするのはあなたのキャラじゃないでしょ?ウィル、あなた、この教室で闇魔法を使ったわね?」


なんでそれを──?

あの後、闇魔法の痕跡は辿れないレベルで消したはず──

さすが、500年も生きてる……お姉さんだ。


「500年も生きてる……なに?ウィル」


心が読まれてるだと?

まさか──この人のユニークスキルって、読心術なのか?


「ご名答ウィル。これがユニークスキルってことまで当てるなんて、本物の天才ね」


「勝手に人の心を読まないでください!プライバシーもあったもんじゃない!」


全くだ。

こんなチートレベルのユニークスキルで心を読まれてみろ?授業が退屈だってバレたら、この人何してくるか分からないぞ。

とりあえず隠匿の魔法を自分に掛けておくか。

隠匿の魔法は神聖魔法だから先生にはバレるけど、表情から察するにこの人は俺が何をしても全部お見通しってことを理解してるから、神聖魔法を隠しても意味が無いだろう。

隠匿の魔法を掛けた瞬間、先生はガックリしたのか、まあいいわと言い、話を戻す。


「私がここで教鞭を取り始めたのは300年前。その頃はもっと、各種族が他種族に対して排外的だったわ。でも、私は人間とエルフの平和的文化交流の為に送り出された使節団みたいなものよ」


歴史の文献で読んだことがある。

領土が隣接する人間とエルフは、その当時は争いが絶えなかったらしいのだが、その時に魔族が侵攻してきて共闘する為に和平を結んだらしい。

魔族の侵攻は一時的だったものの、魔族の力は強大だったらしく、魔族に対抗する為、人間とエルフの同盟関係が成立したとかなんとか。

でもそこに使節団の記載は無かったのを覚えている。


「もちろん、未だにエルフの中では人間と交流するのを中止すべきって言うおじいちゃんおばあちゃんもいるけど、それよりも魔族の力は強大で、とてもじゃないけど片方の種族だけで太刀打ちできるような相手ではないわ」


そうだ──

魔族の力は例えると、魔族1人に対し練兵された人間10人で戦えるか否かの戦力差だ。

これが魔族1万の軍勢で攻めて来てみろ?

人間だけでは本当に太刀打ち──って!!!


「先生!!また人の心を読んで話をしないでください!!なんで僕なんですか!!」


おかしい──

隠匿の魔法を使ったのに、この人は簡単に解除して僕の心を読んできた。

隠匿の魔法は簡単に解ける魔法ではないし、前述の通り、神聖魔法の類だ。

少し神聖魔法が使えるアンジェラ先生だからと言って、こうもいとも容易く解除されると、為す術がない。


「だってぇ〜、心の扉を閉じてしまった生徒の心を開くのはぁ〜、先生のし・ご・とっ!」


こいつ、ぶっ飛ばしていいか

今なら許されるだろうな


「歴史の授業はさておき、あなたたちはトゥルメリア魔法学院のエリートクラスに入れたわけだけど、もちろん、前期の成績が悪ければ、即刻下のクラスに落ちることになるわ」


先程のふざけたやり取りとは売って代わり、アンジェラ先生の目は真剣だ。

その目は、エリートクラスになったからと言って、驕るな、勉学に励み努力を続けろ。そう言われてるみたいだった。

ここに居れば、貴族だろうが実力がある一般学生だろうが、ここでは平等だ。

地位も権力もここでは無意味。


「てことで、明日から授業が始まるわけだけれども、その前に、このクラスで起きたわだかまりを清算しておきたいわ」


そういうと、アンジェラ先生はケインに指を指した。

あぁ、入学式前のアレね。

ちゃっかりしてるわね先生。どこで聞いてたのかしら。

家政婦の方も驚きよ。


「なんですかアンジェラ先生。ボクに蟠りなど──」


「あなたとウィル、決闘するんでしょ?」


「なぜそれを──!!」


「だって私ぃ〜、先生だもぉ〜ん。それとこの国を担う未来ある若者たちが己のプライドを賭けて闘うなんて、ロマンがあるじゃない?」


一方的に決闘を申し込まれたので、賭けるプライドはないのだが、これもこれでアンジェラ先生の粋な計らいなのだろう。

要は──事を早めに済ませて、次のステップに行けよ若者たち!時間が惜しい!ってことなのだろう。


「さすが──ウィルは理解が早いわね。さてと、では皆さん、これから演習場に向かいまぁ〜す!」


人の心の声を読むのは本当にやめて欲しい。

やっぱもう一度、隠匿の魔法を掛けておこう。

アンジェラ先生の手のひらが光り輝く。

これは神聖魔法──


「親愛なる光の神よ、我が言の葉の願いを聞き光の加護を。テレポーテーション」


すると──教室中が光に包まれた。

光が収まると、僕たちは先生のいう演習場に到着した。

神聖魔法のテレポーテーションを目の当たりにした他の生徒は目が点になっており、何が起こったのか理解出来ていない様子だった。

まぁ、僕は慣れてるしいつも使ってるから驚かないんだけど。


「今のは神聖魔法、テレポーテーションよ。対象を目的の場所に瞬時に送り届ける魔法で、普通の人じゃまず扱えない魔法ね」


「それでアンジェラ先生、ボクとこの6家風情はどういったルールで戦うんですか?」


「シンプルよ。魔法は禁止」


「お言葉ですが──ここは、魔法学院です!魔法を禁止されたら決闘の意味がない!」


「ルールを尋ねた時点で、意味があるかどうかはあなたが決める事じゃないわ」


「それは──」


「──あなた、ウィルの魔法は規格外よ。そりゃあ、あんな魔法に当てられたら、私ですら木っ端微塵よ?」


それもそうだ。

入試で他の人の魔法レベルを見た限り、僕にとっては赤子が頑張って魔法を捻り出したレベルに過ぎないと感じてしまった。

ケインは貴族で優秀だからある程度は高い魔法レベルだろうけど、アンジェラ先生がそこまで言うなら、魔法を使うのはケインの為ではない。


「では、こうしよう。純粋に剣で戦うのはどうだろうか。これなら自身の力のみで勝負ができると言えよう」


「それなら問題ない。剣戟けんげきには自信がある。こんな6家風情、一瞬で片付けよう」


おぉ、自信に満ち溢れた表情!

若いって無敵だよね。わかるよ、僕も転生前はすんごく強かったんだから!

え?なにがって?

実は転生前の僕は、剣道を嗜んでいて、中学の頃に全国大会に出場してるんだよね。

だから──そこらへんの素人には、おじちゃん負けないよ!

誰がおじちゃんだ。


「僕もそれでいいですよ。魔法に頼らないってのも、案外大事ですからね」


「そうよ。人には魔力の限界がある。魔力が枯渇したとき、人が最後に取る手段が剣による白兵戦。普通──魔力が枯渇したら動けないものなんだけど、不思議と人間は動けるのよね」


それは初耳だ。


「では──剣による決闘といこう。ストレージ」


ケインはアイテムボックスから剣を取り出した。

おぉ、アイテムボックスを無詠唱でできるなんて、君は優秀だねぇ!


「こんなもの造作でもない。それに貴様、剣は持っているんだろうな」


「あー、ちょっと待ってて。今作るから」


「作る?なにを言っているんだ」


僕は目を瞑ると、剣をイメージした。

この生成スキルはイメージした物を具現するスキルで、僕のユニークスキルでもある。

複雑な構造の物は作れないが、拳銃、グロック程度なら作れる。

生成が終わると、僕の両手には漆黒の日本刀が生成されていた。

通常の日本刀でないのはちょっと憧れがあったからであって、詮索しないで頂きたい。

人のにはそういう時期もあるってことだ。


「すげぇ──」


「何あの剣、初めて見た!」


「ウィル様、凄い……」


「ウィル!!素晴らしいぞ!こんな東の最果ての国で作られてる剣を生成するなんて!私も現物を見るのは久方ぶりだ!」


この世界には、日本に似た東の最果ての国、サクラ王国という国があるらしい。

元居た世界で例えると江戸時代初期辺りの街並みらしい。

いつかは行ってみたいのだが、そのサクラ王国で作られる刀と酷似しているらしい。


「なぁ、ウィルぅ〜、私も同じやつ欲しいんだが、ちと作ってくれない〜?」


甘えた口調で上目遣いのアンジェラ先生。

なんだか昔飼っていた犬にそっくりだった。

お腹が空くと抱きついてきて、くぅ〜んって鳴くんだっけ。懐かしいな。


「わかりましたよ。後で作りますので下がってください」


「約束だぞ!ウィル!」


そういうと、不服ながらも下がって行く先生。


「そんなか細い刀身で何ができるというのだね。これだから6家風情は身の程を弁えないのだ」


「まあまあ、やって見なきゃわからないよ」


互いに剣と刀を構える僕とケイン。

演習場には独特の雰囲気が流れる。


「それでは──ウィル・グレイシー、ケイン・スミスの決闘を始める。この勝負は魔法は禁止、相手に致命傷を与えるのも禁止。どちらかが行動不能、または降参するまで継続をするものとする!」


「後悔するなよ、ウィル・グレイシー」


「お手柔らかにね、ケイン・スミスくん」


「両者──始めっ!!」


アンジェラ先生の号令に僕とケインは一斉に飛び出した──


剣と刀がぶつかり合う。

さすが王家後見の公爵家の跡取り、名の恥じぬ力強さ。

しかし、僕も負けてはいない。

相手が力で押してくるのなら、こちらは技で勝負だ。

転生前は剣道で日本一も経験したことがあるんだ、間合いの勝負ならこちらに分がある。

僕は一歩引くと、ケインも一歩引いた。


「凄い力だ。さすが公爵家の頂点に立つ家に相応しいかぎりだね」


「今更そんな事に気づいたのかウィル・グレイシー、降参するならまだ間に合うぞ」


「力を認めただけで負けを認めたわけではないよ。ちょっと早とちりしてしまったかい?」


「くっ……。口だけは何とも達者だな。魔法の才があるとも、剣の才はないだろう」


ちょっとプライド傷ついた。

ムカついたので少し本気をだしてみるか。

僕は間合いを少しずつゆっくりと詰めていく。

ケインも間合いを詰められてるのは気づいているだろう。

いつ来るのかと身構えている。

さぁ、君から攻撃してくるといいよ。

その為の間合いを詰めているんだから。

そして、僕が大袈裟に一歩前に足を出した瞬間──


「──ぬかったなっ!!」


彼は僕が油断して前に出たのかと思ったのか──大きく剣を振りかざしてきた。

だが──それを待っていた!!


「ぬかったのは君だよ──」


僕はケインの斬撃をかわすと、胴に横一閃、斬撃を繰り出す。


「なっ──避けられない!!」


僕の斬撃が彼に当たると、ケインは力を無くしたかのように、膝を付いた。

刃抜きはしてるから怪我はしないけど、ちょっとだけ痛いのは我慢してね。


「勝負あっただな。勝者ウィル・グレイシー」


「うっし!」


「ウィル様!お見事です!」


僕は彼女たちの元へ向かうと、万遍の笑みで迎えてくれた。

それにしても呆気ない勝負だったな。

でもあんな大味の振りかぶり方をしたら、僕の斬撃は当たるに決まってる。

剣道でも面を取る瞬間が一番隙が生まれやすい。

そこの隙を突いて胴を取るなんてのは常套じょうとう手段だ。


「それにしても、見たことない剣裁きでしたね。ウィル様、その剣術はどちらで習得されたのですか?」


「あ、いや、その……」


まずいマズイ不味い!

実は転生者で転生する前に剣道という競技を習ってたなんて言えるはずがない!

そりゃ、この世界は転生前の世界で例えるならば、ヨーロッパみたいな剣術スタイルで、もっと分かりやすく言うと、某モンスターハ○ターの片手剣装備の動きに近い。

とりあえずそれと無いことで誤魔化しとくか。


「じ、実は、グレイシー家は色んな人間が集まる性質上

、色んな剣術を指南してくれる方々がいらっしゃるんです!僕にはサクラ王国の剣術が一番合ってまして、それでこのスタイルになったわけです!」


「へぇ、さすが魔法よりも筋肉自慢が集まるグレイシー家だな。色んなもの取り入れてるんだな」


「納得しました!数多のものを取り入れるなんて、素晴らしいお家なのですね!」


あぁ〜……。納得してくれて良かった……。

実際にサクラ王国の剣術指南の方がグレイシー家を尋ねて来た事もあったし、嘘は言ってない。


「なぜっ──なぜ、ボクが負けた……」


負けたことにガクッとうなだれているケイン。

僕たちはケインの元に駆け寄る。


「ボクは圧倒的に強い。負けるはずなんて無かったんだ。なら──どうして、どうして?」


「そんな自分を責めて──」


「──うるさい!!君に負けるなんて有り得なかった!そうやって敗者に情けをかけて、君はよっぽどボクをバカにしたいようだな!!」


「そ、そんなこと──」


「──よせ、ウィル。ここは私の役回りだ」


そういうと、アンジェラ先生はケインに詰め寄る。


「いいか、ケイン。力が強い弱いの世界の話じゃないんだ。君が負けたのは、自分自身が心に持っている傲慢さ、奢りのせいだ。君は自らの力を過信し油断して負けた。それだけのことよ」


「先生……俺も、強くなれますか……」


「あら!もっと反抗してくると思ったけど、案外素直に聞き入れる子なのね。大丈夫──強くなりたい、誰かを守りたいって思ってる人は、きっと強くなるわ」


「先生……」


うんうん。良い生徒と教師って感じで感動するねぇ。

僕、こういうのに弱いんだよね。

身体は子供でも、中身はアラサーのお兄さんだからね。

おい、誰だおじさんって言ったやつ。

アラサーはまだお兄さんだ!!


「それはそれ、これはこれなので……」


「先生?なんですか?」


「さーて、ケイン・スミスくん!君は決闘に敗北しました!君の生殺与奪の権利はウィルくんが握ってるんだけどぉ〜、どうするぅ〜?ウィルくん」


そういえば──この世界の決闘って勝者が敗者に命令を下せるんだっけ。

もちろん嫌いな奴だったら、この世から抹殺してるんだけど、これから仲良く勉学に励む仲だからそんなことはしたくない。


「さぁ、ウィルくぅ〜ん、煮る?焼く?それとも蒸す? 自分のイヌにしてご主人様って呼ばせる? それとも、自分で決めるのがはばかられるのなら、私の研究のペットにしてもいいのよ?」


なにおぞましい事言ってんだこの人。

仮にも教師なのに、立場忘れて楽しんでません?


「せ、先生!?ボクは公爵家の人間ですよ!?」


「公爵家ぇ〜?決闘に負けたザコがうるせぇよ!」


「はぅっ!!!!」


プライドが高いケインくん死んじゃうから止めてあげてね……。

ケインは僕の前で正座すると、手前で両手を付き深々と頭を下げた。


「ウィル・グレイシー、君を軽んじてすまなかった。この通りだ。罰は受ける。しかし──人としての罰を願いたい」


わぉ!ジャパニーズビトクDO☆GE☆ZA☆

この世界でも土下座ってあるんですね。

でも、こんな簡単に土下座をするなんて、プライドが高いと思ったけど、意外と小心者なんですね、ケインくん。

そんな冗談はさておき、僕はケインの前に屈む。


「顔を上げてください。公爵家の人間が軽々とそういう行為をしてはなりません」


彼は頭を上げた。

その目には大粒の涙が流れていた。

もうこれ以上彼が苦しむのは見てられない。

こんな醜態を晒してしまっては、公爵家の名に恥じる。

そろそろ許してあげよう。

こいつの自業自得の自爆だけど。


「許すも何も、僕は君を憎んでないですよ。ただ──同じ公爵家なのに、自身の優越感に浸り、他者を見下すのは頂けないですけどね。でも、僕は君と友達になりたいです。これから一緒に学んでいくのですから」


「うぃ、ウィル……いいのか?このボクを許してくれるのか?」


「だから怒ってないですって。友達になりましょう」


「あぁ!!君がそう言ってくれるなら、友達でも恋人にでもなろう!!」


「ちょ、恋人は遠慮します……」


「これからよろしくな、ウィル・グレイシー」


「うん、よろしくね、ケイン・スミス」


僕とケインは厚い握手を交わした。

これが後に希代の軍師──ケイン・スミスとなる事を、この時の僕はまだ知らない。




トゥルメリア城某所──


「お待ちしておりました、グレイシー様」


「あぁ。ここにはあまり来たくはないんだがな」


深々と頭を下げる、黒くシワのないタキシードを着た執事。

年齢は50才程度だろうか、身なりから相当有能そうな気配がする。

その執事の言葉に呼応するように、ゲートから出てきたのは、ウィルの父、ダグラス・グレイシーだ。

彼はこの国の国防を任されてる、グレイシー公爵家の当主である。


ここトゥルメリア王城は、各公爵家邸宅と直通するゲートがあり、何日もかけなくても直ぐに登城することが出来る。原理は不明だ。


「国王様がお待ちしております。さ、こちらへ」


「わかった。──しかし、こんな時に私を呼び出すなど、国王も暇だな」


「そんなこと仰らずに。ですが──この謁見はご内密にとのことです。よろしいですか、グレイシー様」


「わかってるさ。てかよ、昔みたいにダグラスでいいっての。お前が堅苦しい言葉遣いしてると気が狂うわ」


「何をおっしゃいます。今はもう立場も身分もちがうのですよ。6家の人間なんですから立場を弁えてもらいたいものですね」


「へいへい。そういう事言ってるお前が一番言葉にトゲがあるけどな」


そんなこんなで2人はやり取りしていると、あっという間に国王が居る応接室に到着した。

執事はノックを3回する。


「国王様──お客様が参られました」


「ご苦労、入れ」


「失礼します」


入室の許可が下りると、執事はドアを開けダグラスは中に入っていく。

中に入るとソファに腰掛けた国王が紅茶の入っているマグカップを片手に匂いを楽しんでいた。


「国防省国防軍総司令、ダグラス・グレイシー今参上しました」


「悪いなダグラス。どうぞ掛けてくれ」


「では、失礼します」


ダグラスが対峙して座っているのは、トゥルメリア王国国王、ジェフリー・トゥルメリア。

この国のトップであり象徴でもある人だ。

執事がドアを閉めると、ジェフリーは、すぐさま──魔法を展開した。


「親愛なる光の神よ、我が言の葉の願いを聞き光の加護を。シャットアウト」


シャットアウトは神聖魔法のひとつで、自身から半径10メートル圏内の空間の音を外部から遮断する魔法である。


「ここまでするもんかね、ジェフ」


「仕方ないだろう。どこで誰が聞いてるのかわからないからな。ノーン、君も座れ」


「いえ、陛下。わたくしはここで参加させていただきます」


「だからよ!ノーマン!今は俺らしか居ねえんだからその堅苦しい言葉遣いやめろよ。俺ら3人の仲だろ」


「いえ、ですので──」


「──もう良い。ノーンがそこまで言うのじゃ。それより、奴らの動きはどうなっておる」


「あぁ──あいつら、やはりこちらの動きに勘づいてるな。15年前の事が明るみになったら、俺たちはひとたまりもない」


「それを引き合いに出して、王権派は瓦解の一歩を辿ります。ですが──定期的にコンタクトを図って情報の共有は怠っておりません」


「しかし──彼と接触したそうじゃないか」


「えぇ、ですが──余計な情報は与えず退散したと報告があります」


「あいつはつくづく勘のいい奴だからな。打倒派が動けば、遠からずこの事に気付くだろうよ」


「ですが、学院内には打倒派の人間も居ます。彼の監視をそこまで強く──」


「──大丈夫だよノーマン。そこは俺の秘蔵部隊を配置してる。現にあいつの担任はあのアンジェだ」


「アンジェラか。それなら安心して彼を監視できるな」


「だから安心しろジェフ。お前の息子と娘は、必ず俺たちが守ってやるから」


「申し訳ない。ダグ、ノーン……」


「昔のあだ名で呼ぶな。痒くなる」


国王は大粒の涙を拭くと、また紅茶の香りを楽しんだ──

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク、評価、レビューお待ちしております✨ X(旧Twitter)もございます!フォローよろしくお願いします! X@rion_novel09
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ