国王としての器③
ぼやけた視界がハッキリすると、僕たちは元の居た場所に戻っていた。
目の前には大結界装置があり、何事もなく正常に作動している。
「ウィル様、大丈夫でしたか?」
心配そうにシェナが寄ってきた。
シェナは魔族の血を持っているので、あの場には来られなかった。
もちろん──誰と会っていたかも分からない。
「大丈夫だよ」
「いきなりウィル様たちが目を瞑ったまま立っているので心配してましたが、お変わりがないのなら安心しました」
「心配かけてごめんね。──ところでアウナス、どういうことか説明してもらおうか」
仮にあの場が神域の世界だとしよう。
神が居る世界に悪魔であるアウナスは、メヒアに呼ばれてあの場にやって来た。
本来ならば悪魔でもあの場に居ることは出来ないだろうし、シェナが行けないのに、アウナスが行けるのは不自然すぎる。
「やっぱ見逃してくれねえよな」
「当たり前だ。説明しろ」
「分かってるよ。いいか──俺はもう悪魔じゃねえ。父上の慈悲のお陰で天使に戻ったんだ。だからあの場にやって来れた。それ以上の説明がいるか?」
言葉だけなら納得できるだろう。
だが──天使なら、この装置に爆弾を仕掛ける必要性など無かったはずだ。
言ってることとやってることが矛盾している。
僕はアウナスを信用できない。
「なら──どうして爆弾を設置した。天使ならやる必要性などなかったはずだ」
「これには深い事情があるんだよ。あのな、もしお前がルシフェルに殺されて器を奪われたらどうなると思う?」
「それは────」
この世界に厄災が降り注ぎ、この世界に住まう生物はみんな死んでしまう。
生き残ったとしても、天使との最終戦争に巻き込まれて、もっと生き残る可能性は低くなる。
「粗方お前が想像してることが正解だとしよう。俺はもしものことを想定して、ルシフェルもろとも消滅させられるよう爆弾を仕掛けたんだ」
「幸いなことに、ウィルは相手の手に渡らなかったってことじゃな」
「ご名答。爆発させる理由もなくなったから解除したってわけ。これも全部父上の命令だ」
だとしても──僕は納得できない。
もちろんルシフェルに器を奪われるつもりは無い。
でも──メヒアは僕が負けると想定していた。
というより、リスクヘッジの為に対策をしていたが正しい。
メヒアが言うように、僕はまだルシフェルに勝てる力がないってことなのか──
「俺だってこの世界がルシフェルの都合のいい世界になるのは嫌だぜ? あいつは大の人間嫌いだからな」
「しかし──何故、僕を殺さなかったんだろう。1000年ぶりに目覚めたとしても、簡単に僕を殺せたはずだ」
「これは俺の推測だが、アイツはまだ完全に力を取り戻してない。何度も自分の手の感触を確かめてただろ?」
確かに、ルシフェルは何度も自分の手の感触を確かめていた。
そうだとすれば、本人が言ったように、今回は腕試しだということは納得できる。
けど、クラウリーは本気で器を奪おうとしていたのには変わりないだろう。
「さて────俺の仕事は終わったし、ここで退散させて頂くよ。なんかあったらお前の前に現れる。それまで死ぬんじゃねえぞ」
「ちょ────ッ!! …………なんだよ、まだ聞きたいことがあったのに」
アウナスは忽然と姿を消した。
まさか──悪魔だったアウナスが天使だったなんて驚きだ。
しかも僕たちの敵ではなく味方でもある。
彼の力は未知数だけど。
今日は色々あって疲れた。
モーガンのクーデターを止めて、この国が滅亡する危機も乗り越えた。
メヒアにも再開して次やることも決まった。
けど──やはり心に引っかかるのは、ルシフェルの復活。
彼が何を考えているのか全くわからない。
僕と相対している時は多くを語らなかった。
どうすれば、彼に勝てる────
それから月日は流れ──
この国は優秀な職人が多いのか、復興はすぐに終わった。
ボロボロだった謁見の間も元通りになっていたし、街も前より綺麗になっていた。
この間まで戦場になったいたことも忘れ去られるくらいに。
モーガン率いる打倒派は次々と粛清された。
クーデターの主犯格だったレニツァ公爵家は公爵の地位を剥奪され、伯爵まで位を落とした。
本当だったら没落してもおかしくないのだが、スレブがアリスを助けたことに酌量の余地があるとして、降格処分で許されたのだ。
部下である侯爵家もクーデターに加担していたとして爵位を剥奪され没落した。
新しく財務担当を務める公爵家はまだ決まってないが、それまで商業担当のフローレス公爵家が代理で担当するらしい。
順当にいけば、クーデターには加担せずレニツァ家の部下だったグレイジョイ伯爵家が公爵の位を引き継ぐだろう。
幸いだったのが、王権派だった貴族の人たちは粛清されておらず、地下水路の一室に閉じ込められていたのだ。
解放された時は皆安堵の表情を浮かべ泣いているものも居た。
モーガンも大勢の貴族を粛清したら、もし自分が王に即位した時の国民からの求心力を気にしたのだろう。
王権派の貴族は国民から慕われている側面を併せ持つ。
その貴族が大粛清されたとなれば、逆に自分の立場が危うくなると思った可能性が高い。
とにかく──みんな助かったことに僕は安堵した。
そして──僕はというと。
「お父様、やはり──僕には荷が重いと思います」
「何を言っておる。国王に即位すると言っても、暫くはアリスがこれまで通り代理を務める。お前はルシフェル討伐に専念すればよい」
「そうよ。メヒア様の御前で誓ったのに、今更やっぱなしって出来るわけないわよ」
「だって──この間までグレイシー公爵家のウィルだったんだよ? 事前に発表していたとはいえ、この国の人たちって適応能力高すぎでしょ」
僕は国王即位の式典の為の準備を行っていた。
あのクーデターから翌日、国王陛下であるお父様は国民の前で、僕がトゥルメリア王国の正当なる後継者だと発表した。
ベリアルとの因縁、僕がルシフェルの器であること、厄災を防ぐ為にグレイシー家の人間として育てられたこと。
お父様は全て国民に話した。
話した上で、お父様は国民に頭を下げたのだ。
『ウィルはこの国を、この世界を救う希望である。どうか、ウィルを支えてやってくれ』
僕はその時の光景を絶対に忘れない。
お父様は僕に未来を託したのだ。
それは──ひとつの時代が終わり、ひとつの時代が始まること。
これからこの国を僕は背負っていかなければならないのだ。
ルシフェル討伐の為、暫くは王位はアリスに代理を頼むけど、それでもルシフェルを討伐したその後は、僕は国王に戻らねばならない。
「気が重いよ……」
「覚悟を決めたんでしょ? しっかりしてッ!!」
僕はノエルに背中をバシッと叩かれる。
ノエルって意外と加減をしないから、本当に痛い。
覚悟────か。
「うん、やるしかないよね。ありがとうノエル」
「次女々しいこと言ったら、許さないからね」
「分かってるよ。言わないようにする」
「ほほ、婚姻前に尻に敷かれるウィルを見ると、昔のマーサを思い出すな」
「お父様、僕は尻に敷かれてなどいません!」
「ワシもそうやってお父様に食い下がったものだ」
「さ、ウィル、時間よ」
「あぁ、行ってくる」
「ウィルよ──」
「何でしょう、お父様」
「この国を頼んだぞ」
「────はいッ!!」
僕は国民が待ってる式典会場へと一歩ずつ足を進めた。
「本当に、この世界は退屈しないな」
少しだけ笑みが溢れた──
最後までお読み頂きありがとうございます。
【面白かった】【続きが読みたい】と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
今後のモチベーションにもなりますので、正直な感想のほど、よろしくお願いいたします!
ブックマーク登録とX(旧Twitter)のフォローも併せてよろしくお願いします!




