国王としての器②
「ウィルとジェフリーは目の当たりにしたと思うけど、悪魔たちが呼ぶ【偉大なる御方】、ルシフェルが目覚めた。これは知ってるね」
「あぁ、彼はそう名乗った」
「待って──偉大なる御方が目覚めたってどういう──」
疑問に思ったアリスは不安な表情を浮かべながら問うてきた。
「──悪魔側のボス、ルシフェルと戦ったんだ。でも、全くと言っていいほど歯が立たなかった」
あの力は異常だ。
僕の神聖魔法を悉く力技で捩じ伏せ、一太刀もルシフェルに入れることが出来なかった。
彼が本気で戦ったら、僕は間違いなく死んでいた。
「ウィルですら歯が立たないなんて……」
「まぁ、今のウィルでは歯が立たないのは当然だね。君はまだ真の力に目覚めてない」
「…………真の力?」
「まぁその話はこの後話すことにするよ。それよりも、問題はルシフェルだ。彼が目覚めたことによって、少々厄介な事になってきた」
僕がこの世界に転生してきて厄介なことだらけではあるんだけど、それ以上に厄介なことが発生したということなのか?
「厄介といえば厄介なんだけど、もちろん──私が対処すれば丸く収まるんだが──」
「──勿体ぶってないで早く言え」
「ウィルッ!! メヒア様になんて口の利き方をするの!」
「ノエルの言う通りじゃ。不敬にも程があるぞ」
まずい……。
メヒアを信奉している二人の前で言う口の利き方じゃ無かった。
ちょっと反省。
「メヒア様、大変申し訳ございません。ウィルにはちゃんと言い聞かせますので」
「だから良いって。ウィルの無礼は許してある。話を戻そう。天使がこの世界の存在に気付いた。もうすぐこの世界は戦場になる」
神が言いたいのは、天使と悪魔の最終戦争、ハルマゲドンのことだ。
前世でもハルマゲドンを題材にした作品とかは見てきたが、まさか──自分が転生してきたこの世界で現実味を帯びているなんてにわかに信じ難い。
「天使たちがこの世界に降り立ち、悪魔たちと戦争になったら、間違いなくここに住む生物は死滅するだろう」
すると──ノエルがスっと手を挙げた。
「申し訳ございません。メヒア様、天使とはどういう存在なのでしょうか」
天使の存在を知っているのはこの国内でも、王家に近しい人たちしか知らないんだっけ。
ノエルは元々エルフ王国で迫害を受けながら、今は亡き叔父、フリーゲル・カリオペに軟禁されていた。
天使の存在を知らないのも無理はない。
「天使とは私の子供たちだよ。ルシフェルも元は私の子供だ。元々人間たちを守護し私の代わりに導く存在として誕生させたのだが、一部それが気に食わない天使も居たようでね」
「それがルシフェル……」
「その通りだ。ルシフェルは、私に代わって神になろうとした。彼は私を敬愛していた。だが──それと同時に人間のことを嫌っていた」
でも──ルシフェルは破れた。
そして、千年もの長い間眠りについたのだ。
「破れたルシフェルと共に、再起を図るため一部の天使たちが天界を去った。そこには君たちがよく知っているベリアルも含まれている」
ベリアル────
ベリアルも元は天使と有名な話だが、僕たちトゥルメリア王家には、とても因縁の深い相手。
そして僕が最初に討ち果たした悪魔でもある。
「もう一つ疑問があるのですが、天使たちはこの世界に気付いたとおっしゃいましたが、この世界にも別の世界は存在するのですか?」
お、ノエル、そこに気付くとは勘がいいね。
でも──僕が別の世界から来た転生者ってことは伏せておいてね。
それ言っちゃうとみんな混乱しちゃうから。
『わかってるよ──君の正体は伏せておく』
スっと神の声が頭に入ってきた。
この空間だと僕の思考も聞こえちゃうんだっけ。
でも、その言葉が聞けて安心したよ。
「もちろん、別の世界は存在する。悪魔はその別の世界からやって来た。どうやって見つけたのかは分からないけど、どうせ悪魔のことだ。行き当たりばったりで見つけたのだろう」
「その別の世界って、どんな世界なのですか?」
「つまらない世界だよ。常に人々は争い、私に対する信仰は薄れ、魔族も亜人も魔法も無い、人間が支配する世界だ」
前世の僕はその地球で生まれ育ち、死んでこの世界に転生した。
神が言うように、地球に生きる人々の大半は神を信じなくなった。
いや──神秘的なものを信じなくなってしまったのだ。
化学が進歩し、非科学的なものは淘汰、検証され解明されてしまった。
神秘的な出来事をオカルトとしてまとめ揶揄し排除してしまったのだ。
「だから──天使も悪魔も存在を否定され、やがて私の存在も人間が造った創作物として片付けられた」
僕も前世で生きている時はそうだった。
神なんか信じてなかったし、説明がつかない現象も誰かの妄想だと片付て処理していた。
でも──この世界に来て、僕の常識は覆ってしまったのだ。
天使や悪魔は実際に存在していて、現に──目の前に神が居る。
これで信じるなというのも無理な話だ。
「人々の信仰心が薄れた世界で、ルシフェルを復活させるのは無理だと、悪魔は判断したのだろう。そして元いた世界を抜け出した悪魔たちは、ここを見つけたってわけだ」
「話の流れを整理すると、天使たちは天界を去った天使たちが反旗を翻さないよう、その世界で監視していたのに、いつの間にかその世界から居なくなって、躍起になって探しているということですね」
「そういうこと。やはりノエル──君は頭が良い。君に神聖魔法の祝福を授けたのは間違いじゃなかったね」
「ありがとうございます、メヒア様」
僕もそうではないかと予想はしていたから驚きはしないものの、やはり──悪魔という存在は厄介だし、いつ攻めてきてもおかしくない天使たちが迫っているのも厄介だ。
早くルシフェルをなんとかしないと、僕が大切にしている人たちが戦いに巻き込まれて犠牲になってしまう。
「話は分かった。でも──今の僕じゃルシフェルには勝てないんだろ? どうすればいいんだ」
「どうすれば……か。それは君次第かな、ウィル」
ここに来て僕次第ってあまりにも抽象的するぎるだろ。
やっぱりこの神いけ好かない。
頼りにならないしムカつく。
「わかったよ、そんなに怒るなって。全てをここで答えてしまったら、君の成長にならないし絶対にルシフェルは倒せない。だから言わないんだ」
「だったらヒントくらいくれたっていいじゃないか」
「もちろんヒントは与えるさ。ウィル──まず、サクラ王国に行け。そこにヒントが隠されてる」
サクラ王国──
確か、ノーマンが使っているアケチ桔梗流の発祥の地だよな。
そこに僕が強くなるヒントがあるのか?
「サクラ王国に居る、利三を頼れ。彼が教えてくれる」
利三って、明智光秀の筆頭家老じゃん。
明智ゆかりの地なのだろうか。
もしかして、本当に明智光秀が転生したの?
ありえない話ではないけど、信じたくはない。
織田信長は有り得そうだけど。
「利三に私がよろしくと言ってたのを伝えておいてくれ。きっと利三も喜ぶ」
「わかった。伝えておくよ」
神は姿勢を正すと、身体をお父様の方向に向けた。
「さて──ジェフリー、次は君の話だ。君を呼んだことで察しは付いているだろうが、もう分かるな」
「はい────ワシは自ら国王の座を辞し、息子のウィルに王位を継承させます」
それは──国王であるお父様が、神に王位を継承する宣言だった。
でも、僕はこれから生きるか死ぬかの戦いになる。
このタイミングで王位を継承しても、まともな内政が出来るとは思わない。
「待ってくださいお父様、僕にはルシフェルを倒す使命があります。今の状況で王位を継承しても王としての務めは果たせません」
「そうじゃな。お前でなければルシフェルは倒せん。だからその為に、メヒア様はここにアリスも呼んだのじゃ」
その為にアリスも呼んだ?
ダメだ、話が全くもって分からない。
「確かに──ウィルが言うように、ウィルには使命がある。その状況で王位を継承しても内政がガタつくのは容易に想像できる」
「だから私を呼んだのは、ウィルがルシフェルを討ち果たすまでの間、代理で国王の責務を果たすということですね」
「そうだ。わかったかウィル」
納得せざるを得なかった。
そんなことはお父様も神も織り込み済みで、僕を納得させる為にアリスもここに呼んだのだ。
これは一枚食わされた。
「良いかウィル。お前は存分にルシフェルと戦うのだ。それまでの間、王国はアリスに任せろ。これはワシからの最後の願いじゃ」
そんなこと言われたら断れないじゃないか。
別に国王になりたくないわけじゃない。
その覚悟はとうに決めてある。
僕はお父様が快復の兆しがあると聞いた時にホッとした。
ただ──国王になる前にルシフェルを倒したかったのだ。
でも、アリスが代理でこの国を治めてくれるのなら、断るのは道理に反する。
僕は神の前に跪いた。
「メヒア様、この話有難くお受け致します。必ずやルシフェルを討ち果たし、トゥルメリア王国を立派な国にします」
僕はこの世界を守る義務がある。
ルシフェルを倒さないと、天使と悪魔の戦いが勃発して僕の大切な人たちが犠牲になってしまう。
それだけは避けたい。
だから僕は改めて覚悟を決めた。
大切な人たちを守る為にも、退屈しない日常を守る為にも、必ず──悪魔たちを討ち果たすと。
「良く言ってくれた。──聞いていたな、アウナス」
「もちろんでございます、お父上」
いきなり目の前にアウナスが現れた。
アウナスは神に対して頭を下げている。
「お前────爆弾の解除はどうしたんだ」
「心配すんな、もう終わってるよ」
それならまあいいけど、でも──悪魔であるアウナスがここに居るなんてどうしてだ?
ここには居られないはず──
「悪魔のお前がなんでここに居るんだよ」
「勝手に悪魔と決めつけなんな。まぁ、確かに悪魔だったことは認めるが、お父上の命で敢えて悪魔になってたんだ」
「それはどういう──」
「ささッ────もう時間だ。あとは戻った時に話してくれ。私は疲れた」
「ちょ──ッ、メヒア──」
視界が白んで行くのが分かる。
神との距離はどんどん遠くなって行った。
「大丈夫だウィル。私はお前を信じている。世界は神聖の名のもとに救世主を求めている。1000年の時は刹那。さすれば──救世主の元に世界は安寧に向かうだろう」
「それはどういう──」
完全に視界は真っ白に包まれた────
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